歩く

ジャリッと嫌な音がする。
靴の下から、何かを踏みつぶした音だ。たぶん、踏んではいけないものを踏んだのだと直感する振動が背筋をつたって脳へのぼる。
だが、何を踏んだのかを見届ける事はできなかった。

怖くて。

歩くことで、そのジャリッとしたものを道路にこすりつける事で靴底からこそげ落とそうとして、どうしても変な動きになる。

まっすぐ、歩け。

よたよたふらふらと歩くものに、誰かがいう。それは誰かなんて、誰も問わない。というか、それはよたつきながら歩くものの頭の中にしかない。

なんで、そんなふらふらと歩いているの?
そう聞かれたらなんていうかって、そこだけは分かっているのだ。

「そのほうが、美しいから」

美しいとはどういうことか、多分知らないからそういうんだろう。
美しいと思うから、そうやってふらふらと歩いているんだ。
手ぶらで。
ポケットも空っぽで。

自分の笑顔に価値があると分かっていて笑ってみせる。
楽しいとか嬉しいとかは、どうでもいい事だ。

効率とは、そういうことだ。笑顔に意味なんてない、価値だけがある。誰かにとっての価値で、自分には意味がない。それで誰かから何かをもらえる事が、自分自身にとっての価値なのだから。

笑う必要は、ない。
誰かのためのものだ。

それよりも靴底の踏みつぶして崩れた何かのほうが、近くて意味があって、具体的で、ただそれが与えてくれるものはあんまり嬉しいものじゃないということで。

まっすぐ、歩け。
ただ時間が過ぎていくのを、待て。
靴底が減るのをずっと願って、目指す先はないから、同じ場所に戻る。

まっすぐ、歩け。

その声が聴きたいから、ふらふらと歩いている。
その声を聴くと、心が少しずつ削れていく。
そのために、歩く。

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つよく生きていきたい。