25歳のドロップアウト
十分だった。
1年とちょうど5ヶ月。
それだけあれば自分の才能を計るには十分すぎる時間だった。
希望に胸を躍らせて大学院の扉を叩いたあの日から約1年半。
おれはそこを去る決意を卒業を待たずに固めた。
誰に相談することもなく、ひっそりと。
朝7時。
ここ暫く狂ったように通いつめているカフェに吸い込まれる。
身体が覚えてしまった動きで淡々と注文を済ませ、お気に入りの3席のうちのひとつに座る。
やけに静かな店内を見渡し、スマホを確認すると、今日が土曜日なことに気づいた。
土曜の朝、社会はその回転を少しだけ緩め、人々は束の間の休息を貪る。
おれはそんな社会の曲がり角を曲がりきれずに遠心力に引っ張られるようにゆっくりとコースアウトしていったのかもしれない、
そんなことをぼんやり考えていた。
学校に行かなくなってどれくらい経っただろうか。
何か衝撃的で決定的な出来事があった訳ではない。
何となく足が遠のいた、という表現が正しいのかもしれない。
いつからか心のどこかで感じていた違和感が脳から背中を伝って足へ送りこまれ、
気づけば足は違和感にずぶずぶと沈んでいた。
本当はずっと前からその違和感に気付いていたんだと思う。
自分が切実にやりたいことと大学院へ通うことの乖離に。
でもその乖離を見たくはなかった。
向き合ってしまえば「辞める」という結論がでるのは分かっていたから、
だから気付かないふりをしていたんだと思う。
辞めると決めたら、親は悲しむし、友人たちからは哀れみの目で見られるし、教授からは白い目で見られる。
そんなのは分かっていたから。
そして一方で、自分の性格上、辞めたいと自覚してしまえばもうその感情を止められない。
そのことも同じくらいよく分かっていた。
続)
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