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流行を捨てた大人

さて、「流行を知らない子供」はその後どうなったかというと。

中学から高校にかけては周囲に合わせる為に、似たようなことを続けてきた。ファッション雑誌を買う、芸能人を覚える、流行のドラマや音楽を追う…こうやって会話の種を増やしていく、というのは社交の一部であり新たな楽しみでもあった。しかしその楽しみと努力の割合は、いずれにおいても50:50だったように思う。楽しさ半分、努力が半分。どうやら心の底からの純度100%の楽しさではなかったみたいだ。

なぜかと言えば社会人になった途端に、どれもやらなくなったからだ。

学生時代を抜けてみれば。会社とは、世間の流行なんて追いかけなくても何も困らない環境だった。

カラオケで歌って喜ばれるのは流行歌ではなく、上司や先輩の世代に合わせた過去の曲だった。そういった曲を1つ2つ押さえておけば、後は好きな人達で盛り上がってくれる。学生時代と違って就業中に喋ったりする時間も短い、だからテレビも芸能人もわからないなりにちゃんと話を聞いていれば問題ない。そして世代が違えばファッション雑誌の話題も出てこない。

流行は洋服にだけ適度に取り入れていれば、十分に"普通"の範疇として存在できたのだった。

* * *

自分が縛られていた何かから解放されたのだ…と気づいたのは、環境が変わって何年も経ってからだ。

気づけば音楽は新曲を追わなくなり、好みの曲ばかりを繰り返し聞くようになった。(好きなものは軽く数十回は延々とリピートできるタイプだ、周りからは気が狂いそうだから止めてと言われるが)テレビもたまに海外ドラマや映画を見るか、フィギュアスケートの試合に気づいた時くらい。というか家にいる時にテレビをつけることがほぼなかった。音は活字を追う邪魔になる。

そんな生活が当たり前になってからやっと「ああ、学生の間はずっと努力をしていたのだな…」と知った。努力はしていたけれど苦労はしていなかったので、すぐにはそうと気づけなかったのだ。またそれらに楽しさを感じていない訳でもなかったので、むしろそれらを"好きなこと"と誤認していた節さえある。

でも今になって振り返ってみれば、それらはきっと生存戦略だった。

ひたすら活字を追っていれば満足で、図書館に入り浸るのが楽しくて、少年漫画が好きで、RPGゲームを飽きるまで何時間もやっていたい。そんなもので構成された自分の好きは、学校の女子グループの一員としてやっていくには何の役にも立たなくて。それどころか、排斥される理由になりかねなかった。共通項のない「あの子、変わってる」は、「私達の仲間じゃない」の同義のように思えた。

だからこそ彼女たちとの共通言語としての"普通"を獲得することに、ああも躍起になったのだろう。

この"普通"さえあれば多少の違いは個性として捉えられ、「話の通じる仲間」として扱ってもらえる。そんな風に考えていたのだと思う。勿論、趣味は違えど好みは異なれど友達と一緒に過ごす時間が楽しかったから…というのも大きい。しかし学校という世界で生きる為、その輪から外されたくはなかったという理由も確実にあったろうとも思う。高校生までの、あの狭い世界では、それは死活問題だった。班分けやペアを作る時、誰にも見向きされない…異物として扱われる…というのはひどく怖いことだった。

* * *

その後、大学に進学したら途端に周囲にいる人種が変わった。

興味の方向は様々で、些細なことで他人を排斥するような人はいなかった。選択授業で個人行動をするのも当たり前になった。さらに環境の変化に加えて、インターネットが一般に普及し始めたことで世界はどんどん広がり続け。おかげで今ではひとり旅もひとり映画もひとりラーメンも余裕で出来る大人になった。

それでもやっぱり、頑張っていたあの頃の自分の気持ちもよくわかるのだ。

インターネットすらまだ存在しない、県庁所在地ですらない、小さな地方都市で。家と学校以外に逃げ場のない世界で快適に過ごそうと思えば、朱に交わっておくのが出る杭にはならないのが最適だった。だからあの頃の自分のことは否定できない。それに若くて時間もあったから、新しい知識を得るのも悪くはなかった。

ただ「過去に戻れるとしたら?」という質問に対して、高校生までの期間を答えることはこれまでもこれからもないだろう。だってもう「自分自身の好き」をあの頃よりも沢山みつけてしまっている、広い世界も知ってしまった。だから学生時代のような努力を面倒がらずに楽しいと思える自信も、その狭い場所に留まり続ける自信もない。

既に、全ては変わってしまったのだ。
今は重ねた年月を、この変化を、喜ばしく受け入れている。


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合わせる努力はしていたけれど、それと同時に好きなことは好きなこととして勝手にやっていたので。こうして今の自分があるのかもしれません。

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ユルリラム
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