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粉々に花に負けた鼻氏

来たことのない町の駅で
乗ったことのない路線の電車を待っている。
昨日から患った花粉症に苦しまされながら
やけに広く作られたホームで待っている。
今日は旧友に会うので色々な意味でむず痒い。
人もまばらなその町では学生とご年配を主に見かけ、
その学生は大抵声が大きく、大抵が活発的だった。
まだ垢抜けていない気がするが、きらきらしている。
やけに歩かされるけれどこの町は好きだと思った。
そんなことを書いている中、見慣れない色をした見慣れた塊が一瞬にして目の前を通った。
映画であれば髪が風に靡いたり、手を離した風船が空へ吸い込まれたり、鳥が飛び立つ映像が流れるような、
そんな刹那だった。
驚いた僕は一歩後退し、足を揃えた。


近所の大層な一軒家を構える人の家の庭には
これまた大層な梅の花が見頃を迎えている。
白く艶やかなその様子は自信の表れに感じる。
もし仮に今の僕が転生し、あそこに梅として天寿を授かったとしたって、
きっとあそこまで枝を広げられはしないと思う。
こんな陰気なやつ、お花見なんか楽しめる訳がない。
こうなるともう笑うしかない。

実家の近くの広場で一本だけ生えた、
つるつるの百日紅の木に無性に会いたくなった。


おわり

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