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楠瀬誠志郎「いつも逢えるわけじゃないから」(1990)

私の大好きな楠瀬誠志郎。特に4thと本作5thはJ-POPの名盤だと思います。この2枚は大学時代に聴きまくってました。
クリスマスの時期が近づくと、本作収録の⑨「一時間遅れの僕の天使」がどうしても聴きたくて、リピートしまくってました(笑)。

楠瀬誠志郎。ご存じない方も多いでしょうね。一般的には1991年、TBSドラマ『ADブギ』の主題歌である「ほっとけないよ」が大ヒットしたアーチストというイメージでしょう。
でも私にとってはそれ以前に発表された2枚アルバムが大好き。弾けるポップスと重厚なコーラス、そしてナイアガラ=大滝詠一流ウォール・オブ・サウンド、もっと遡ればフィル・スペクターに影響を受けたと思われる華麗で華やかなサウンドが素敵な、大好きなアーチストです。

⑨「一時間遅れの僕の天使」はイントロから女性の囁く「メリークリスマス」で幕を開けるクリスマス・ソングです。でもサウンドはマイナー、悲しみサウンドとは全く対照的な明るいクリスマス・ソング。コーラスも弾けてます。このサウンド、エコーが思いっきり効いた典型的なウォール・オブ・サウンドですね。ウォール・オブ・サウンドとは1960年代初期にプロデューサーであるフィル・スペクターが確立したもので、複数のテイクを録音しそれらをオーバーダビングして作られた分厚いサウンドを指します。楽器も様々な楽器を多様します。
楠瀬氏のこの曲は、エンディングのコーラスで ♪ Be My Be My Baby~ ♪ と歌ってますね。これ、フィル・スペクター・プロデュースの代表曲、ロネッツの「Be My Baby」です。これを初めて聴いたときは「洒落てるな~」と思ったものです。

こうしたサウンドは、当時CMソングにもなった③「季節がとうりすぎても」でも顕著ですね。

アルバムトップの①「永遠の約束」はよく聴くと山下達郎サウンドにそっくり。この時代特有の打ち込みサウンドなので気付きづらいのですが、メロディは達郎サウンドそのもの。ぶ厚いコーラスも達郎さんからの影響が窺えます。この曲をバンドサウンドでアレンジしたら山下達郎風になりますね。

楠瀬誠志郎は、その高い音楽性があまり評価されていないアーチストだと思います。多分それは、彼の甘い声によるところが大きいかもしれません。大江千里が評価されていないのと同様かと思われます。山下達郎氏が、「日本でコーラスが分かっているのは根本要と村田和人だけだ」と仰ったらしいですが、私は楠瀬氏もその一人だと思ってます。とにかく彼の紡ぎだす重厚なコーラスは、聴いているものを夢見心地にさせます。

個人的には4thの⑦「まだ見えない海をさがしてる」が、そのコーラスとメロディにノックアウトされました。
イントロの波の音とコーラス、それに続く重厚なオルガンと切ないメロディ…、素晴らしい曲です。この曲も打ち込み系ですが、バンドサウンドでやっていたら、もっと良かったんじゃないかなと。

あと同アルバムには、後に郷ひろみがカバーしてしまった名作「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」が収録されてます。
ひろみGoに台無しにされてしまいましたが(笑)、オリジナルは素晴らしいアレンジです。こちらがオリジナルですからね。

「一時間遅れの僕の天使」「まだ見えない海をさがしてる」「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」は未だに聴き返している名曲です。楠瀬さん、再評価してほしいアーチストですね。


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