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deathcrash "Japan Tour '23 in Osaka"

 今年もあっという間に師走に入り、また例年の如く肌に突き刺さるような寒さを感じる季節になった。2023年12月6日、この日は珍しく寒さが控えめだったので、薄手の長袖シャツにナイロンジャケットを羽織り、空気が澱むほど暖房の効いた部屋を後にした。というのも、その夜には待望のdeathcrashの大阪公演が控えていたのだ。

 個人的に去年あたりからRed House Paintersにボディブローのような衝撃を受けてから、所謂Slowcoreというジャンル、その周辺に猛烈に惹かれるようになる。DusterやCodeine、BedheadといったSlowcoreを代表するようなバンドとそのシーンの全盛期は90年代で、現を抜かした考古学者のように時代の遺物に夢中になってしまった。しかし、そんな中、現役バリバリでSlowcoreをやっているdeathcrashというロンドンのバンドを知る事となる。2022年に発売された1stアルバム「Return」を聴くと、自分と世代の近い若者が奏でかき鳴らす鬱屈とした音楽に、彼らの事を自分の中でこっそりと英雄視するようになる。その感覚は今回のライブを観てはっきりと確信に変わった。

 一曲目から超名曲の「Sundown」が始まる。本人たちも言及している通り、彼らのアルバムはライブでの演奏をイメージして作られているので、アレンジというより、録音と寸分違わないような緻密で丁寧な演奏だった。しかし、展開は分かっているはずなのに、轟音が耳を包んだ瞬間、静から動のベクトルへと変わった瞬間、思わず涙が浮かんでしまった。その後もやはりそういったダイナミクスが展開される度に目頭が熱くなってしまう、という繰り返しだった。そのうちに、「なぜ、彼らの音楽は家族や親しい友人でさえも理解する事の出来ない自分の一部を見つけ出しているのだろうか?」と合うはずのないチューニングが合ったことに驚きと戸惑いを感じながら、彼らの演奏を聴いていた。

 deathcrashの音楽にはSlowcoreといってもMogwaiのようにポストロック的な静と動が存在する。しかし、彼らはMogwaiほど極端ではなく、静と動を作る事でその間の漠然とした感情の揺れ動きを拾おうとしている、と感じる。そのセンサーに無意識のうちに心の奥底に沈めていた孤独という感情が引っかかったのではないのだろうか。それによって、自分でも思いも寄らない感情を刺激されて、精神の異変に身体が驚いて反射的に涙が浮かんでいたのかもしれない。また、Tiernanのボーカルはかなりエモーショナルで、Sunny Day Real EstateやBrand New辺りのEmoっぽさも彼らの音楽には見受けられる。ベースのPatrickは彼らの音楽をSlo-mo(Slowcore+Emo)と形容しているが、まさにその通りだと思う。時折みせるマイクから離れ地声で絞り出す歌唱も含め、歌詞も含めてだが、死と向き合い、命を削っているようなパフォーマンスに鳥肌が立った。

 ライブ後、彼らにこういった思いを簡単にだが伝える事が出来た。さらに「Return」のLP盤にサインを貰ったのだが、そこには「follow the smoke」と書かれていた。他の方が頂いていたサインなどもXなどで拝見していると、その後に「to the riff-filled land…」と続いているものもあった。この一節はSleepの「Dopesmoker」からの引用だ。deathcrashのライブも最後は全員が楽器をアンプに向け、Sleepのような轟音を作って終わっていた。彼らの美学は曖昧な感情や概念に音楽を通して向き合うことにあるのかもしれない。


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