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きっと、あなたは自分の夢さえ忘れてしまうから

「ごめん、子供の体調が悪くていけなそう」

年末年始の帰省中、ゴハンに行こうと約束をしても、
相手の子供の体調しだいでは、急にキャンセルになることがある。

その知らせが来るたびに、
彼女の身体は、もう彼女だけのものではないんだなと思う。

独りでいるのは慣れていた。
ドタキャンにも慣れている。
独り身は時間の融通がきく。こういうのは、助け合いだ。
…と、思うことにしよう(苦笑)

独りでいるのは慣れていた。
しかし、地元には、スタバがない。
ドトールもない、ミスドもない。
ネットカフェもなければ、サウナもない。
実家の付近で一人で過ごすことは意外にも難しい。
東京で一人でいることは、簡単なのに。

そうして僕は、夜に男が一人で出歩いても怪しまれないスポットを思い出した。

映画館だ。

我が町は、ミスドもスタバもないのに、映画館はある。偉大だ。

「きっと、あなたは自分の夢さえ忘れてしまうから」

別れ際に、彼女に言われたことを思い出す。
ノスタルジー。
こいつは、出会いたくないときでも、気づくとそばにいる。

僕たちは、映画を見終わったのに、全然関係ない話をしていた。

「忘れるわけないじゃん、自分のやりたいことを」

「だって、私といるとき、ずっとSNS見てる」

「そんなことないよ」

「いつも、ネットで話題のニュースを教えてくれる」

「だって、楽しいし…」

「でも、知らないことを罪のような言い方するよね」

「ただ、共有したかっただけで」

「じゃあ、いまの映画の感想は共有しないの?」

「…するよ」

「じゃあ、して」

「…えっと…」

「ほら、忘れた」

「…え?」

「なんでこの映画を見ようと思ったの? どうして私と一緒にいるの?」

そのとき、久しぶりに彼女の顔を見た気がする。でもそのときの顔は、笑顔ではなくて、少し哀しい表情だった。

ノスタルジーィィ。
別にそんなことを思いだしたくて、映画館に来たわけではないのだよ。
だけど、そんな思い出したくないことも、忘れていたんだね。

でもね、ノスタルジー。
僕らは、またいろんなことを忘れていくんだ。
もしかしたら、自分の夢さえも、そして希望も。

情報が爆発している現代において、他人の夢や希望を、
まるで、自分の夢や希望にすり替わって生きていくように。

そのときは、また思い出させてほしい。
だって、きっと、僕は自分の夢さえ忘れてしまうから。

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