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時には旅先のように

ある雨の昼間。
それは旅先の駅で、列車を待っていた時のことだった。

一人旅だったので、何をするとでもなく雨の風景を眺めていたら…目の前に並んでいた女性が突然、思い切ったような雰囲気で隣の列に駆け寄って。そこにいた背の高い男性に声をかけ、挨拶と握手をして戻ってきた。

突然の行動はいったい何だったのか。
もしかして、有名な人だったりするのだろうか。

少し躊躇ったけれど、湧き上がる好奇心のままに声をかけてみた。
「あのー…今のって、有名な方なんですか?」

嬉しそうな顔をした彼女は迷惑そうな顔をすることもなく、その人物が誰かを教えてくれ。そのまま電車がくるまでの数分間、お喋りに興じた。

彼女の大好きな人に会えたという、キラキラした笑顔は実に可愛らしくて…このひとときだけは、雨の憂鬱さがどこかに消え去っていた。

旅先というのは、どこか人を大胆にさせる。普段の自分であれば恥ずかしさの方が勝って…気にはなっても、わざわざ知らぬ相手に声をかけたりはしなかっただろう。

でも、そうであったなら。あの素敵な笑顔に見和ぐこともなく。
僅かに心浮き立つような温かな気持ちになることも、なかっただろう。

日常においても、時には旅先のように。
そんな風に生きてみるのも、いいのかもしれない。


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文字制限をスコーンとすっ飛ばしてた、#旅する日本語 投稿作品でした…。
いやはや、そんなものがあったとは!

蛇足ながら付け加えると…
これは3年程前に、生まれて初めて一人旅に出た時の体験談です。
その年の秋に写真サークルで開催したzine展での制作品「ぶらり、ひとり、たび」の中の一篇を、今の文体でリライトしました。

こうして振り返ると、ものすごく昔のことみたいに感じてしまいますね。
3年というのはあっという間でもありながら、同時にとても長い時間なのかもしれません。

この3年間で奈良、金沢、再び京都、台湾、そして久高島…と、沢山の一人旅をしました。

乗り物酔いエキスパートという身の上から、若い頃は人と一緒でも無いのにわざわざ長い時間乗り物に揺られて旅に出るなんて…と思っていたので。
この変化には、自分でもびっくりです。

人は、いくつになっても自分を変えられるものなんですよね。
大人になってからこそ、その事を何度も実感しています。



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