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一般人アートバーゼルへ行く■2日目チューリッヒからバーゼルへ、そしてアートバーゼルVIPデー

チューリッヒに1泊後、朝8時過ぎには荷物を引きずってホテルフロントへ。

ちなみに、エレベーターはドアがついているスタイルなので、ボタンを押して自動ドアが開いてからさらにドアを開ける。こういう古いスタイルのエレベーターは日本では本当に少なくなったけど、ヨーロッパでは普通みたい。
1階は2階(外国あるある)。

ドア付きエレベーター

荷物を引きずって駅に向かう。
すでに切符は日本から予約済み。

ここがひとつ大問題で、スイストラベルパスというものがあって、これがあると鉄道乗り放題&指定美術館や博物館に自由に入れるらしい。

でも、すごく高い!日数と1等か2等で金額が変わるのだけど、とにかく安くても3~4万円はかかる。日数が長ければもっとだ。
だから、移動の範囲によっては損をすることがある。
ただ、切符を買うのが難しいとか乗り鉄だというなら、あった方がいいという感じです。

私は案内人にいろいろ調べてもらって、事前にチューリッヒからバーゼル、そしてそのあとバーゼルからザンクトガレンという街に日帰り観光の段取りでチケットを予約してもらい、ひとり1万円くらいになった。

ヨーロッパでは、特にある程度の距離のある電車の場合その日にチケットを取ると信じられないくらい高くつくけれど事前予約しておくととても安い場合が多いという。
私がスイスに行っている同じタイミングで友人がフランスからベルギー経由でオランダに移動していて、「こっちは移動費を抑えるためにバスで国境超えるわ」と連絡がきていた。

さて、バーゼルに向かう電車に乗る前に、駅でサンドイッチを買った。
一番シンプルなやつがいいので、ハムとチーズ。
それをもって、電車に乗る。
電車は、自分でボタンを押してドアをあけます。田舎のJRもそんな感じなので、見ているうちに「そうそう、そうでした」という気分になっていった。

電車は空いていて、ボックス席でゆったり座ることができた。
電車は改札もないし、発車のベルも案内もなく、すーっと動き出す。
スイスエアーもスーッと離陸したし、なんかそういうところにあんまりケアはしないスタイルらしい。
でもヨーロッパ随一の正確な鉄道運行で有名なのがスイスだそうです。
案内人はもともとフランス在住歴が長かったらしく、電車に乗る前にも「電車がないとかあるから」とあれこれ確認して回っていた……。
ドイツ語で案内している女性に「この電車はここの出発ホームであっているか」というような事を聞き、それであってるみたいなことを言われたようだけど、最後に彼女が「イッテラッシャイ」て言ったように聞こえて、私だけ「!?」となっていた。
「いってらっしゃい??」
「ちがいます、ドイツ語です」

チューリッヒ中央駅を眺めていると、初めてヨーロッパに来ていて、ヨーロッパのいろんな国の列車の物語や映画の事をちょっとだけ思い出した。
あの、電車の正面が見えるスタイル。東京だと、井の頭線の渋谷駅みたいなやつの、天井が高くて大規模な感じ。
みんなこんな感じの風景をイメージして、ああいう場面を描いていたんだね。

電車内は、簡素だけどトイレもあり、落ち着いた感じだった。
座席指定ではないよね、っていって先に乗っていた人に確認する案内人。どこに座ってもいいらしい。

座る場所に落ち着いて、サンドイッチを食べた。

パンもハムもチーズもピクルスもすべてが美味しい

これがまたすごいおいしい。
物価と、円安のダブルパンチで1個1000円くらいはするんだけど。
とにかく、おいしい。
パンもおいしいし、チーズもピクルスも、ハムもおいしい。何もかもがおいしい。マヨネーズでなんとか味をごまかすとか、そういうのない。普通にどれもおいしく、普通にはさんであるだけ。

「えっこれおいしい、なにこれすごくおいしい」
と、電車の中でほぼおいしいしか言ってなかった気がするのと、それ以降スイスではずっとハムとチーズを挟んだパンを毎日食べました!!
すごくおいしかったので。

安上がりだとか、レストランでゆっくり食べている時間がそんなにないという事があったけれど、それにしてもおいしかった。
ほんとに毎日毎日食べ続けました。
美味しい。おいしいよ!!

できるだけハムとチーズのシンプルなやつがいいです。フロマージュとジャンボン(ギリわかるフランス単語)。ドイツ語は読めない。

スイスの田舎の風景を眺めながら、1時間弱でバーゼルに到着する。
田舎の風景というのは、確かに生えている植物や地形、気候の違いはあれども、田舎はヨーロッパでも日本でも同じような感じがした。
「田舎というイデア」と言って案内人が笑っていた。

牛が見えるたびに「スイスブラウン牛!?スイスブラウン牛!?」と口走る。ここはスイス!ブラウンな牛はきっとスイスブラウン牛に違いない!
これを馬鹿の一つ覚えと言います。

色の感じだと、ジャージー種だったかもしれん……。


スイスの車窓から
通り過ぎる小さな駅

果樹や麦畑、牧草地などを眺めて50分ちょい、バーゼルに到着する。
バーゼルには2つ駅があり、SBBという方に着く。
(電車でパニック発作が出なくて一安心だった)

「関係者に連絡ついたから、今日からアートバーゼルに入れるので、荷物を駅においてそのまま行きましょう」

最初の予定では、荷物を宿(これもかなりクセのある宿……)においてからバーゼル市立美術館などを見てからアートバーゼルを見るというつもりだったのだけど、先に会場に入ろうということになった。
結果としてはこの順番でよかったと思います。

バーゼルSBB駅からトラムに乗りかえる。ここではこまめに切符を買った。駅というか、バスの停留所みたいな雰囲気のところに券売機があって、そこで買う。移動の範囲が狭いのと、乗る時間が短いので(発券してからの有効時間があるらしい)安い券になる。
とはいえ円安を抱えて物価高の国にいるわけで……。
トラムは、路面電車の事で、バスと並行して都市部にはみっちりと敷かれている。
トラムに乗って、ライン川を渡り、今回の会場であるバーゼルメッセに近いバーゼルBBF駅へ移動。

「じゃあここでちょっと待っててください」と言って、案内人は先に自分の荷物を預けにいなくなってしまったので、私は駅のベンチでぼんやり人の流れを見ていた。

自転車でホームから降りてくる人がめっちゃいる。
あとで気づいたけど自転車専用車両もあって、みんな自転車で電車に乗り込んでいる。あとも普通にスーッと乗っていく。

ド派手なピンクヘアの変なアジア人が座っていても、あんまり気にしていないようだった。
いや、気にしてはいたかも。
本当は目の前にあったスーパーを覗きたかったけど、あまり大きい荷物を転がしながら見るのもよくなさそうなので、じっと座っていた。
(あとでこのスーパーマーケットで晩ご飯をいろいろ買う)

まちぼうけ

駅には花屋と、コーヒースタンド。
通路が広く、ホールという感じ。もちろんホールはほかにある。

30~40分くらいで戻ってきた案内人と合流し、ロッカーにスーツケースをしまって、会場の入り口に向かう。

駅のロッカーの鍵。「なんでそんなもん撮るの?」と案内人に聞かれた。
何もかもが珍しいだけです。

なんだかたくさんの人がそこで誰かを待っているようで、あっちでもこっちでも再会のあいさつが繰り広げられていた。

\左に見えるはVIPの旗印/

「今、後ろに立っている人が超大手ギャラリーの偉い人」
「あそこを歩いているので、例の大金持ちの息子で逮捕された人」
みんないいスーツを着ている。
見るからにいいスーツを着ている。

そこにピンクヘアで金銀のギラギラスカートをはいている謎のアジアの小さい女(=私)。変!!
すぐに見つかる視認性の高さという優位的な機能があります。

とかやっていると、小柄なおじいちゃんが近づいてきて、親し気に案内人とあいさつする。
業界ではとても顔が広く、有力な立場にいる人だという。チケットを渡してくれて、私はこのチケットで、案内人はその人のビジター枠で入場するということらしい。

なんの因果か運命の輪の回り方で、私はスイスのバーゼルで、アートバーゼルのVIPチケットを手にしたわけだ。

VIP Guestって書いてある

本当にどうしてこうなったのか、わからない。
憧れがあったとか、夢だったとか、なにかこうやりたいというものがあって計画を立ててやったわけではなく、流れてきたチャンスに飛び乗っただけ(もちろんすごい自腹を切ったけど)。
ちなみにチケットは普通に購入もできます。
その前日までやっていたさらにVIP向けのには無理だけど、チケットを買えば誰だって入れる。だけど、そこにたどり着くのは、今の私には無理だ。
自分にはできないことが、なんらかのさじ加減で、なんとなくそうなった。

しかし会場に入るまでがまた面倒な手順をたくさん踏む。
まず別会場に荷物を預ける。
「バッグに鍵かけておいて下さいね」と忠告されて、南京錠をかけて預ける。
小さい手荷物を何にするかめっちゃ悩む。

それをもって、入場ゲートの簡易保安所みたいなところで荷物を全部トレイに載せてチケットを通して通過し、金属探知機ゲートみたいなのを通る。
中にはすごい金額のものがゴロゴロしているからね。
あと、ゴッホにトマトスープぶっかけ事件みたいな、破壊型パフォーマンスもあるから、警戒しているのかな、なんてことを思った。
別にいつもの事なのかもしれないけど。(香港バーゼルも同じ運営の仕方だったというし)

さて、会場に何とか入ってしまうと、もうただ、いわゆる日本でも同じようなビックサイト展示会とかあるけど、あんな感じで(ただ床はコンクリのむき出し感がゼロ。しっかり絨毯というか何かが敷かれていた。ずっと前にイベントコンパニオンなどの仕事でビッグサイトの床の硬さには辟易していたので妙に覚えている)、ブースが巨大迷路のように広がっていた。

ずっとこんな感じ
いまきているアフリカ系アーティストの作品

私にチケットを渡した人は、すぐに別の知り合いにあってそっちに行ってしまい、「どうせまたあとで会うから、じゃあ」みたいな感じでスーッといなくなってしまった。

入り口すぐのスペースは、バイエラー財団。
お持ちのピカソをちょこんとおいている。
あとでバイエラー財団美術館に行き、そこで私はマジ最高の体験をするのだけど、最初はまだ何もわかっていないで「ピカソだー」という感じで見ていた。


案内人はアートディーラーなので、ざっくり見ているとすぐに「あっ、これはカンデンスキーだ、しかも完全抽象になる前ので、サイズもいい。値段聞いてくるわ」といって、すぐ仕事に行ってしまった。
「このサイズなのは、外で描くために小さくて軽いキャンバスにしたからだってさ」
じゃあ一応、外で街並みを見ながら描いたんだ。
「あと来歴がとてもよい」
つまり贋作リスクや劣化などがとても低いということだろうか。

私もここ半年以上、絵画鑑賞の予習をしていたので、言っている意味は分かる。カンデンスキーはロシア出身の抽象絵画の父と呼ばれる立ち位置の人で、最初から抽象画ではなく普通に具象の風景がなどを描いていた。
それが、途中から抽象画に移行していくのだけど、そこにあった絵はまだ街並みがハッキリと分かるもので、でも色遣いは写実性はないけばけばしいベタ塗りで、抽象画に行く直前というのがとても分かりやすい時期の作品なことがわかる。

同じブースにガブリエル・ミュンターの絵もあった。
ヴァシリー・カンデンスキーと内縁関係にあったけど、途中でカンデンスキーがロシアに帰ってしまい、戻ってこなくなって、戦争の絡みで戻れないのかと思ったらカンデンスキーは向こうで結婚していたという、ミュンター激おこ事件のあのミュンターです。
その後ドイツのナチスが台頭して、現代絵画はヒトラーのご趣味に合わないから全部燃やされたという時期があったけど、ミュンターは自分の絵と共にカンデンスキー含む仲間たちの絵をずっと守って、今我々が見ることができるのは彼女のおかげという作品が山ほどあるらしい。
(クソ男なカンデンスキーは、ミュンターを捨ててロシアで結婚した後「あの絵返して」と言ってきたらしく、激おこミュンターは裁判で所有権の大部分を勝ち取ったという)

なんかそういう話を知っていてもさ、現物が目の前にあるというのは、なかなか、一気に受け止められるものではないよね。

値段は普通に億単位なので、「へー」という感じです。
「へー」

だいぶそのカンデンスキーであれこれやってから、「じゃあハウザー&ワースの人にあいさつしてくるわ」といって消える案内人。

うし
ハウザー&ワースのカタログの表紙になってた蜘蛛は30億円くらいでもう売れてた

「髪の毛が派手だからすぐに見つかると思うので、その辺にいて下さい」
はあ、そうします。

ハウザー&ワースは、世界のメガギャラリーということです。
全然ぴんと来ていません。

事前にwebカタログを見ていたけど、カタログで見た作品がずらっと並んでいて、でももうどれも全部売約済みだったらしい。
お値段は、基本的に単位が億です。

ピンとこな過ぎピン座衛門。
言われていることはわかるけど、あれが10億円?あの絵が?あの変な彫刻が?
私の感じる10億円と、彼らの感じる10億円の重さは、まったく違うのだ。
「やった、ちょっとデカい買い物しちゃったぞ!」くらいな感じで、私が「ブランドバッグ清水買いしちゃった」レベルな感じかもしれない。

50万とか、60万円とか、そんなイメージに近いのかもしれない。

よくわからないまま、案内人が仕事に行っている間はふらふらとブース内の道を歩き回った。
パッと見てわかる作品も多かった。それこそどこにあってもピカソはピカソと分かる。
どこもかしこも、知っている作家の知らない作品。または私が知らなくてもみんなが知っている有名なものばかり。

最初にちょっと書いたけど、ここは鑑賞の場ではなく、売買の場なので、鑑賞する事は全く向いていない。展示方法ももちろんすごくいいのだけど、ただの「展示例」という感じなので、これを見てご自宅なりオフィスなりに「あー、あの壁にこれを掛けたいな」とか「これ階段のところに置きましょうよ」みたいなイメージのための手掛かりという感じ。

会場の様子に気おされたというよりは、まず「鑑賞のためではない」と分かるのに少し時間がかかった。
それから、これを見ている人たちの目的が、あきらかに私の感性とは違うことになんとなく気が付いた。
感性の違い、あるいは同じことは、なかなかわからないものだ。共感して盛り上がったとしても、ちゃんとわかったかというとそうではない。

美的センス、美的な感性は同じかもしれない。
でも所有とか、売買が突き付けられる現場は、初めてではないにせよ、ここまでの規模感のものはちょっと動きがわからなくなる。
田舎の駅前開発の予算かな?みたいな感じじゃん。
公共事業枠の単位じゃん。
それが、その小さい1枚の絵に?
その妙な形のかたまりに?

でもそのうち、そこの数字にとらわれていると何も見えない事にも気づく。
その数字のギャップにとらわれる感じも、面白くて楽しいのだ。「これが10億円?」みたいなのは楽しい。
でも、ここではそれが普通なので、ギャップを楽しんだら次は、そちらの平均アベレージに位置をずらしてみる。

そうすると、すごく、普通だった。
床は床だし、壁は壁。歩いただけで個人に紐づく財産がバレて、床に穴が開いて落ちるという事はない。
「総資産が500万円だと!?よくもまあここに来たな、連れていけ」
みたいなことが起きそうな気がしていたが、なかった。
銃殺もなかった。
でも皆さん、シャネルの超定番のチェーンバッグ持ってるし、ベルトはエルメスのHのバックルが光り輝いているし、普通にバーキンの小さめのやつで色はエトゥープっぽいのを腕にかけて道を歩いている。
ジュエリーはそんなにつけていなかった。
男性は見るからに上等なスーツを着て、売る側の人はスンとシンプルにまとめ(でも上等なスーツだ!アオキとかじゃない)、見ている側の人はさらに厚みのあるスーツを着てる。
「例の大金持ちの逮捕された息子」はピタピタのジーンズをはいて、よくできたジャケットを着ていた。息子と言っても別に若いわけではない。
靴は、そのまま質草になりそうなツヤツヤの贅沢品ばかり。
女性の服は、夏のせいかサラッとしたワンピースか、大袈裟でない小さめジャケット(でもたぶんシャネルとか、セリーヌとかかなっていう)。

もちろん、私だけが異様です。
とても。

目立たない格好のほうがよかったのかとも思ったけど、どっちでもいいかなという気持ちだった。
いる、と分かる方が重要な気がしたので、派手な方がよかったと思う。
珍獣枠。


さて、アートバーゼルの会場の詳細は、いろいろ内容が多くなりすぎるので、展示については別記事にしたいと思う。

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つよく生きていきたい。