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オモテ君ふたたび

表参道駅のシュークリーム屋にいる。
黒いあいつはオモテ君。人の心の小さな暗がりをチクチク刺激してくる食べにくいシュークリーム。

オモテ君「やあ久しぶり、相変わらずかい?いやそれでも立派になったじゃないか。今日ここに来たのは、まあ一応仕事なんだろ?望まれるだけ立派なことだよ。それが次につながるかはわからないとしても」

オモテ君「平日の真昼に、シュークリームをひとつだけ買うなんて、どう考えても幸せなことだよ。ほとんどの人は会社でしたくもないことを座りたくもない椅子に座ってやってる。椅子があればいいほうさ。君は、まあ椅子さえ落ち着かなくてドトールだろうけど、小銭で椅子と飲み物を使わせてもらえるくらいには充実してるじゃないか。いつまで小銭があるかわからないけど」

オモテ君「だって悪くない人生だろ、人並みとは言えなくても。人並みを望むなんて高望みってやつだよ。分をわきまえなきゃいけない、人間ってやつでいたいならね。自分が特別だと思いたいが故に、いろんな理由をこじつけてしまうけど、そんなの結局誰にも届かないでひっそり消えていくんだよ実際のところ。軽めの黒歴史ってところかな。悪くはないけど、無意味だよね」

オモテ君「君が幸せを望むことも、あるいは諦めることも、まわりの人にはどうだっていいことさ。不幸せな君はまわりの楽しみだし、幸せな君はまわりの面白味になる。どっちにしても楽しませているんだ、それこそ幸せじゃないか?君は愛されてるとさえ言える。その曖昧で希薄な愛のようなものが結局君をつまらなく縛っていても」

私「…………」

オモテ君「だから、月曜日に僕を買う君は幸せそのものだって言いたいんだ、祝福してるんだよ、わかるだろう?」
「……あ」

「…………」

つよく生きていきたい。