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ゲームな世界2 No.3


                                                               小松 郁

3.
 タクシーは音もなくやってきた。

さっ、はやくしなさい。

 お母さんはさっさっと乗り込んで何とか中央病院とか誰に向かってか言っている。
私も乗り込むと運転席には誰も居ない。
というか4座席が2座席ずつ向かい合っていて車内には運転席らしきものは無い。
車自体も極度に小さく座席の空間と車の大きさはほぼ同じぐらいではないかと思われた。
私はお母さんの隣に座りお母さんに習ってシートベルトを閉める。

 思春期なのかしらね?
なんなんだろ?先生に詳しく話すのよ。

としょっちゅうお母さんは声をかけてくる。

 私ははいとだけ答えていた。

 この状況はよくわからないけどなんか久しぶりに人とちゃんと話した様な気がする・
しかもこのお母さんは私を心配してくれている。

 少しだけ安らいだ気持ちになりながら私は目を瞑っていた。
車内にはBGMが鳴り響いている。
よくはわからないがヒーリングミュージックの類だ。

 これから私は。
特にあてもない。

 残しているお父さんは心配だけどそれはヘルパーさんたちがうまくやってくれるだろう。
私は少し介護から解放されて気落ちが楽になっていた。
もしこれが夢でも良かったな。

そして少し今の自分が気になる。

 あのお母さん私は今何歳ですか?

 もう、18歳でしょ。

 そうか、18歳か、結構色々大変だな。
この状況で生きていくことになるのだろうか。
でももしかしたら電気ショックで悪い夢を見続けているのかもしれない。

 私死んじゃうのかな?
 もしかしてもう私死んじゃったのかな?

ここがあの世だとしたらやっぱり不思議な世界なんだろうな。
まああの世と言うより近未来都市だが。
私は気になって聞いてみた。

 ここは西暦とかあるんですか?

 今は西暦2086年よ。

 西暦2086年?
冗談もほどほどにしてほしい。
ただ今の私には理解不能だ。

 あの、お母さん・・・。

 なに?

 何か食べるものってありますか?

 朝食残したのにこの子はもう。
売店で後で買いなさい。

 はい。

 お母さんは突然ドアの辺りに手をかざすと中央にスクリーンが浮かび上がった。
病院までのルートが表示されているようだ。
あと5分と表示されている。

 貴方も今日の分の教科書でも読んでいなさい。
 えっとどうすれば良いんですか?

 そういう事も忘れたの?
まあ良いわ。端末呼び出しはこうするのよ。

 とお母さんは手のひらをこする仕草をして見せた。
私はその通りに手のひらをこすると手のひらの上にスクリーンが現れた。

 えっと教科書ってどうすれば良いんですか?

 まとめてあるでしょ?そこじゃない?

 お母さんは私の手のひらの上のスクリーンのアイコンを指さした。
私はそれを触ると本の目録一覧が現れた。
 うーん、今は勉強する気にはなれない。
私はその中で音楽の教科書らしき物を触り開いた譜面を眺めていた。

 知らない曲がいっぱいある。
音を脳内で奏でようとするが絶対音階がないために中々難しい。
あとで弾いてみよう。
 

 と、ともなくして車は到着しました。とアナウンスされて病院についた様だ。
 お母さんはドアの脇のプロジェクションを操作してちょこちょこと手続きを終えた様だ。
お母さんは私に出る様に促している。
ドアは勝手に開いたので私はタクシーから焦ってシートベルトを外し飛び出した。

 病院は平面的な壁で白い壁がピカピカ太陽を反射している。
お母さんが先に歩き出したので私は急いで付いていった。

 ちょっと待ってなさい。

 お母さんはそういって待合室らしき座席に着いた。
受付などはよくわからないが私はそのままお母さんに習って隣の席に着いた。
 
 周りを見渡すと静かだが大分人が多く活気はあるようだった。
売店らしき箇所は多数あるがそれはまた後にしよう。
なんだかぱっと見は空港の中にいるようだ。
ふと、私は病院の隅にピアノが置いてあるのに気がついた。

 それは年代物のグランドピアノのようだ。
病院にもピアノがあるのか?

私は不思議に思いながらお母さんは手のひらのスクリーンで確認していた。

 呼び出されたわよ。

私はお母さんがスクリーンを見ながら立ち上がって歩くのに着いていった。
 ここね。

 どうやら検査関連の施設棟らしい。
いろいろな警告表示が張り出されている。

 そこの待合室で待っていると西條さんとスピーカーから声が掛かかると同時に一室の部屋のドアが光った。
どうやら私の番らしい。

 私の番ですよね?

 私は一応お母さんに確認すると、そうね。まず脳の検査をやるみたいだわ。
とお母さんは行って促した。

私は立ち上がり恐る恐るドアの前に立つとドアがシャッと開いた。
その部屋にはなんだか一つ座席が設けられている。

私はそこに座ると機械音が鳴り始め部屋全体から光が照射されてきた。

 検査完了です。お疲れ様でした。

 どこからかわからないが室内に受付嬢のような綺麗な発音でアナウンスが流される。
ものの1分も経たないうちに機械音は鳴り止み部屋は元の状態に戻っていた。
私はまた恐る恐る座席を離れると部屋を出た。

お母さんは座席に座って待っているようだ。

 ちょっと待ってなさい。

 お母さんはスクリーンを見ながら私に座席に座るように促した。
お母さんはスクリーンを見ながらスクリーンのあちこちを触り色々な用事を済ませているようだ。

 うん、30分ぐらいあるわ。
貴方も教科書見てなさい。

 私は頷くとスクリーンを開き教科書を見てみた。
なんだか音楽以外は開く気になれなかったが取り敢えず文系、理系と開いてみた。
ちんぷんかんぷんだ。
意味のわからない単語が並んでいて何が書いてあるかわからない。
おまけに中国語と題字されている教科書やらも並んでいる。
この状況で勉強など耐えられるだろうか?
私は背筋に冷や汗が流れるのを隠しきれなかった。

 ま、まあ何とかなるよね・・・。
赤点ギリギリでも授業さえ出席していれば大抵の子は卒業できてたし・・・。
私は落ち着かせながら一応ちゃんと国語などを開き文章を読んでみた。
ふっと私は意識が遠のくのを感じた。

 ダメだ。眠ってしまう。

良いかこのまま寝ちゃうか。と目をつむって少しうつむき加減になり眠る体勢に入った。

しばらく経っただろうか。

 順番来たわよ。

と、頭の中にこだました。
私は大げさにバっと頭を起こした。
寝ぼけながら隣を見てみる。

 早くしなさい。

 と、お母さんはまた声をかけてきた。
私は伸びをしつつお母さんが立ち上がるのに合わせて立ち上がりお母さんが背を向けて歩く後をまた着いていった。

 そこは受診する場所のようでそこそこ人が溢れかえっている。
お母さんはそこの座席についてまたスクリーンを操作しだした。

 西條さーん。診察室にお入り下さい。

後ろから今度はちゃんと人の看護師さんらしき人が現れて診察室に促されていった。
私とお母さんは一緒に診察室に入った。

 そこには初老の先生が座っていた。

えー今日は記憶がおかしいとのことですが。

先生は語りかけた。

 はい、今朝方から様子がおかしくて気分も悪そうでしたので。

 精密検査の結果は特に異常は無いようですね。
でも大分ストレス状態にあると思われます。

 そうですか?

 えっとどんな具合におかしいんですか?

私に先生は声をかけてきたようだ。

 あのここがどこなのか何なのかさっぱりわからないんです・・・。

私は本音を話した。

 その言葉をきいて先生は考え込んでいるようだ。

 全く理解できないんですか?

 はい・・・。

 わかりました。お母さん、ちょっと数日様子を見ましょう。
お母さんお子さんはちょっと情報ネットワーク過損の恐れがあります。
後日、また再コネクトしましょう。
今日は緊張状態も極めて高い様ですし点滴を打っておきましょう。
また数日間通って下さい。

 はい、わかりました・・・。

 お母さんは項垂れて居るようだ。
私は申し訳ないと思いながらなんだかよくわからない状況から解放されるかもしれないと少し胸をなで下ろした。 

                                                              続く

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