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桃がわたしをそうさせたのよ

桃のエロさの源はなんだろう。「お尻に似てるから」、みたいな、単純な話じゃない気がする。

もちろん桃さんとおっしゃる人間のかたのお話をしているのではなくて、果物の話である。申し訳ない。そのうえで申し上げざるをえない。桃はエロい、と。

「桃ってエロいよね」と思っているのは私だけではないようで、何で読んだんだったか、古代中国についての読み物にも「桃娘(タオニャン)」の話があったと思う。いわく、女児が生まれ、育ち、乳離れをしたら、桃を食べさせる。桃以外は食べさせない。桃、桃、桃だけを食べさせ続けて、幼女へ、少女へ、ひとりの女へと育て上げる。桃だけ食べて育った娘、だから桃娘。その肌からは甘い香りがして、長生きできずに儚く死んでしまうという。

実話かどうかはわからない。実話じゃないといいなあと思うレベルのえげつない話である。あと桃娘、たぶん反抗期かなんかに桃以外のものを盗み食いしてるよね? だってさ、ひとりの人間の人生がそんなにも他人の妄想通りになるわけがないじゃん。なめんな。

ということで桃娘育成法の考案者に対しわたくしはややキレているのであるが、同時に、正直、ぶっちゃけちゃうと、「同志よ!」感を抱いてしまっていることも否めない。そうだよね。桃。そういうこと妄想しちゃうよね〜。なぜかそれさ、「メロン娘」でも「バナナ娘」でも「みかん娘」でも成り立たないんだよね。桃こそなんだよ。桃という果物だから、桃という果物こそが、うちら人間にさ、そういうこと考えさせちゃう何かを持っているんだよね。桃、あいつらさあ。

夏だ。

うちの冷蔵庫に桃がいる。五日くらいいる。シャリシャリの若い桃を食べるのが好きな気持ちもわかるけどわたしはダルそうな桃が好きだ。諦めた感じの桃が。古くなって少しシワがよる。食べよう。産毛の生えた薄皮が、引っぱるだけで、ぴーっと剥ける。まんまる、まっしろ、まるはだか。かじりつく。やわやわで、舌だけでつぶせる。けだるい、ぼんやりとしぶい果汁。

最後に残る桃の種には、ほんとは、毒があるらしい。

どこまでもエロいやつめ。
それはきっと、死なない程度にしびれる毒だ。

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