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キャンディーズ「早春譜」(1978)

最近こちらにキャンディーズの洋楽カバーをアップしましたが、キャンディーズが洋楽好きであったことをもう少し知ってほしいなあと思ったもので、今回はキャンディーズのイメージを覆すようなアルバム、楽曲をご紹介致します。私自身も当時は、キャンディーズの音楽よりも「みごろ!たべごろ!笑いごろ!」のコミカルなキャンディーズが大好き小学生だったんですけどね…。

過去に「キャンディーズの魅力」という記事を別ブログに投稿させて頂いておりますが、こちらは1978年2月発表のラストシングル「微笑みがえし」のご紹介で終わっております。そしてこの後、3月に今回ご紹介するアルバム「早春譜」を発表し、キャンディーズは4月4日の後楽園球場で行われた「ファイナルカーニバル」で解散を迎えます。
今では「微笑みかえし」や「ファイナルカーニバル」のことは覚えていても、この重要なラストアルバムの存在について語り継ぐ方はあまりいないように感じます。でもキャンディーズの本質を知るには、個人的にはこのアルバムは欠かせない、というか最も重要なアルバムだと思っております。

本作はメンバー3人の、今までの感謝の気持ちを表すべく、A面がミキちゃん(藤村美樹)、B面がランちゃん(伊藤蘭)、C面がスーちゃん(田中好子)、D面が3人それぞれの作品、といった構成で、全作品がメンバーとMMP(バックバンド、後のスペクトラム)によって書かれたものとなっております。しかも3人それぞれが単独で歌い上げることで(コーラスの参加もなし)、3人の個性が発揮された形となり、ビートルズでいえば「ホワイトアルバム」的な内容となっております。

そしてその中でも異彩を放っているのがミキちゃん。歌唱力、作曲センス、どれもが当時のアイドル歌手の領域を超越した才能を発揮しているんですよね。

まずはA面からミキちゃんのいろいろな才能が炸裂している3曲を。
オープニングは後の森高千里を彷彿させるようなナンバーの①「買い物ブギ」。作詞:藤村美樹、作曲:藤村美樹・山田直毅(MMPのギタリスト)。
なんとなく森高っぽくないですか?(笑)。こうした曲でもミキちゃんの歌唱力は相当なものということがお分かり頂けるかと思います。ギターソロのバックでミキちゃんがはしゃぎまくっている感じがいいですね。

ある有名な洋楽をモチーフとした②「エプロン姉さん(マキちゃんに捧げる唄)」。作詞:藤村美樹、作曲:藤村美樹・渡辺直樹(MMPのベーシスト)。
いきなり2人の会話からスタートしますが、ミキちゃんと実のお姉さんとの会話です(笑)。そしてなんか聞き覚えのあるイントロが…。そう、スティーヴィー・ワンダーの「Sir Duke」ですね。熱烈なスティーヴィーの大ファンだというミキちゃんらしいナンバー。これはパクリではありません。ここまで似せるとリスペクトしている気持ちがよく伝わってきますね。

②の違った形の楽曲の③「猫と兄貴」。作詞:藤村美樹、作曲:藤村美樹・渡辺直樹。②はお姉さんへの感謝の念を表したものに対して、こちらはお兄さん。そしてこちらも本物のお兄さんが登場してます。しかし逞しい猫と比較されてしまうお兄さん、笑ってしまいますね。この曲はジャクソン・ファイブの「ABC」がモチーフになっていると思われます。
それにしても歌詞がユニーク。そして軽快なリズムに乗ったリズム感抜群なミキちゃんの歌唱力に驚かされます。

B面に収録されているランちゃんの曲を1曲だけご紹介しておきます。
ファンの間では人気の高い⑥「アンティック ドール」。作詞:伊藤蘭、作曲:伊藤蘭・渡辺茂樹(MMPのキーボディスト)。
かなりシュールな詞、かつ曲調も哀愁漂うものなので、最初聴いたときはちょっとホラー感を感じてしまいました(苦笑)。もちろんランちゃんの意図がそういうところにあったわけではないのですが…。
キャンディーズ=明るいポップスというイメージがあると思いますが、こうした表現力を要する曲を、しかも自作曲として発表していたキャンディーズは、やっぱり単なるアイドルではなかったんだなあと感じます。

あと2曲、D面のミキちゃんの曲をご紹介させて下さい。
こちらも洋楽ファンなら「どこかで聴いたことある?」と思うのではないでしょうか。それが⑲「IT'S VAIN TRY TO LOVE YOU AGAIN」。作詞:藤村美樹、作曲:藤村美樹・渡辺茂樹。
おお~、スタイリスティックス!「Can't Give You Anything (But My Love)」ですね。いや、これもパクリではなく、フィリーサウンドもお好きだったミキちゃんのリスペクトを感じさせる1曲です。アレンジはキャンディーズの多くのヒット曲を手掛けた穂口雄右。しっかり歌謡曲的要素も盛り込んでますね。ちなみにレコ―ディングの演奏もすべてMMPが担当しておりますので、このフィリー感もうまくMMPが表現されてますね。

影の名曲の⑳「あこがれ」。作詞:藤村美樹、作曲:藤村美樹・渡辺茂樹。
キャンディーズ自作曲、いやキャンディーズのすべての楽曲の中でも人気の高いナンバーです。職業作家顔負けの壮大なバラード、ミキちゃんの素晴らしいヴォーカル、そしてMMPの西慎嗣のギターソロがカッコいい。メロディも洋楽からの影響が窺えますね。またエンディングにも西慎嗣のギターソロがフューチャーされてます。アイドルの楽曲、それもラストアルバムの最期の楽曲なのに、これだけバックバンドの存在がクローズアップされるのも珍しい。それだけキャンディーズも彼等に全幅の信頼を寄せていたのでしょう。感動的なフィナーレです。

完全にスーちゃんの曲を紹介出来ませんでした(苦笑)。その代わり、彼女の愛らしい姿が楽しめる映像を最後にアップしておきます。
こちらは洋楽カバーのようですが、実はオリジナル作品。結局、オリジナル・アルバムには未収録となりましたが、当時のステージでは定番ナンバーだった「ダンシング・ジャンピング・ラブ」。14秒辺りで突然スーちゃんが画面から消えてしまいます(笑)。その後の彼女の苦笑いが愛らしい。それにしても激しいステージング。よくこれだけ踊れて、普通に歌えるなあと感じます。

1978年4月4日、後楽園球場にてキャンディーズは感動的なフィナーレを迎えました。51曲を演奏、歌い上げ、本作のエンディング・トラックの「あこがれ」は50曲目に歌われました。そして最後はランちゃん作の「つばさ」が…。この曲は同年11月、解散後に18枚目のシングルとして発表されております。「つばさ」は間奏に有名な台詞が挿入されており、これが故にこの曲がラストに歌われたものと思われます。いずれにしてもキャンディーズはそれぞれが音楽的素養の高い、そしてサービス精神溢れるメンバーの集合体だったのです。

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