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起業ここから

2022年の岸田政権発足時に発表された骨太の方針の中に、「新しい資本主義に向けた改革」として「スタートアップ(新規創業)への投資」が明記されて以来、起業や、新規事業の立ち上げについての注目度が高まっています。

これから起業したい、新しく事業を立ち上げたいという方も多いのではないでしょうか?

起業家とは

「起業家」というとどのようなイメージを持っているでしょうか?
この文章を読んでいる方の多くは、既に起業家であるか、将来起業家になろうとしているのだと思いますが、スポーツ選手などと同じように、起業家に対するイメージを上手に描けているほうが、起業家として実績を上げるには有利です。
まずは、起業家について整理しましょう。

言葉の定義にそれほどの意味はない

「起業家とは」とインターネットで検索をかけてしまうと、起業家と実業家の違いなど、細かな言葉の定義を教えてくれるサイトがたくさん見つかります。

確かに、起業家に似た言葉に「実業家」とか、「企業家」などという言葉があります。ただし、これらの言葉を横に並べて違いを説明することに大した意味はありません。
なぜなら「起業家」と「実業家」は頻繁に使われた時期が違うからです。

30年程前は「起業家」という言葉や、そもそも「起業」という単語すらいまのように頻繁に見かけることはなく、いまの「起業家」とほぼ同じ意味で「実業家」という単語を使っていました。また、特に若くして自分で事業を営んでいる人を「青年実業家」と呼んで、テレビや雑誌などのマスメディアがよく取り上げていました。

ただし、必ずしも自分で事業を立ち上げたわけではなく、親の事業を継ぐなどした人も「実業家」の中に含めて語られていました。

そして、この「実業家」に対して、企業の中で実績を積んで出世し、会社を経営するようになった人のことを「企業家」と呼んでいたのです。

当時は会社を辞めて自分で事業を立ち上げることを、あまり「起業する」とは言わず、「脱サラ」と呼んでいました。

もちろん、正式な文章で「脱サラ」とは書けないので、「起業」とか「創業」などの単語も使われていましたが、これらの言葉も大した違いはありません。

1990年代から、アメリカのシリコンバレーを中心に起業ブームが起こり、やがてそれが日本に伝わってくる際に「entrepreneur:アントレプレナー」の訳語として「起業家」という言葉が広く一般的に使われるようになって、いまのように「起業」「起業家」という単語が広く使われるようになりました。

「起業家」という言葉が使われるようになると「実業家」という言葉はあまり使われなくなりました。

親の事業を継いだ人は起業家ではありませんが実業家とは呼んでもいいはずです。しかし、いまは、親からに限らず、既存の事業を引き継いだ人のことを指して、「事業継承者」、あるいは「事業承継者」などと呼んでいます。

「起業家」という言葉の台頭とともに「実業家」という言葉を見かけなくなったということは、やはり多くの人がほとんど同じ意味で使っていたということでしょう。

「実業家」という言葉が消えていくとともに、同時期に使われていた「企業家」という言葉も使われなくなっているのは、単に音が同じでまぎらわしいというだけではないように思います。

ビジネス用語には、このように、流行った時期が違うだけで、ほとんど同じ意味を示す言葉が沢山あり、また、それらを並べて細かな違いを再定義している文章も沢山あります。素直にそれらを読んでしまうと、細かな違いを厳密に使い分けないといけないように思い込んでしまいますが、本質的にはあまり意味がありません。

誰かをイメージしてみる

さて、これからが本題です。起業家のイメージについて考えます。
あなたは起業家と聞くと、誰を思い出しますか?

  • スティーブ・ジョブズ(Apple)

  • ビル・ゲイツ(Microsoft)

  • マーク・ザッカーバーグ(Facebook)

  • ジェフ・ベゾス(Amazon)

  • イーロン・マスク(SpaceX, Tesla)

パッと思いつく起業家の名前としては、こんな感じでしょうか?

  • マット・マレンウェッグ(WordPress)

  • アラシュ・フェルドウシー(Dropbox)

  • デイヴィッド・カープ(Tumblr)

こんな名前も出てくるかもしれません。

共通するイメージとして、とにかく派手に立ち回って、所かまわず奇抜で大胆な発言をする人。どことなくそんな雰囲気を感じている人もいるかもしれません。

とはいえ、もう少し彼らを通して、一般的な起業家のイメージをリストアップしてみると……

  • 革新的である
    常に既存のビジネスを超えることを目標とし、斬新なアイデアで、市場での差別化を図っています。また、革新的な商品やサービスを生み出すことで、常に市場をリードしていきます。

  • リスクを恐れない
    常にリスクを負うことを覚悟しています。新しいビジネスを立ち上げることで、失敗する可能性もありますが、それを承知の上でリスクを取ることで、成功を手にしています。

  • ビジョンを持っている
    自分が世の中をどう変えたいのか、自分が作る商品やサービスで、世の中がどう変わるのか、常にイメージし、アピールします。

  • ビジネスセンスがある
    成功するためにずば抜けたセンスを持っています。商品やサービスを作る上でのアイデアを生み出し、マーケットニーズを熟知し、市場を的確に分析して、ビジネスを成功へと導きます。

  • マネジメント能力がある
    社員を常に自分に惹きつけ、組織を活性化した状態に維持し続けるセンスがあります。会社をマネジメントする上では、人材の選定や管理、財務管理などでも様々なセンスを発揮します。

こんな感じでしょうか?

これらは、確かに間違ってはいなくて、このようなイメージを持って日々起業家として振舞うことは重要です。

ただし、これはあくまでもテレビや雑誌などのマスメディア、あるいはインターネット上に書き込まれている表層的なイメージであって、実際にはもっと大切なことがあります。

重要なこと

起業家にとって大切な仕事があります。それは資金調達です。アイデア一つで、ゼロからイチを生み出すといっても、アイデアを商品やサービスとして世の中に出すには必ず資金が必要です。

最近はいろんなところでピッチコンテストや、それに準じたものが行われているので、資金調達というと、大きな会場でKeynoteかPowerPointの資料を投影しながら、Gパン白Tシャツに黒いジャケットを羽織った、もじゃもじゃ頭の青年が片手で目の前の空気をかきながら、意気揚々とプレゼンテーションを行っている姿を思い出すかもしれません。

少し誇張して書いてしまいましたが、実は、こういうイメージはそれほど大きく間違ってはおらず、このような場面を想定して自分の事業をわかりやすく説明できるように、日頃から考えていることを整理し資料としてまとめておくことは、起業家の大切な仕事の一つになります。ただし、ほとんどの場合、実際にプレゼンをするのはもっと地味な会議室です。

では、この資金調達のプレゼンをする、またはプレゼン資料を作る際に、最も気を付けておかないといけないことは何でしょうか?

筆者は昔、マッキンゼー出身のコンサルタントの大先輩に「ひとを説得するための3点セット」というものを教えてもらいました、このときの「説得」とは、何かを説明した結果、相手が納得して、こちらが意図した行動を取ってくれることを意味しています。つまり、投資家に対するピッチであれば、プレゼンの結果、自分の事業に出資してもらうことができれば「説得できた」とういことになります。
以下がその3点セットです。

  1. やらないと損する
    私の言う通りにしないと損しますよ。という内容を語ります。このままでは状況はますます悪くなるとか、将来大変なことが起こる、などというのもこれに当たります。

  2. やれば得する
    損しないだけではダメで、得をしますよということを説明します。周りを出し抜けるとか、投資に見合うだけの大きなリターンがあることを想像させる必要があります。

  3. やればできる
    夢物語ではなく、実際に実行可能な内容で、成功するために進む道は十分見えている。

ピッチで見られるプレゼンでは、残念ながら「1.やらないと損する」ばかりを熱く語って煽りまくった挙句、「2.やれば得する」を少し話して終わり、というものが思いのほか多いのです。

「3.やればできる」までしっかり語るには、技術的に実現可能であることはもちろんのこと、十分な事業計画を示すことが必要になります。

実は、この3点セットは投資家向けだけではなく、一緒に事業を展開していく創業メンバーや、後から雇った従業員に対しても重要で、中でも「3.やればできる」をしっかり語って、周りを安心させることが重要なのです。

目指すべき起業家とは

失敗を恐れず、変化を好み、新しい発想・着想と抜群のセンスで、世の中をどんどん変えていく。
そんなイメージの強い起業家ですが、そういうことをうまくやっていくために、投資家や仲間、従業員など、周りの人を安心させることに十分配慮できる人。
目指すべき起業家像とはそういう人であるべきです。


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