科研費不参加ペナルティ

9月になったので、科研費がらみのことについて、前から思っていたことを書いておきたい。

科研費というのは、文科省による一大研究助成であって、研究者が3年から5年くらいのスパンの研究計画を作って応募し、採択されるとその期間は毎年個別に研究費が交付される、という仕組みのものだ。毎年9月から公募が始まり、11月に締め切られ、結果は次の年に発表される(発表時期は種目による)。

だいたいどこの大学でも、研究者は応募を義務付けられていると言っていい。この時期、みんなどの種目に何を出すか考えて、チームを組んで研究計画書を練り上げ、大学事務局経由で応募書類を提出する。担当者でなくとも、なんとなくそわそわする時期だ。

で。

さっき、研究者は応募を義務づけられている、と書いたが、これについて、大学の姿勢としてちょっと問題だと思っていることがあるので書いておく。

大学は、一生懸命研究者に科研費等の競争的資金に応募させようとしている。なぜかというと、交付金が減らされているので、必要な研究費は外から稼いできてもらわないと賄えないからだ。応募した研究課題が採択されると、研究者に研究費が交付されると同時に、大学にも別に間接経費という名のお金が入るという利点もある。また、科研費の採択数が大学の研究力指標にも使われたりするので、ブランド力的な面で、ある程度とってないと格好がつかない、という意識もあるだろう。大学的には、研究者に科研費を取ってもらおうとする方向に動くのは必然的な流れといえる。

ただ、問題はその方法である。

研究補助者を増やすとか、仕事を減らして研究に集中しやすくするとか、研究を進めやすく、研究のモチベーションが上がるようなことをする方に力を入れるのであればいいと思うのだが、実態はそうではない。
みんな頑張って応募してね、という掛け声だけで、サポートを増やすことはなく(むしろ人員を削ったりしている)、制度的には、なんと、研究者が科研費に応募しなければ生きていけないようにする方向に構築するのである。
たとえば、大学によっては、科研費に応募することが学内の研究費を受ける条件になっていたり、応募しない場合には研究費を削られる、というようなペナルティがある。割り当たる予算が削られれば研究室やゼミ運営上の死活問題になるので、先生らは何かしら応募せざるを得なくなる。

これって結構酷くないかと思う。マイナスの効果のほうが大きい気がしてならない。なんでペナルティの方に発想が行ってしまうんだろうか。
前にどこかで書いたような気もするが、制度でもって人を誘導するっていう典型がこれだ。自由応募と言いながら、事実上の強制。こんなんでモチベーション高く研究なんてできないと思うし、研究費を減らされないためという動機で出す応募が質の高いものになるとも思えない。研究チームの形成がいびつになる恐れ(必要以上に分担者が増える等)もあってどうかと思う。
こういうのがほんとうに嫌だ。

この状況をわかりやすくnoteでたとえてみる。
note事務局が、ユーザーの有名文学賞への応募と受賞を増やすことを考えているとする。そのときに取る策として、ユーザーに対し文学賞への応募を義務づけ、もし応募しなかったらnoteやPC、文具は一切使うことができず、場合によっては、罰金を払わないといけないようにする、という規約を作るのと同じだ。
そんなことは馬鹿げているって、思うだろう。そんなことをしてそれが文筆活動の何のプラスになるのか、と。
研究者に対して、応募しないペナルティを課す、研究費を取り上げる、というのは、これと全く同じことで、信じられないかもしれないが、そういうことをして応募や採択を増やそうとするのが大学なのだ。見かけの数字を上げてほっとしたいだけで、研究者に対して、全然、愛も信用もないのだなぁとがっかりする。

こういうことをすれば、研究者のもともと少ない帰属意識をさらに低下させるだけだと思うし、もし、そんなことは承知のうえで、でも体面のためにそうしなければならないというのなら、ほんと、大学なんて何のために誰のためにあるんだろう。研究機関が研究のモチベーションや研究費削って何がしたいのかね。研究をコストだと思うなら大学なんてやらなきゃいいのだ。(運営側の人たちは研究機関だってそもそも思ってない人が多い気はするけれど)
お金も手間もかけないで手っ取り早く応募数を増やす方法がペナルティ付きの義務化なわけだが、そんな義務感で応募する研究がいいものになるわけがない。そうしないと応募が増えないというなら、それはできない原因があるのだから、そこをなんとかしないとだめなんだ。脅しでやらせるとか、そんなことなしに研究させてあげたいよ、私は。

あぁ、もっと優しい世界になってほしい。ペナルティで誘導とか、そういうのは、一緒に働く人相手にすることじゃないと思うんだよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?