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写真とは、過去と未来を結ぶもの

周りの人の話を聞くに、どうやら自分は幼い頃の出来事をよく覚えている方らしい。振り返って、1番古い記憶は2歳の頃だろうか。

家の駐車場で砂遊びをした後で、バケツをそのまま放置していたら。仕事から帰ってきた父の車に轢かれて割れてしまい、悲しくて悲しくて大泣きをした。父も母も慰めてくれたけど、いつまでも泣き止まないので最後には「遊んだ後に片付けんかったあんたも悪かったんじゃけん…」と諭された。

家族で行ったぶどう狩りから帰ってきた時。母が持ち帰ったぶどうの一部を隣の家の人に渡しているのを見て、ショックを受けた。「なんでせっかく持って帰ってきたのに人にあげてしまうん!」と。母にそれを訴えたら、笑って「これはお裾分けって言ってね…」と説明された。(夫にこの話をした時には「食べ物に関して心が狭いのはその頃からだったんじゃね…」と半笑いで言われた。)

ある日縁側から外を眺めていると、庭にあった溝に赤い変な生き物がいた。びっくりして父を呼んだら「ああ、これはアメリカザリガニっていうんよ。日本のより赤色が濃いんよ。」と教えてくれた。

写真で眺める2歳の自分はとても幼く見えるけど、それでもこんな風に感情があって疑問があって言われたことをちゃんと理解していたんだな…と思うとなんだか不思議な気持ちになる。


3歳前後の思い出は。毎晩ぬいぐるみを抱いて眠るのに、朝起きたら腕の中ではなく布団の上に移動しているのがとても不思議だった。一緒に寝ていた祖父に「なんで外に出とるん?」と尋ねたら、たぶん適当なことを言われたのだろう。何だか釈然としなかった気持ちだけを覚えている。

この頃は父は単身赴任、母が妊娠中だったので…祖父とばかり過ごした記憶がある。ひらがな積み木で自分の名前の文字を教えてもらったり、お絵かきや字の練習用に裏が白いチラシをもらったりしていた。よく外にも連れ出され、祖父の知り合いに紹介された。公園では、この変な顔のついた柱はトーテムポールというのだと教えてもらった。

弟が生まれてからは。おしゃぶりが無いと泣きだすのが面白くて、わざと取り上げてみて怒られたり。祖母が弟を呼んだのに自分が先に駆け寄って抱きついて、弟を泣かせたりしていた。(ちょっと意地悪なお姉ちゃんだった)

4歳の頃は、祖父の家を出て山の麓で暮らしていた。庭に生えている木がイチジクというのだと父から教えてもらって、実が熟したら一緒に食べようねと約束をした。この年のクリスマスには母が茶色と白のパンでお洒落なサンドイッチを作ってくれた。正月は向かいの遠縁のおばさんの家で、石臼を使った餅つきを見た。

1歳から5歳までは、毎年のように引っ越していたおかげだろうか。こんな風に、今でもどの記憶が何歳の時のものだったかわりとハッキリ思い出せる。

でも、たぶん理由はそれだけではない。思い出と共に沢山の写真があったから、だからこそこんなに記憶がしっかり残っているのだ。


母方の祖父はカメラ好きで、初孫である自分は幼い頃からことある毎に写真を撮ってもらっていた。

幼稚園や小学生の頃は祖父の家に行くと、何冊もある自分の名前を冠したアルバムを繰り返し眺めたものだ。ひとりでじっくり眺めることもあれば、写真を見ながら家族に思い出を話してもらうこともあったし、ぼんやりと残る自分の記憶を披露して「そんなことも覚えとるんか!」と両親を驚かせるのも好きだった。

こんな風に写真を通じて幼い思い出を振り返る機会が多かったからこそ、大人になってもまだしっかり記憶に残っているのだと思う。

だから子供の頃の写真やアルバムは、大人になった今も宝物だ。若い頃の父と母と、懐かしい祖父母の顔があって。遠い日の自分が色々な表情を見せている。

そしてこういった感覚があるからこそ…家族写真というものに特別な思い入れがあって、今のようなことをしているのかなと思う。

自分の撮った誰かの写真が、未来でこんな風に誰かの宝物になったらどれだけ嬉しいことだろう。成長の過程で、そしていつかあなたが大人になったときに…どうか再びこの写真を手にして欲しい。そこで感じるものがあって欲しい。いつも子供や家族の写真を撮るときは、そんな風に考えている。


時は過ぎ行くもので、記憶はさらさらと零れ落ち、愛した人々はいずれ去って行く。それでも、残るものはあるのだと…写真は教えてくれる。

写真そのものや、それをトリガーに蘇るいくつもの思い出達は…記憶の詰まった宝箱だ。年を重ねれば重ねるほどに、それらの価値は高まり手放し難いものとなる。さして幸せを感じることもなく当たり前のように過ごしていた過去の日々が、幸福に輝いていたことを知る。

ノスタルジーという優しいフィルターを通して眺める過去の写真は、どこか甘くて苦い。もう決して手が届かないけれど、それらがたしかにそこにあったことを伝えてくれる。

芸術よりもアートよりも、それこそが自分にとって最高の写真の在り方だ。


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広島で、大人から子供まで人物の出張撮影をしています。自然な情景を、その時間を…切り取って残したスナップ写真は、お客様だけでなく自分にとっても宝物。何かありましたら、ぜひどうぞ!

ユルリラム
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