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マルリナの明日 【女たちの邪魔をするな】

男たちの暴力に立ち向かう一人の女性、マルリナの旅を描いたインドネシア映画。
荒野を行くマルリナのあまりにもシブくて強靭でカッコいい姿に、「マカロニ・ウエスタンならぬナシゴレン・ウエスタン」とも呼ばれる話題作です。

日常の不条理を打ち破る痛快さ

夫を亡くしたマルリナの家に、ある日突然男が押し入って、仲間の男たち7人でマルリナの金と家畜をすべて奪い、皆でマルリナを犯すと宣言します。
全財産を奪われてしまったマルリナは、命じられて男たちのために食事を作り、毒を盛ります。なんとかその場にいる男たちを殺したものの、まだ家畜をトラックで運んでいった残党がいる。彼らが戻ってくる前にこの場を離れなければならない。
マルリナは殺した男の首を持ち(なんで生首が必要なのかは正直よくわからなかった)、警察で正当防衛を主張しようと旅立ちます。
マルリナの旅を助けてくれるのは、道中で出会う老若の女性たち。
とくに、妊娠中のマルリナの女友達ノヴィは、臨月の体をおしてマルリナ助けてくれる熱い友情と活躍を見せます。

っていうのがだいたいのあらすじなわけですが、正直に言ってしまうと、後味としてはよくわからなかった…!

『マッドマックス 怒りのデスロード』のような女の怒りを表出する力強さもありながら、MMFRのエンタメ性の強い感じとは違い、淡々と展開し、詩的な雰囲気も漂わせます。

所々に「えっそんな展開!?」と驚かされる不可解な場面があり、トンデモのようだけれど、むしろ現実的なようにも思えてきます。
日常の不条理というのは、もしかしたらこんな風に起こるのかもしれません。この世界の不条理で残酷な事件における、実はこれは、とてもリアルな描写なのかもしれない。

しかしリアリティを表現し問題提起する作品かと思えば、スカッとする殺しのシーンの痛快さは、娯楽作品らしくもある。

どこか古いイタリア映画を「よくわからないな」と思いながらも、妙に気に入って何度も見てしまうような味わいがあります。やはりマカロニウエスタンに似ているのか。
誰かと一緒に見たり、人に薦めたりすることもなく、一人でその味を何度も何度も噛み締めたくなる映画です。
「人に薦めたりすることもなく」ってレビュー書いてる時点ですでに矛盾してますが(笑)

殺しと友情

とにかく素晴らしいのは、マルリナが男を殺すシーンと、ノヴィの友情。
そこを見るためにDVDを買って何回もリピートしたいくらいです。

マルリナの武器は毒とナタ。その手ぎわはまるで必殺仕事人の様相です。
とはいえ、普通に村で暮らしていただけの女性であるマルリナが、この状況で何も被害に遭わないわけではありません。そこはなかなか見ていて怖いし辛いシーンです。
しかし、どんなに酷い目に遭っても生きることを諦めないマルリナの強さ(物理的にも強い)には熱い気持ちにならざるをえません。

ノヴィは、酷い目に遭って人間不信気味なマルリナに、ずっと親切にし続けます。そのせいで巻き込まれても、自分の親切を悔いたりはしません。

私はインドネシアに一度だけ行ったことがありますが、見返りを求めないシンプルな親切心を持っている人にたくさん出会いました。ノヴィの姿はそんな優しいインドネシアの人々に重なります。

一方で、インドネシアでもやはり日本と同じように女を殴り脅かすクソ男がいて、性暴力をテーマに表現者が作品を作らなければならない現状があるのだ…ということも、考えさせられます。

生き抜くため茨の道を行くマルリナと、身重のノヴィに訪れる衝撃の結末とは…?

この映画は、その後の未来は推測できない終わり方をしているのですが、マルリナとノヴィがこれから男たちに阻害されることなく、2人で一緒に生きのびていってくれることを願わずにはいられないラストとなっています。

渋谷ユーロスペースで上映中ほか、東京以外ではこれから上映が始まる地域も多いようなので、ぜひチェックしてみてください!

文・宇井彩野

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