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それじゃズルだから…

小学生の男の子が、アクセサリーをジッと見つめている。

何か興味深い物でもあったのだろうか?とあまり気にしていなかったのだけれども、しばらくたってもまだ同じ場所でジーッと眺め続けている。とても真剣な面持ちで。

側にいた彼の先生が何がそんなに気になるのか、と尋ねると。「来月が誕生日のお母さんにあげるプレゼントにしようと思って、どれを買おうか悩んでいる」という答が返ってきた。

彼はそこからさらに10分悩みに悩んだあげく、1つのピアスを手に取って購入した。そんないじらしい姿に何かしてあげたくなり、「一緒にプレゼントしてあげて」とエイジング加工したハーバリウムのカードを添えた。

しかし、いったんその場を離れた後。しばらくして、また彼が現れた。同じ場所で同じようにジーッとアクセサリーを見つめている。そんなに興味があるのだろうか?綺麗な物の好きな子なのだろうか?

気になって声をかけてみると、本音がぽろりと漏れた。

「本当はピアスじゃなくて、このネックレスがお母さんの好きな色を使ってあって…特に色の組合せ、青と黒とピンクがね。すごくいい。でも僕にはめっちゃ高くて買えなかったから…」

そうだったのか。

ネックレスはチェーン部分が18KGPのものを使ってあるので、ピアスの倍近くの金額だった。そのピアスだって、いくつか並べてある中で最も手の込んでいる値段も高い物だった。だから小学生のお小遣いでネックレスを買うには、手持ちではちょっと足りなかったかもしれない…。

そういえば自分も、彼と同じ年頃に似たような行為をしたことがあった。

近所の服飾雑貨店でダイヤのネックレス(子供視点)をみつけて、お小遣いを握りしめてこっそり母への誕生日プレゼントにしたのだ。(詳細はこちらの記事へ)

あの時の誇らしげな気持ちを、思い出した。母を喜ばせる、最高のプレゼントを手に入れたと思った時の気持ちを…

だから、少し迷ったけれど「良かったら内緒でおまけしてあげるよ?さっきのお釣り分くれたら、残りはサービスするから。」と声をかけた。きっと彼は喜ぶだろうと思って。だけど返ってきたのは「でもそれじゃズルだから…ダメだよ…」という言葉と、悲しそうな笑顔だった。

きっと、真面目で優しい子なのだろう。

どう言えば、彼に「これはズルとは違うんだよ」と伝えられるんだろうか…と迷っているうちに。「私もさっきハンコ屋さんでサービスしてもらったよ!お店の人が言ってくれたらズルじゃないんだよ!」と、隣で見ていた彼の友達らしき女の子がサッと口にした。

小学生に負けた大人は、心の中で「グッジョブ!」と親指を立てた。

男の子は「信じられない!」と最初は女の子を非難したけれど、女の子に説明されていくうちに納得したらしく…そこで自分がチャンスを逃してしまったと気づいたのだろう。愕然とした表情に変わったところで、すかさず「だからズルじゃないけん大丈夫、良かったらどう?」ともう一度たたみかけてみると…

今度こそ彼は、心からの良い笑顔になった。

* * *

とはいえ、先ほども書いたけれど…本当は、少し迷ったのだ。ズルとは思わないけれど、自分の気持ちひとつで安易に値引きしてみせるのは。彼にとって良いことなんだろうか?と。

場が違えば相手が違えば、そう簡単に価格を下げたりはしなかっただろう。素材探しから何時間もかけ、イメージを呼び起こすにも時間がかかり、形にする手間もかかっているのだ。買い叩かれるのは困る。ただ一方で相手が大人だったとしても…もし気持ちが動けば、状況次第では似たようなことをしたかもしれない。

後からもう一度考えてはみたけれど…結局は正しいも間違っているもない、それを決めるのは自分だった。何を信じるか何を良しとするか、答は決して1つではない。私達はそういう世界に住んでいる。

その時の私は彼に子供時代の自分を見て、助けたいと感じたからそうした。良いも悪いもなく、ただ気持ちが動いたから。

ただそれだけのことに、頭でこねくり回した理屈はいらないのかもしれない。

だって。きっとあのネックレスは、どれだけ高級なジュエリーよりも大切にされるはずだ。母が引っ越しをしても、子供が大人になっても、ずっと手元に置いていてくれたように…


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先週末に、英会話教室のオープニングイベントに参加させていただいた時のお話でした。撮影もしてましたが、こういう時は自作のアクセサリー等の販売もしてたりします。

写真や言葉と一緒で。作るって、自分の中にある何かを形ある物に変換していく作業なんですよね。写真が好き、書くのが好き、ハンドメイドが好き…というよりは。自分の中身を目に見えるようにする、その変換作業が好きなんだと思います。



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