【編集長のつぶやき vol.602】 あのアメリカ合衆国が日独に東西分割されていた?第二次大戦で枢軸国側が勝利するというSFの世界観。

2018.10.19

こちらのマガジンは、メールマガジン、及びブログ「まちおこし編集長の取材ノート」で約10年に渡り、掲載し続けてきた「編集長のつぶやき」が600号を迎えたのを機に、noteに引っ越したものです。599号までのバックナンバーはコチラをご覧下さい。

先日、YouTubeでU2の名曲「Pride(In The Name Of Love)」を検索したところ、思いもよらないカヴァーを発見してしまいました。

このカヴァー、唄っているのはLxandraというアーティストらしいのですが、思わず目が釘付けになってしまったのは、その歌声よりもむしろ、YouTubeの動画ならぬ静止画像の数々です。

イントロでの静止画像は、左側に妙な日本語の看板が並ぶ街並み、右側に同じく妙な赤い垂れ幕のようなものが並ぶ不思議な街並みがあり、主人公らしき女性がその真ん中でこちらを振り返っている構図です。

これだけでも???だったのですが、曲が進むにつれ、静止画像に登場したのは、アメリカ合衆国の地図。

しかしこの地図、よく見ると、西海岸にはJapanese Pacific States、東半分にはなんとナチスドイツらしきマークが記されています。

なんじゃこりゃ?

これのどこがU2の「Pride(In The Name Of Love)」なんだ?

と思いつつ、これがナニモノなのかを調べてみると、このカヴァー、アメリカのTVドラマ「The Man In The High Castle(高い城の男)」のテーマ曲となっていたものでした。

さらに調べてみると、ドラマの原作は、アメリカのSF作家フィリップ・K・ディックが1962年に発表した歴史改変SF小説で、第二次世界大戦で枢軸国が勝利し、アメリカ合衆国がドイツと日本によって東西に分割された世界を舞台としています。

まあ、この小説については、SF小説の世界ではそれなりに「有名」らしいので、知っている人からすれば、そんなことも知らなかったのか!とお叱りを受けそうなものでしょうけど(笑)。

しかしです。

いくらSF小説とは言え、「あの」アメリカ合衆国が、第二次世界大戦に負け、ドイツと日本に東西分割されるという、彼らにとっては怒り心頭?のおぞましい内容であるにもかかわらず、よくもまあ、発禁にならなかったものだ、と、大いに関心を持ってしまいました。

原作が発表された1960年代と言えば、まさに米ソ冷戦の時代。

このSF小説では、米ソ冷戦ならぬ、日独冷戦なんてのも描かれています。

さらに、このSF小説が「お見事」なところは、作品の中で、「もし連合国側が勝利したら」という内容の小説(ドラマではTVフィルム)が密かに出回っているという、現実との「鏡映し」が描かれているところ。

しかも、作品の中の「もし・・・」は、現実の世界と全く同じ「鏡映し」かと言えば、さにあらず。

また、作品の舞台は、ドイツと日本によって支配されるという「暗黒のアメリカ」なのですが、それに立ち向かうアメリカ人のレジスタンスを単純に描いたものでもありません。

ユダヤ人を迫害するドイツと、ユダヤ人に寛容な日本が半目していたり、アメリカ人・ドイツ人・日本人のそれぞれの登場人物の関係がややこしかったり。。。

「鏡映し」の現実の世界が、果たして本当に「理想的な世界」なのかも、分からなくなります。

最終的に「正義」のアメリカが「悪者」のドイツと日本を打ちのめしました、めでだしめでたし、という顛末を期待している人(アメリカ人が全てそうだとは思いませんが)からすれば、随分と後味の悪い作品かも知れませんね。

原作の発表から50年以上が経過した近年になって、何故に「アメリカ人にとっておぞましい世界」を舞台とした作品がTVドラマかされたのかは、分かりません。

もっとも、原作とTVドラマではかなり異なる部分もあるらしく、ゴールデンゲートブリッジの下を戦艦大和が悠々と通過するシーンなど、活字では表現できなかった世界観のようなものが垣間見れるという点では、相当に見応えのある?作品に仕上がっているという評価もあるようです。

ちなみに2015年11月、TVドラマ宣伝の一環として、Amazon.comがニューヨーク市地下鉄の車両座席に旭日旗やナチス・ドイツの国章をあしらった星条旗をデザインしたところ、さすがに市民から批判が殺到したことから、急遽、デザインを撤去する事態が生じた、というニュースがありました。

なお、TVドラマ版の「The Man In The High Castle(高い城の男)」は、Amazon.comが配信しており、10月5日よりシーズン3の配信が始まっています。

話は戻りますが、結局、何故にアイルランド出身であるU2の「Pride(In The Name Of Love)」カヴァーがこのドラマのテーマ曲に選ばれたのかは分かりませんでした。

         まちおこし・観光・不動産ニュース遊都総研.com 編集長

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