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3月の伊香保で廃墟寸前を楽しむその③推しが尊い感情が突っ走った竹久夢二記念館

さびれにさびれた、死ぬ寸前の街みたいになっている3月の伊香保温泉一人旅。
つまらないよ、すごい田舎だよ、と事前に忠告されたけれど、その忠告通りだったのだけど、私はこの滅びる寸前の静けさが不気味な伊香保温泉にテンションがすごかった。

一泊して、翌朝。
泊まった宿は、大きな旅館の別館でイギリス風オーベルジュを意識した作りということで、ひたすらビートルズがかかっていた。
ご飯は、大きなお皿にちんまりとした料理が何皿か出てくるスタイルで、味は良かったです。量は少なめ。きっとみんなそのあと石段街でお酒飲むのかな。(そしてエロいエンタメとかに行くのだろうか)
私は疲れているので早々に眠り、翌朝、雨で眼を覚ます。

本館の旅館のお風呂にも入れるということなので、せっかくだからと小雨の中歩いて早朝の旅館へ。
バブルっぽい作りの、広いラウンジ。誰もいない。誰もいない。
エレベーターで屋上にあるお風呂まで登り、小雨の中、展望露天風呂に入ってきた。

眺めは抜群です。

さて、風呂上がりでまた宿に歩いて戻り、朝食です。
相変わらずビートルズが流れている。事前にオムレツの朝食メニューをオーダーしておいた。

チェックアウトして、帰りのバスになるわけですが、午後のバスを予約していたので、ちょっと周囲を散策。

行きたい場所はいくつかあったけど、名物の水沢うどんのカレーうどん専門店と、竹久夢二記念館に行くことに。

泊まっていた宿から歩いていける範囲です。
でも道は徒歩を想定していない。車移動以外なにがあるのか、みたいな感じです。疎外感。

テクテク歩いて到着。

ここが。
すごかった。
いろんな意味で、すごかった。

竹久夢二は今でもファンの多い画家で、イラストレーター、装丁作家、詩人、歌人、ヒット曲メーカー、人気アパレルデザイナー、とにかく有名なアートディレクター。
榛名山や伊香保に別宅を構えて、そこに美術研究所を創立するという構想があったらしい。

この記念館は、とてもきれいでこじんまりとしているけれど、竹久夢二の活躍した時代のことを思うと、それはそれは豪奢な建物なんじゃないかと思う。

実際、とてもきれいです。

受付で、入場料を払います。ちょっとお高い感じだけど、観光地だし、みたいな値段感。

が、中に入るとお値段感とか忘れる。
ものすごい体験でした。

人がまばらで、いるんだかいないんだか。
奥の部屋に入ったら、センサーで照明がついて、音楽が流れ出した。

もうまるで、魔法のように。

私が一歩足を踏み入れると、ボッと音がして、まるで舞台女優を迎えるように、大広間の舞踏会に王女が入ったように、次々と明かりが灯っていく。
人は誰もいない。
美女と野獣の誰もいない魔法にかかった晩餐会のよう。
そしてどこかから夢二の曲が流れてくる。

これだけで、「ヒュー!」ってなりましたね。

しかも一時間ごとに100年前のオルゴールをいくつも聴かせてくれる実演タイムがあるのです。
アンティークの大きな、昔はドイツの駅などにあったという贅沢なオルゴールを、ほぼ私ひとりのために職員さんが説明して鳴らしてくれました。(喋り方はマニュアル通り)

あげくに、「こちらは夢二の時代のピアノで」といって、ふーん立派なグランドピアノだなあと思っていたら、「それではお聴きください」と職員さんがピアノを弾きはじめる!!!

私ひとりのために!

えっ。

知らないお姉さんにピアノの曲を捧げられたことある?
この不可思議な状況(美術館としてはマニュアル通り)、もうわけがわからなくて、完全に私の想定外で、オルゴールまでならわかるけど、最後にピアノの独奏に一人拍手を送る私。教会のような椅子の並んだ薄暗いホールで、私だけが。

なにこの状況。

そして、何事もなかったかのように、演奏は終わる。

あまりの状況にクラクラしながら、上の階の展示物を色々とみる。
「夢二先生が女中に渡したチップとおなじお札」という古いお金が置いてあった。これって、夢二作品じゃなくない?
展示の内容もとてもパーソナルな……っていうか、私この感覚知ってる。今風にいうとあれだ、「推しが尊いので、推しが建てたかった洋館を建てた」だ。

そう思って見てみると大体納得できる。
夢二推しの夢二担が集まって、この施設となったのだ。記念館ってつまりそういうことなんだ。
だから「夢二先生がくれたチップ」とか……わかる。銀テ大事にする文化と似ている。私はあまりそういう活動に詳しくないけれど。

えっ。すごくない?ちょっとすごすぎない?

実は他にも夢二施設があって、いくつか存在しているらしい。もちろん東京にもある。夢二担の推し方すごい。
たとえば、今の時代で言ったら、小山薫堂がこんな感じで推されるかっていうと、ちょっとそれはないんじゃないかなって思う。もちろんファンもいるし、いつか記念館作られても納得いくかもしれないけど、こんなにたくさん施設を作ったり、こんな熱を入れた、突然ピアノを弾きはじめるような、そんな施設を作るだろうか?

なんとなく夢二好きかもとか言ってすみませんでした。

まったく、魔法のような、意思疎通のできない、想定外の世界が私の前に現れた異界の空間すぎた。竹久夢二記念館。
多分平日の早い時間というタイミングの妙もあったと思う。

特別な体験だった気がします。
郵便番号が5桁のポストカードを買った。レトロ。


あまりの体験にクラクラしたので、お昼を食べることにした。
水沢うどんでカレーうどん専門店という游喜庵という、道の駅にあるお店。

普通に水沢うどんを食べようかと思ったけど、カレーにしました。

ちょっと嬉しくなっちゃって色々トッピングのせちゃったけど、かなりボリューミーで失敗しました。想像以上にたっぷりで、食べきれなかった。ごめんなさい!

和風カレーうどん。揚げ野菜トッピング。

となりの席には、3、4歳の女の子がいる夫婦がいて、帰り際にその子が一人でお子様椅子から降りるので大丈夫かなと心配そうに見ていたら、キリッとした顔つきで一生懸命椅子から地面に降り立った後、そのキリッとした顔のままで私に手を振ってきたので、私も無言で手を振り返した。

それを目撃したお父さんに苦笑された。

となりのテーブルの初老のご夫婦にもお手振りされて、奥様の方が前のめりで手を振っていた。

道の駅みたいなところでは、いろんなものが売っていて、結構楽しかった。
うどんと、湯の花と、近所の人が作ったであろう干し芋を買った。
干し芋は、スライスしたものじゃなくて、1本丸ごとって感じのものなので、当たりハズレが大きいと思ったけど、帰って食べたらすごく美味しかった。もう一袋買ってきても良かったな。

そして、高速バスまで時間があるので、温泉まんじゅうを買って、時間まで近くのカフェに行こうと向かったところ……
「今日はカフェやってないんです」
「えっ?お店、開いてるのに??」
「あー、お食事だけで…」
「えっ、お茶だけってダメなんですか」
「えー、はい……」
平日の人の来ない時は徹底して省エネである。お店は開いているのに。

まさかの、伊香保で露頭に迷う!

しかも雨が降ってきた。

仕方ないので、ホテルに向かう。レストランとかあると思って。
フロントに向かうと、「あ、そういうのなくって」
え??えーーー??
省エネ過ぎない??おもてなしされたければオンシーズンに来やがれ対応。
平日の昼間に一人でくるような客はむしろ損失、というオーラがこの豪華なラウンジから立ち上っております。

でも、いろいろいったら、お茶出してくれた。ラウンジにあるバーのメニューらしい。フロントの人はひとりだけ。

結局、ここで一時間くらい潰した。

本当に人がいない。
滅びる寸前の静けさと、最後の幸福。

この世の終わりを感じながら、紅茶を飲む。

そうやって、バスの時間になったので、無事に滅びる街を抜け出して東京に戻りました。

伊香保って、こんなに楽しかったんですね!
けして便利だとか素晴らしいとかではなくて、ただ私が面白かったというだけですけど、この世の終わりっぽさを満喫できました。廃墟はあんまり好きじゃないけど、まだ人が生きている滅びる寸前みたいなのは大好きです。


3月の伊香保温泉で廃墟寸前を楽しむ①
3月の伊香保温泉で廃墟寸前を楽しむ②源泉周りの謎看板

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つよく生きていきたい。