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【MGS4】 コンバット・ハイ 【オールド・スネーク】

 中東のとある市街地。PMCと民兵の武力衝突により戦場と化した街。スネークはそこにいた。ある任務を遂行するために。

「いいかいスネーク、そこにいるのはどちらも君の敵じゃない。戦闘行為は必要最低限避けて、見つからないように目的地を目指してくれ。」

 無線でオタコンからそう注意されていた。しかし常に戦場で”絶対”は存在しない。現にスネークの目の前ではPMCによってバリケードで防衛線が敷かれている。そして防衛線を守るPMCと武装した民兵によって激しい戦闘が行われていた。ここから先に進むためには銃弾飛び交う戦場を突っ切り、防衛線を越えるしかない。別のルートを探している余裕はない。今は自分が生きて目的地に向かうことを考えなければ。スネークはアサルトライフルを構えた。
 土嚢の上にライフルを固定して、目線をアイアンサイトに合わせる。ライフルを体に密着させ、正確な射撃を行なえる姿勢をとり、真っ直ぐPMC兵の頭に狙いをつける。一発、また一発。セミオートで一発撃つごとに反動が老体に響く。すでに70代ほどに老化が進んでいるスネークにはつらいものがあったが、マッスルスーツを兼ねているスニーキングスーツが反動をある程度軽減してくれた。放たれた弾丸は狙い通りPMC兵の頭部に命中する。ライフル弾はヘルメットを突き破り頭蓋骨を貫通、敵を死に至らしめる。これを繰り返し、スネークは一人ずつ敵を排除していった。もちろん敵もただやられるわけではない、自身を攻撃してくる方向を察知して反撃を開始する。それに対してもスネークは冷静に物陰に隠れ対処する。幸いなことに地元民兵が援護射撃をしてくれている。PMCと戦っているスネークを味方だと認識してくれたようだ。一人、また一人と敵兵を排除しているうちに、スネークは不思議と高揚感を感じていた。戦場での興奮状態、スネークはこの感覚に覚えがあった。

 コンバット・ハイ――戦場でアドレナリン等の脳内麻薬が過剰に分泌され、中毒症状になることだ。
その時、スネークの脳裏にあの男の声が響いてきた。


「殺戮を楽しんでいるんだよ貴様は!」


 トラウマがフラッシュバックして吐き気を催し、スネークは耐えきれず嘔吐してしまった。
「大丈夫かいスネーク!?」
 無線ごしに心配の言葉をかけるオタコンの声も聞こえないほど狼狽していた。シャドーモセスでリキッドに言われた言葉。あの時、スネークは否定する言葉が出なかった。否定できなかったのだ。自分が米兵だったときも、FOXHOUND隊員として任務にあたっていたときも、フィアンソロピーとしてメタルギアの亜種を潰してまわっていたときも、常に命のやりとりを行なってきた。常に殺しと向き合ってきた。それなのに、自分は答えることができなかった。言い訳すらも。自分は殺しを楽しんでいるのではない、と。

 民兵たちから歓声がわいた。気が付くと、辺りのPMCの兵たちは一掃され、民兵たちがそのエリアを制圧していた。
「ありがとう、あんたのおかげだ」
 民兵たちは、一番の功労者であるスネークを褒め称える。しかしスネークは応えなかった。

――違う、そうじゃない。自分はそんな言葉をかけられるような人間じゃない。俺は人殺しなんだ。――

称賛は届かず、嫌悪感だけが、スネークの脳内を掻き乱していた。


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