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内田祥哉・窓と建築ゼミナール補講 雑感

昨日は内田祥哉・窓と建築ゼミナール補講に参加。書籍化のシリーズから参加させてもらっているが、今回も新しく聞く興味深い話が沢山あり知的興奮にあふれた時間だった。ちなみに、今回のテーマは「和小屋の知恵とこれからの和小屋(和構法)」。

まずプレハブ住宅における可変性の問題に対して、"flexibility in time”"flexibility in planing"と整理(引用)し、問題は前者がないことだと指摘。プレハブ住宅の、外壁や構造部の修理・修繕の難しさは、自分でも最近やっていたのでよく理解できる。型式認定や大規模修繕など、普通にやろうとすると手も足も出ない。しかし、外壁や外壁下地は経年劣化をしていく。メーカー対応に任せれば何とかなるかもしれないが、その場合とんでもない見積りが上がってくる。だが木造住宅の場合には、外壁の更新だけでなく建物の形状そのものも自由に出来る(建蔽率・容積率に余裕があれば)。実際、大工に頼んで何度も増改築された一般的な住宅の話も交え、そのフレキシビリティーの高さに驚き、内田先生も木造を見直したという。そして、外壁や平面形状を自由に増改築するときの屋根に欠かせないのが和小屋なのだ。合掌造りや洋小屋(トラス)では、自由に伸びていく平面に追随した屋根をつくれない。だが和小屋は寄棟を基本としており、その組み替えで複雑な平面にも対応できる。これはまさに"flexibility in time"を内包したシステムである。しかし内田先生は、日本の木造住宅が完全に優れたものだと言っていないと釘を刺す。やはり、耐震性と耐火性には問題を抱えていると。柱や小屋組は木造、床や基礎はRCの建物が、奇妙だが一番合理にかなった構造ではないかと仰っていた。(実際にみなとみらいにある倉庫で、同じような構造のものを見たらしい)

この後、畳モジュールの話に展開される。畳は実際には少し大きめにつくって押し込んで嵌める「締まり嵌め」を想定して作られている。これは大工がつくった床枠に施工誤差が必ずあるからで、その施工誤差を埋めるように畳屋が締まり嵌めで合わせて隙間を埋めていく。畳のモジュールも、京間・中京間・江戸間それぞれあるが、いずれも厳密には一定の寸法がなく微妙に異なっているという調査結果があり、この微差も畳屋が締まり嵌めで合わせていくからなのだという。これがヨーロッパになると、畳ではないが後にはめる材は、躯体の施工誤差を埋めようという配慮などせずに隙間だらけになることも多々ある(内田先生はその例えに、シャルル・ド・ゴール空港を出していた)。日本では手順が大切で、大工が構造や床・壁・天井をつくったあと、その誤差を畳屋や建具屋など後に入る職人が埋めるようにつくる。工事が進むにつれ扱う寸法が細かくなっていき、精度が上がっていくつくり方が成されている。また手順による精度のレイヤーとは別に、どんな素材でも乗る左官材が開発されれば、最後に塗りこめることで隙間を埋め尽くすことができるとも仰っていた。今はコーキングに頼っているが、素材の合う合わないがあるので左官材の発達は重要といえる。いずれにせよ、畳や建具や左官などの2次的要素の柔軟性と、施工手順のシステムが、和構法をオープンシステムたらしめる重要なポイントになっているのではないだろうか。

施工手順や締まり嵌めの話は、本(窓と建築ゼミナール)ではない話だった。この他にも、青木淳さんが内田先生の建築を日本料理に例えてみた話など、ディスカッションでも興味深い対話の連続で書ききれないですが、とりあえずこの辺りで。

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