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憧れのあの人は、今日もあのことを語らない

原作7本、映画8本ものボリュームを持つ「ハリー・ポッター」。この長大な物語のなかに、国籍を超えていろんな人物が登場することは、誰もが知っているとおり。

だけど1ヶ国だけ不自然なくらいに存在が描かれない国がある。さて、一体どこの国だろう?

ぱっと答えられる日本語読者は、きっとほとんどいないはずだ。かくいう私も、ずっと気づいていなかった。大学時代にのめり込んだ英文学の授業で、先生に言われて初めて気づいた。


ハリポタシリーズで、不自然に存在が描かれない国。それは、アメリカ合衆国。アメリカ出身と明らかにわかるような人物はひとりも出てこないし、アメリカの魔法使いについての言及もない。

先生はクラスに問うた。古今東西の知識を超人的に網羅しているローリングが、「なんとなく」アメリカを忘れる・・なんてことはあるまい。彼女に限ってそんなことは。だとしたら、ローリングはなぜアメリカの魔法について一言も触れないんだろう。君たちはどう思う?

その授業で、「正解」のようなものは出されなかった。だってそのときには、誰にもわからなかったから。アメリカを舞台にした、新しいシリーズ「ファンタスティックビーストと魔法使いの旅」が公開されたのは、私がその授業を受けてから3年後のことだった。



語らないことは、ときとして、語ることと同じくらい雄弁だ。

上の例は小説だったけど、なにもフィクションの世界に限った話じゃない。毎日ふれているSNSだって、口からこぼれ落ちる言葉だって、同じだ。


たとえば、フォロワー数が圧倒的に多い人がいたとして、その人が決して「フォロワー数」という言葉を使わないとしたら。「フォロワーの増やし方」という話を絶対にしないとしたら。そこにどんな気持ちがあるだろう。


もちろん、こんなのはすべて憶測にしかならない。深読みが思い込みに変わっていくのはとても危険であることも、覚えとかなきゃいけない。

それでも、誰もが「発信」できる時代だからこそ、自分が何を「言わない」か、ちょっと考えてみようかな?・・・なんて真面目なことを思ってしまうのは、仕事初めの月曜だからかな。

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