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昼下がりに見る夢

 わたしの中には三人のわたしがいる。夫を一途に愛しているわたし。彼女とみだらな行為にふけっているわたし。そしてSNSのなかにいる活発な女子大生のわたし。
 夫と同じ時間を過ごしている時わたしは心地よい安らぎを感じながらこの人とずっと一緒にいたいと願う。わたしのことを理解してくれている人。初めてきちんと好きになったまともな男性。愛する人に守られているという満ち足りた思いを感じながら、夜はベッドのシーツの中で裸になって夫の腰の動きにあわせて身体を揺らしているとき、この幸せな気持ちのままでこの人に飲み込まれて溶けて混ざり合って消えてしまいたいと思う。
 彼女と二人でいる時は彼女の長いまつ毛に縁どられたはっきりとした二重まぶたの瞳に吸い込まれそうになりながら二人のやわらかい唇を重ね合わせて、そして互いのすべてを求めあう。物静かさの中に滲み出てくる育ちの良さと品の良さ。大人しさの中に秘めた情熱。同じ障がいを持つもの同士で感じる共感と絆。背徳感と罪悪感。カーテン越しのやわらかい陽光が満ちた薄暗い部屋の中で、彼女の粘膜から放たれる湿り気のある体温を鼻先で感じながらこのまま彼女を飲み込んで溶けて交じりあって消えてしまいたいと思う。
 SNSをしているときのわたしは将来に希望を抱く活発な女子大生になる。自分がなりたかったもの、叶えたかった夢を彼女に託して空想の中に生きている。
 本当のわたしはどれなのだろうと思うことがある。本当のわたしって何?とも思う。いまここでPCのキーを叩いているわたし。27歳女。双極症Ⅱ型という精神疾患を患う精神障がい者。YMの妻でSSの娘。
 SNSにしか存在しないわたしは本当に偽物のわたしなのだろうか。誰かといるときにもSNSのわたしが顔をだしてきて、彼女の思考で行動しようとするときがあってドキリとする。こうして徐々にわたしは乗っ取られていくのだろうか。
 わたしは時々なにがしたいのか分からなくなる。そんな時は自分の存在すらあやふやになる。身体が足元から透明になり消えていく。そしてわたしは無性に誰かの身体を求めたくなる。誰かの身体にしがみついて背中に爪を立てたときの皮膚に食い込む指先の感触をたしかめながら、相手の腰の動きをわたしの骨盤が受け止めるとき、そのときだけはわたしはここに存在しているんだとはっきりと感じる。
 昼下がりに見る夢。まどろみのなか。カーテンを揺らす風。雨上がりの匂い。公園で遊ぶ子供たちの声。そんなすべてが夢。

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