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今年の10曲(2023年)

毎年書いている、この1年で聴いた曲の個人的な備忘録。去年のはこれ


Sampha - Spirit 2.0

今年いちばんを選べ、と言われれば、さすがに Sampha でしょう。長らくゲストシンガーとして名を馳せた孤高の天才が、ついに主役として羽ばたいた歴史的瞬間だった。

Sampha は昔からすごかった。一声聴けば唯一無二だとわかる。わかった。12年前に SBRKT の『Hold On』という曲を聴いて、俺はわからされた。いやー、ゲストでこんだけ存在感あるし、ソロを出した日にはめっちゃすごいことになるんやろな。と、予感した。

その待ちに待ったソロアルバムがようやく出たのが2017年。このアルバムがまた、ピアノ一本で Sampha が無双する、というストイックなスタイルで、孤高の天才感がいや増した。その年に出演した Tiny Desk Concert がこれ。1人で出てぶっちぎりのパフォーマンスをかます姿に圧倒される。

そんな Sampha が6年ぶりに Tiny Desk Concert に帰ってきたのを見て、ぐっときてしまった。今度は Sampha は1人ではなくて、バンド編成で歌って踊っている。仲間がいる。大団円ってきっとこんな感じなんだろうな、と思った。もちろん、大団円なんかではない。この音楽はこれからも続いていくのだから。



パソコン音楽クラブ − Day After Day feat. 高橋芽以

「宇宙人のいる生活」をテーマにしたパ音の4作目のアルバム。前作は個人的にはイマイチ好みじゃなかったというか、整ってるけどなんか退屈だな、と思っていたので、わちゃわちゃしている感じのパ音が帰ってきてくれてうれしい。アルバムの曲はどれもいいけど、どれか一曲選ぶならこれ。

ボーカルは、2021年頭に高校生テクノユニットとしてバズった LAUSBUB という2人組の片方で、パ音の曲の少し後に出した曲もセンスの塊で度肝を抜かれた。この曲は Twitter で流れてきて知ったもので、すごい若者が出てきたな、と思った。思った後で、これがあのテクノ高校生で、さらには、あのパ音のあの曲のあのボーカルで、と知った。点と点がつながる。宇宙になっていく。何を言っているのかは自分でもよくわからない。



DJ Shadow - Witches Vs. Warlocks

キャリアの初期にあまりにも革新的な作品を出してしまったアーティストは不幸だ。どれだけすごい作品を出しても、過去の自分の「革新性」と比較されてしまい、評価がなかなか上がらない。生ける伝説・DJ Shadow は、そういうタイプのミュージシャンだ。1作目『Endtroducing..... 』には時代を変える破壊力があったので、そこを基準にされてしまうと、ちょっとした傑作くらいでは霞んでしまう。

今年出たアルバム『Action Adventure』も、その高すぎるハードルを越えることはたぶんできていない。ただ、越えてないけど、意地というか洗練というか、単なる原点回帰なだけではないビートの強度を感じる。アルバム全体を通してドラムが心地いい。どの曲がいいとか特にないけど、あえて挙げるならこれ。どことなく名曲『Organ Donor』のバイブスがあるような気がして。


Tagua Tagua - Colors

なにで見つけたか忘れたけど、ブラジルはサンパウロの4人組。なんかやたら中毒性があって、今年の前半はひたすらリピートして聴いてた。そんな個人的大ヒットだったにもかかわらず、日本語はおろか英語でもぜんぜん情報がなくて、何者なのかはわからないまま年末に至る。

歌詞も当然ポルトガル語なので、何を歌ってるのかもよくわからへんのよね。例えばアルバムの中に『Starbucks』という曲があって、察するにこれは、スタバのおしゃれさの裏に隠された悲哀、巨大資本主義企業に心を許してはいけない、連帯して闘おう、労組をつくろう、みたいなことがテーマなのでは?、と思ったりするものの、機械翻訳にかけた感じなんか違いそうだった。わからない。わからないからこそ音として聴ける、みたいなよさはまあある。

ライブもよさげなので、来日してくれないかなとひそかに願っている。



Aiobahn - 宙でおやすみ (feat. 長瀬有花)

長瀬有花は、Local Visions という島根のヴェイパーウェイブに強いレーベルが今年、投げ銭方式でリリースしたアルバムがあって、「まあタダだし聴いとくか」くらいのつもりで買って(と言いつつちゃんと1000円くらいは払った気がする)流し聴いてたら、それが想像以上によくて名前を覚えた。「だつりょく系アーティスト」を標榜し、現実世界にも表れるバーチャルシンガー、らしい。

そんなわけでこのアルバムも今年よかったもののひとつではあるけど、この韓国在住のプロデューサー Aiobahn との曲を印象に残った一曲として選びたい。サビに向けて盛り上がりつつ、サビではちゃんと「だつりょく」する感じがなんか好き。



Hauschka - Inventions

プリペアドピアノ界のエース、Hauschka。プリペアドピアノが主役のアルバムとしてはたぶん5年ぶり?の『Philanthropy』は、だいぶミニマル寄りになっている。もともと「映画音楽みたい」とよく評されていた Hauschka は、2010年代後半は実際に映画音楽を何本も担当するようになって、そのせいなのか音がドラマチックになりすぎて個人的な好みからはちょっと外れていた。なので、またミニマルなアルバムが出てくれてうれしい。



長谷川白紙 - 口の花火

今年 Brainfeeder に電撃加入した長谷川白紙。そして、そこから出す最初の曲がこれ。はじめはピンとこなかったけど、ベースがあのSam Wilkesがだと聞いて、ミーハーなのでもう一度ベースに集中しながら聴きなおしてみた。すると、めっちゃ厚みのある曲やんけ、と思った。現金なもので。

『口の花火』の少し前に公開されたインタビューでは、長谷川白紙は「ベースが分かってきた」というような内容を語っている。『口の花火』は、どちらかというとベースの権威性にしっかり支えられることでカオスを乗りこなしている、という感じの味わいだけど、もしかしてこれは、これからグラデーションを見せていくに当たっての布石、みたいなものなんだろうか。

(略)低音というものが持つ、リズムを規定するというある種の権威的な能力に対し、「そうではない」という反抗の仕方しかできなかった。それが今では、低音というものが持つ権威性を解体するのか、もしくはそれをわざとらしく誇張してみせるのかというところにおいて、グラデーションを得られるようになってきている感覚があります。

https://rollingstonejapan.com/articles/detail/39718



ゆこぴ - 強風オールバック (feat.歌愛ユキ)

ボカロの曲を好きになることあまりないけど、これはどことなく耳中華みを感じてなんかいいなと思った(耳中華はボカロじゃなくてゆっくりボイスだけど)。歌詞に意味がない感じもとても好き。



yeule - inferno

シンガポール出身。今年出した『softscars』が Ninja Tune 移籍一作目。今年はじめて知ったので「ギターをやる人なんだな」というイメージしかなかったけど、ギターは、子どもの頃に辞めていたのをパンデミック中に弾きまくって、それがこのアルバムにつながっている、ということらしい。

インタビューでは、スマパンとか、『OK Computer』時代の Radiohead が好きと言ってて、納得感があった。あと、「あなたのメイクは日本のギャル文化に影響を受けてますか?」と聞かれて「深海生物に影響を受けてる」って答えてるのも斜め上で面白かった。

これもアルバムを通して全部いい感じだったので1曲選ぶの難しいけど、この『inferno』という曲が何となく耳に残った。これはギターじゃなくてシンセの曲なので、アルバムの中ではマイナーな感じはするけど。

当然、ギターを弾いている姿もかっこいい。



藤原さくら - 迷宮飛行

藤原さくらは音楽の趣味がめちゃくちゃ幅広くて、日曜深夜にやってるラジオ番組がめちゃくちゃ面白い。メジャーどころからワールドミュージック、さらには誰も知らないマイナージャンルまで。でもその割にやってる音楽はぶれないなあ、と思ってたけど、今作『AIRPORT』は違う。

『AIRPORT』というタイトルは、

今回のように誰かと一緒にトラックから作っていくのって、誰かと待ち合わせて、そこから出発していくみたいだなと思って。

https://realsound.jp/2023/05/post-1326948_2.html

というところからついたものらしく、実際、様々な方向性がこのアルバムの中に同居している。個人的にはシンセの音がけっこう好みな曲が多くて、アルバムまるごとを繰り返し流していた。中でもこの『迷宮飛行』という曲はいちばん実験的で、異彩を放っている。喧嘩の曲らしい(笑)


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