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ずっと想像していた『町の宝飾品店』になりたい

さびれた町のアーケードの中に、いつまでも残っている宝飾品店。
どうしてこんな誰もいないような場所なのに、高級なものを売っているお店だけが残っているのかと謎に思う人も多いみたいだけど、答えは非常に夢がないものだ。
単純に、お金持ち(土地持ち、大家)なのだ。
そういうからくりを知らない無知な状態では、なんというか、そこだけ魔法がかかったように時間が止まっていて、いつまでもきらきらと高いものが、まるで町の中の遊園地のように、時代さえ忘れて古びていることも忘れて、そこにある。

いいなあって思う。

土地持ちの資産持ちで、がんばって仕事をする必要もないお店なので、ビジネスとしてはもう存在していないも同然で、今時純銀製の盃を記念品にオーダーする会社もないというのに、「トロフィー、盾、盃ご注文承ります」とか古ぼけた看板が置いてあるおっとり具合。
お店としては完全にアウトで、二代目がコンサルを入れて全部潰してカフェにして、資産を食いつぶすのが目に見える感じなんだけど、このくらい時代から切り離されちゃったお店って、ほんとにレトロな遊園地のようなきらめきがある。

いいなあ。

わたし、そこを本当に遊園地にしたい。
高いジュエリーを買うなんて、毎月あるイベントじゃない。
数カ月に一回ある人は相当恵まれているし、年に一回の人も恵まれているし、数年に一回あればそれも恵まれている。
10年に一回の人も普通だし、結婚指輪のあとは特にないという人も、普通のことだと思う。
でも、そういう人にも、宝石や貴金属をもっと身近に触れる時間や機会を作るのは可能だと思う。

町の宝飾品店は、表面だけ見たら大人のための小さな遊園地のような輝きを隠している。その裏には、なんだかちょっとがっかりするような仕組みがあるのだけれど。
でも、すべての人が赤じゅうたんの敷き詰められたカルティエやブルガリでお買い物をするわけでもない。
もうちょっと身近で、ちょっと古ぼけていても安っぽいものでも受け入れる懐の深さと敷居の低さのある、町の宝飾品店の立ち位置って、実はちゃんとニーズがあると思う。

私のやりたい「町の宝飾品店」は、

・宝石や貴金属と直接触れ合うワークショップのようなものがある
・持っているジュエリーを修理したりクリーニングを気軽にオーダーできる
・セミオーダーで指輪やネックレスを作ったり、作り直したりできる

という、まずジュエリーの新品を買わなくてもOKな、ハードルの低さ。
クリーニングや修理、セミオーダーは、結構どこでもやっていると思う。アピールしていないだけで。

で、個人的にはワークショップを開催することで、もっとお店に来る理由を増やすことができると思う。
(ちなみに、今は場所を特定してはいないノマド状態でこのワークショップやクリーニングなどのイベントをちょこちょこと開催してはいるのです)

さらに、もっと知的なエンターテイメントも作り出せる。

・ジュエリーにまつわる講座
多岐にわたり、アンティークジュエリーからヨーロッパ史が、手技から技術の変遷が、金相場で世界情勢が、肖像画に描かれたジュエリーの解説による美術史が…と、とにかく死ぬほど広い分野で、それぞれが底なしに深いし、各分野に専門家が山ほどいる。ここに化学系の話を混ぜるともう収取がつかない。

・ジュエリーを選ぶ、身に着けるための講座
もっとファッション的な、自分の好みのネックレスの長さを試着しまくって探すとか、指輪のサイズやデザインをちゃんと試して選んでみるとか、場合によっては有名メゾンにお買い物の付き添いということもあるかもしれない。
今は買わない(買えない)けど、本物のジュエリーを身につけて撮影をする写真館的なアプローチもある

モノより経験、なんていうけど、販売機会が極端に少ない商品で、しかも高額というものなので、まずモノに触れる機会がない。
機会がないから知識もないし、知識がないと相場もわからない、とりあえずよさそうな口コミとか知っているブランドとか、でも値段が出せないとか、安いのを思い切って買ったら実はあと2万出せばそれなりの品質で長く使えたのにとか、大手小町を読んだら「そんなものは恥ずかしくて持てません」とかコメントがたくさん書かれていてなんか急にがっかりしちゃったりとか、とにかく買うことが怖くなったり、失敗を恐れて投げやりになったり、もういいことがひとつもない。

それに対してお金を自由に使える人たちが、あれこれ買ったり、夫から贈られたりして目も肥え、相場観もわかっていていい買い物を重ねていく。
買わないと身につかないものだから、この差はすさまじい。

でも、ジュエリーにお金を使えない人でも、知識を得たり、体験したりをたとえ1万円でいいので出して本物に触る「遊園地」のようなアトラクションがあったら、その差はきっとどうということはなくなると思う。
1万円も安い額ではないのだけど、その裏に控えている何十万~100万、それ以上の価値にアクセスするには、悪くない入り口じゃないかと思う。

ひがむほど、ねたむほど、それが好きな人なら、もう本当にそこに触れて心の安らぎを得て欲しいと思う。

そして、面白いことに、本物に触れると、飢えていた気持ちがすっと収まることがよくある。
しばらく自由に触っていていいですよ、身に着けてみて、いろんな角度から見て撮影していいですよ、ってやると、飢えていた気持ちが落ち着き、本当に欲しいものが見えてくる。

今までの高級な宝飾品は、そういうお試しが全部無料サービスだったわけです。しかも「このジュエリーを買う、地位の高いお方」という扱いで、そりゃあうやうやしく対応してくれるので、その接客コストがすごく高い。
もちろん、宝石でそれらのコストは完全に吸収できるということなんだけど(なにせ本気出せばマンション一棟分くらいのものがこの世にはゴロゴロしている)、買わない人にはとてもとても冷たい。フロアにさえ入れてくれないところも結構ある。いいものは外商向けに並べられて、店頭に置いてあるのは、おまけみたいなものだったりする。
だから、私はこの無料サービス部分を全部有料にすることで、ひとつのエンタメ、体験として販売したいって思っているわけですよ。

最後にジュエリーを購入してもらえたら万々歳だけど、一生に一回か二回くらいしか買わない人のほうが多い時代ですから、商品そのものの売り上げに期待するのは、ほんとに最後の最後にしておこうと思います。

ジュエリー、高級な宝飾品を並べた小さな遊園地。
入場料さえ払えば、そこに来る資格が与えられる。思う存分楽しめる。持ち帰りたいものがあれば、買うこともできる。
無形のコンテンツ(=体験、知識)と、有形のコンテンツ(=写真、ワークショップの作品)を持ち帰るというのも、遊園地で配る風船を持ち帰るようなうれしさがある。
いつかは、その遊園地を作っているカケラを自分のものにすることだってできる。

そういうのが、たぶん私の中ではあのさびれた「町の宝飾品店」という少々ファンタジックに修正がかかった形に像を結んでいる。

そんな形の、何か夢のようなものを、もうちょっと頑張れば形にできるんじゃないかと思っている。


なお、このシステムは友の会形式をひそかにとっていて、友の会会員様には優先的に予約が取れたり、いい石がお披露目されたり、みたいな形になると思う。
そして宝石、ジュエリーだけではなく、ちょっとしたその他のものなども扱うことになると思う。

ジュエリーは、夢がなくてはいけない。
エンターテイメントなんです。
知識を得るというのも、すでにエンタメのひとつです。
素晴らしい輝きを眺めるのもエンタメです。
高価だから縁がないとあきらめてしまうようなものではないのです。
でも夢だから、ちょっと背伸びするとか、がんばらないといけないものです。

その入り口って、私たちはずっと見ていたのではないでしょうか。
さびれた町の宝飾品店のショーウィンドウに。


その思っていたお店を作るのって、ちょっとありなんじゃないかと思っています。
そのうちクラウドファンディングとかするかもしれないですね。
まだ何も決まっていませんが。
(ちなみに宝飾品系のクラウドファンディングは、軒並み失敗している様子です!支援がゼロなんていうのがゴロゴロでてきます)




ちなみにジュエリーブランドとしては、もうちょっとちゃんと新商品開発を頑張っていて、どっちかというと海外に持っていく感じを視野に入れつつ、いろいろやっています。
(ただここはもう資本勝負の世界だから、当店は相当異端…毎度のことだけど……)

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