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平成31年4月30日に『箱の中の天皇』を読む

まもなく退位する今上天皇の眼前で、マリ(作者の投影)とマッカーサー元帥が激しいディベートを繰り広げる。象徴とは何か? 天皇とは何か? いろんな意味でキケンな領域に踏み込むプロットだけど、小説ならではの夢幻な表現とロジカルな討論劇の組み合わせで、政治的・思想的なキワどさを免れている。

「小説とはいえ、現役の天皇陛下を登場させて何を言わせるのか?」 という疑問にも、“お気持ち”談話の引用とミニマルな創作で、違和感なく応えている。そして最後は、読者である僕らの意識と行動に問いかけてくる。平成を振り返るうえで、格好のテキストなんじゃないでしょか。

戦争の傷をめぐる世界の旅をすること。傷ついた、傷つけた人々の前で祈ること。弱い人と共に在ること、弱った人、傷ついた人の手を取ること、助け合おうということ。混乱にあって、我を失わずにいようと励ますこと。天皇はそれを言葉で言うことができなかった(略)けれど、この天皇はそれを「体現」しようとしたのではないか。

#読書 #書評 #平成

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