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カメラと、写真と、春の宮島 - 後編

"写真で大切にしていること"というのは、わりあいに変化するものだ。

私的流行、とでも言えばいいのだろうか?短いスパンではそうでもないけれど、年単位で見てみると…構図だったり、光だったり、色味だったり。その時なりのこだわりがある。

今の自分で言うなら、「あ!を大切に」というのがそれだ。

ふと視線を向けた時に自分の中で「あ」と響くものがあれば、迷わずシャッターを切ってみる。他人から見れば何でもない風景だろう、パッと映える絵面ではない…そんな思考の説教臭い声は無視して、とりあえず撮ってみる。

すると初心に返ったような気分で、写真を撮るのがとても楽しくなった。

この写真なんて正直、頭では「良い写真になんてなるはずがない」とか「シャッターを切るのも馬鹿馬鹿しい、何が良いんだ」と考えたやつだ。

けれどこの景色を目にした瞬間、「あ」という何らかの心の動きが生まれたのはたしかだった。だから、迷ったけれどシャッターを切った。

そして、今こうして眺めてみれば…やっぱり妙に自分の心を惹くのだ。何の変哲もない風景なのだけれど、それでもなぜかどうしても好きなのだと心がざわめく。

* * *

昼食後は珈琲で休憩したい、という夫を置いて別行動。

人より体力的に劣っているくせに、気分だけで突っ走ってしまう所が自分の欠点だとはわかっている。でも気持ちの良さそうな春の山、という誘惑に抗えなかったのだ。

そういう訳で、白糸の滝までちょっとだけ弥山をハイキング。

呉の田舎の子だったので、山はわりあいに身近な場所だった。そのせいか弥山のように人が少なくて自然に囲まれた場所では、とても心が安らぐ。

降り注ぐ太陽の光、流れる水の音、小鳥のさえずり、時々視界を過る虫、そして木々に大きな岩達…写真を眺めているだけでも、その気配を思い返して「ほぅ…」と息をつきたくなってくる。

何が良いかはわからないけれど、何だか好き。

そんな景色を見つけるたびに、気儘に立ち止まってはファインダーを覗く。設定を調整してはシャッターを切る。

写真は、カメラは、やっぱり最高のひとり遊びだ。

* * *

フェリー乗り場で夫と再合流する為に、てくてく帰る道のりでもパチリ。

大鳥居の写真なんて、もう何度も撮っているのだけれど…天気や潮の満ち引きで表情が違うので、ついつい視線が引き寄せられる。

海と砂のグラデーションをどんなバランスで撮ろうかと夢中になっていたら、波打ち際で語らう観光客が視界に入る。
友人同士だろうか?くつろいだ空気がいいな、と後ろ姿をパチリ。

そのまま砂浜を歩いていると、今度は鹿が目の前を横切っていく。

風は少し冷たいけれど、日差しは温かく冬の寒さは既に和らいで。海は温かみのあるブルーに染まり、目にする人々は旅行客が多いせいか皆どこかゆったりとして見える。

今日という日が凝縮されたような1枚だ。


ひさしぶりのカメラ散歩は、思った以上に楽しくて。春の日差しは気持ちが良くて、あなごめしも揚げもみじも美味しくて。

「ああ、外に出るのも楽しいな」と引きこもり大好き人間に心底思わせるのだから、春の宮島は良い所なのだろう。

大層、充実した1日だった。
(しかし帰りの電車では山登りのツケで、バテてよろよろだった。そのぶん晩のビールが染み渡る美味しさだったので、良しとする。)



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広島で、大人から子供まで人物の出張撮影をしています。自然な情景を、その時間を…切り取って残したスナップ写真は、お客様だけでなく自分にとっても宝物。何かありましたら、ぜひどうぞ!

ユルリラム
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