見出し画像

クラーナハ展はMッ気好きの裸婦多め

滑り込みクラーナハ展です。1/15までです。25日と勘違いしていて、大急ぎでいってきました。

「ホロフェルネスの首を持つユディト」
生首をつかんだ絵の一部

実は初めての西洋美術館。
世界遺産に登録されたけど、落ち着いたものです。

クラナッハって教科書に載ってた気がするけど、やっぱり昔はクラナッハって言われてたみたいです。日本では宗教改革のマルチン・ルターの肖像画で有名ですが、宮廷画家として三代に渡って王に仕えて肖像画や宗教画を量産しまくった、メディア王みたいな節がある人という事らしいです。

キリスト教に傾倒した主君のために宗教画を描きまくり、工房を構えてたくさんの弟子に量産させ、クラーナハ出版社みたいな感じになっていたとのこと。

出版社、かつオーダースタイル。でも版画は廉価版もたくさん出すよ!
荘厳な宗教画、家の威信を示す結婚の記念の絵画、ブランディングのためのアー写撮影(肖像画)、そして殿方の嗜みのエロヌードまで!
という、圧倒的な仕事量と質の高さ……。

技術者としての卓越した技量、指導者としての力量を併せ持った上に、芸術家としての資質が溢れていたクラーナハ大先生。
宮殿のアートディレクターであり、グラビア撮影のカメラマンであり、市長を務めたりもする巨匠文化人枠。

どんな人だったのかなー。
いまいち人となりが見えてこなくて、不思議な感じの展示でした。

圧倒的な質量。仕事の量は、当時から名高かったらしいので、相当なものだったのだと思う。
仕事が大きすぎて、個人の顔が全く見えてこない。

そんな中、とても良かったのが、版画の「聖アントニウスの誘惑」です。
空中に浮かんだ聖アントニウスに悪魔が群がっている図なんだけど、その悪魔たちのデザインがとても素敵だった。キャラクターっぽさがあって、楽しんで描いた感じがあって。
絵画は発注者がいるのがほとんどで、クライアントのいる仕事になるけれど、版画は自由に描けたらしい。なので大きな作品とは画風がちょっと違って、精密な線画なんだけど、落書きっぽい筆が走ったという感じがする。もちろん、とんでもなくうまいんですけど。

ほとんどの絵画はオーダー品で、基本的に宮廷画家のクラーナハは主君の銘によって絵画を制作していた。王はクラーナハに描かせた宗教画を家臣に与えたり、時にはエロ絵を与えていたらしい。
エロ絵は権力。コンテンツ産業ってこういう事ですね、ポルノを保存する力が強すぎて恐ろしいよ。
そのエロ絵的なものが、今日このようにありがたく展示されているという事ですね。

全体的に、少女のような中性的な裸婦が多くて、なんというかロリ趣味な雰囲気。顔つきも冷たくて、表情が読み取れない感じ。
そして圧倒的な白い肌の表現力。白くて、血の通った感じ。近くで見ると青い静脈がかなりくっきり描きこまれた作品が多かった。聖母子像の幼子イエスなんか青筋出まくり。

有名なところでは「ルクレティア」。貞操を守るために死んでいった女のモチーフをすらーっと脱がせてしまう。あと「正義の寓意(ユスティティア)」もとても有名な絵ですね。

ビーナスをそこら辺にいる女の子を脱がせたかのように描いたのは、クラーナハらしい。当時流行の髪型とアクセサリーだけをつけて、すっぱりと全裸の女の子を「美の女神です」って。
たぶん、前からそうやって描かれてきたけれど、最大手が公式にそれをやった(宮廷画家の工房で大量生産、しかも王が諸侯に贈り物にした)という。

ちょっと退廃的な感じなのが、またなんというのか、ひとつの流派を完成させた感です。冷たい感じの美少女に見下されたいというMッ気

ここらへんがピカソやバルテュスにも響いていったらしい。



最後のほうに飾ってあった「メランコリア」は、最高でした。
日本ではデューラーのメランコリアが有名だけど、同じ構図を使って描いたらしいものは、子供の姿をした天使がわらわらといるので、ちょっと吹き出します。

音声ガイドで印象的だったのは、ルターが「聖職者の結婚」を求めて運動を起こして、その結婚の肖像画をクラーナハが描いたりしていたらしい。

思えば、今は同性カップルにも結婚を!って言っている活動と似たような事をやっていたのかーと感慨深い感覚に。


ついでに常設展示もみてきました。
とてもすがすがしいので、気分転換にいいなと。

でも宗教画っぽいのはお腹いっぱいだったので、近代の絵画が一番気持ちよかったです。

入り口のロダン。人の手でこれを作ったのかと思うと、業とか、人間の表現に対するエグ味を感じる。作品のテーマ自体が「地獄の門」なので当たり前といえば当たり前です。

おなじエントランスに弓を引くヘラクレスのブロンズ像もあるんだけど、これの小さいやつを小学校の頃からずっと見ていたので、観賞するという感覚が薄れている事に気づいた。

エントランスは無料で見れるから、天気のいい日は観ておくのもいいなと。


おまけ。

上野と言えばパンダですが、こちらのやる気のないパンダは必見ですね。


つよく生きていきたい。