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「やり抜く力」ブックレビュウ③

まだまだ書きます。

その1
その2

電通鬼十則はグリットではないのか

このやり抜く力についていろいろ読んでいて、最初なんとなくイメージしたのが、過労死問題で紛糾している電通様の「鬼十則」なる鉄の掟の事だ。

詳しくはこちらが本店で、イングリッシュバージョンまで載っている。

これはいわゆるやり抜く力=グリットではないのだろうか?
これがグリットだとするなら、なぜあんな悲惨な過労死するような出来事が起きているのだろうか?
人をただただ追いつめるのがグリットの形なのだろうか?

なんて事をつらつらと考えていました。

でもひとつわかった事がある。

すごく適当に作ってしまったけれど、目標にはこのような階層構造があり、下位目標は日常のToDoに当たるような些細な行動の一つ一つになる。
たとえば時間通り電車に乗るとか、持ち物の一覧とか、そういう事だ。場合によってはその下位目標の下にまた下位のすべきことがあるかもしれない。

重要なのは、その上に中位目標があり、「電車に時間通りに乗るのは、待ち合わせに遅れないため。遅れては打ち合わせの時間が減ってしまうし、相手に大変失礼だから」などという理由がある。

この階層構造を理解していないと、闇雲にしがみつくこと、単なる持久走になる可能性がある。
それは、優秀な人材を集めている(はずの)電通みたいな大企業でも起きているんじゃないだろうか。

私たちがグリットを発揮すべきは、けして下位目標においてではなく、最低限中位以上の目標においてしがみついて離さないという覚悟を持つべきだった。
電通の過労死問題は、下位目標においてしがみついて離さない態度を強要したことが物事のもつれになっていったんじゃないだろうかと感じる。

グリットは簡単に発揮されない

どうも、我々はサクッと実につくハウツーを欲しがってしまうので、この「才能を凌ぐというやり抜く力=グリットを得るにはどうしたら!」という頭で物事を見てしまう。
だから、何度も出てくるのだが、「この子にグリットをつけさせたいんです」という親に対して著者である博士が「その子の興味のあるものでなければグリットは発揮されません」という旨の事をいうと「は?」みたいな感じになってしまうそうだ。

そりゃそうだ。
だって、テニスとかサッカーとかお稽古事をやり続けていい成績を残させるためにグリットが必要だって親は思う。親のやらせたいことはどっちかというとやり抜く力をつけさせて→有名な選手になってほしい、という事だったりするから。

グリットが発揮されるかどうかは、まずそれに興味があるという分野でないとまったく発揮されない(あるいはされにくい)事がわかっている。
でも本当に興味があることを見つける事はむずかしく、いくつも試してみないといけない。

その必要性も博士は説明している。
この試行錯誤の段階を飛ばしてはいけないのだ。
けれど、この試行錯誤の時点で「やり続けるんだ!結果を出すんだ!」となってしまうケースが多いように思う。
つまり下位目標にしがみついてしまう。

グリットのある人は、コンパスをコロコロと変えないという。
ただ一つの信念の下、やり続ける。
コンパスというのは上位目標の事だ。
上位目標をコロコロと変えてはいけない、というのがグリットの最大のポイントになる。

ところが上位目標を見つけるには、ある程度下位目標で試行錯誤する必要がある。
ここを関わる人が全員把握していないと、あいつはすぐに投げ出すやる気がないやつだという事になってしまう。

本当は見えない中位目標にしたがって、手あたり次第スポーツを試した結果、ひとつの競技について深くトレーニングをはじめて金メダリストになったというケースが報告されている。
自分にとってぴったりのスポーツを選ぶというのが中位目標だったのだ。
ちなみに、いろんな競技を体験している選手のほうが選手生命も長く、トレーニング方法にバリエーションがあるため成績も平均して高く、引退後も安定した生活をしている割合が高いという報告もあるらしい。

グリットを発揮すべき場所を間違えない

なんにでもしがみついてやればいいという事ではない、という事を、ちゃんと理解した上で本気を出さなくてはいけない。
それがこの「やり抜く力」という本にまとめられた研究の結論の一つだと思う。

なんとなく根性でやる、情熱と勢いでやる、というのではなく、逐一丁寧にデータを集めて検証した結果がまとめてある。
(ほんと、ありがとうございます)

目標の階層構造も、必要な4つの要因の興味・練習・目的・希望についてもとても重要だ。ひとつでも間違えると、やはり長期的なグリットは構成されない。
ついでに付け加えるとしたら、体力は絶対必要。体力も伸びるけれど。

振り返って、私はなにひとつやり抜かずにここまで来てしまったな、と思わなくもないけれど、そういう時こそ見落としていることがあると思う。
絶対に、人間何かを続けてきているはずなのだ。
つまらない事かもしれないが。

私の場合は、いろいろあるけど、本屋で恋愛・片付け・自己啓発系のエッセイを走りの頃からずーっとチェックしてきた。
最初は「こんな切り口があるんだ!」とさすがに面白く思っていたけど、そのうち雨後の筍になるのを見て、そこからずっといろんなパターンをチェックし続けている。
もともと心理学系の学問にも興味があり、どちらかというと民俗学や社会学に興味を持っていた。(どちらもむずかしい学問だし、まったくお金にならない)こんな些細な興味の継続だが、実は振り返ればかなり大きな資産になっていることに気が付いた。

人には、必ずグリットがあり、それがもたらした小さな恵みがある。
歳をとればとるほどね。
それを役立たせるかどうかは、ほんと、その人にかかっている。

グリットを発揮する場所をもっと意識的に選んで前のめりでやってきていたら、それこそ金メダルとか全然取れたんだろうなって思う。

別に金メダルが目標ではないけれど、グリットを発揮する場所はちゃんと選ばないといけないし、間違ったところで発揮しようとすると人生を潰す。
最低限、下位目標のために人生を潰すなんて愚かなことはやめなくては。

価値観を探す事と日々の生活をうまくやる事

私は時間に関わるサービスを作って販売するビジネスをしている。
だから、すごくこの本には商売の面で、サービスの内容についても深い影響を受けてしまったと言わざるを得ない。

なぜなら、時間こそが人生なのだ。
それをどう生きるかという事を、目の前の事をうまくやるという小さなことから、大きな夢を達成するという俯瞰で見る事まで、両方をうまく合致させ続けながら進むことが大事で、それが目的なのだ。

やり抜く力とは、今を犠牲にする方法ではないが、未来のために今を差し出す一番効率がいい(ただし結構大変な)方法だと思う。
今を無駄にすることなく、未来をより大きく美しく豊かにさせる努力だ。
ただ、未来にはなにが起こるかはわからない。
大地震があった国に住んでいる日本人は、身近にそれを感じた。
未来はいつだって不安定。だけど、そうでもない部分もある程度はある。

最高の未来を約束するわけではないが、現在を未来のために使う最高の方法はおそらくこれだ。

とっても地道な方法だった。
でも、無駄な根性論や迷信のようなものをきれいに取り除いた、地道な方法だ。
単なる根性論だと、電通の過労死問題のように「そこにしがみつく必要があるのか?」という部分にエネルギーを使い果たしてしまう可能性が大いにある。なにせ人間は見栄っ張りで、本来の目的とは違うパフォーマンスをしがちで、それが目的とずれてきていることに気づけずに5年とか平気で経過しちゃう。コワイ。

未来のために時間を投資する方法=グリットなのだと思う。

高い集中力をもって事に当たると、的確なフィードバックを得て鍛錬することと、それを計画的に配置する。それを長い年月やり続ける。

むしろこれで失敗する例を見てみたい。
つまり最高に確実な方法という事だ。

高い集中力というのがけっこう難しいので、まず全体の工程表を作る。
目標の階層構造を理解して、自分の目標はどんな階層になっているのか確認する。
そして、自分が必要とする技術はなんなのか精査して、それに取り組む(楽しく、没頭する)時間がなるべくたくさんであること。

そうなれば、きっとその人生は有意義なものといえるだろうし、誰かに対しても大きな利益を共有してくれるのだろう。
ただ、それは誰かのためにやるのではなく、最初は絶対的に自分のためにやる。そこから、いつか最終的に「まあ、わたしも人間だから、人間の発展に寄与するのはやぶさかではございません」程度の事でいいのだと思う。

けっして、誰かが自分のために他人のグリットを伸ばすなんて事は不可能なのだ。それは、親でさえ、子供の人生を変えられない。
そのくらい、きっと人の人生というのは神聖なものでもあると思うし、そうあれたらとちょっと願う。


やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける
アンジェラ・ダックワース (著), 神崎 朗子 (翻訳)

つよく生きていきたい。