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百鬼夜行河鍋暁斎

滑り込みで「これぞ暁斎!」展を見てきた。前回もものすごく楽しみにしていたのに結局前期を逃して、後期の最後に滑り込み。ああ……。

河鍋暁斎、中学生くらいの時に知って、でもその頃はマイナーだったので展覧会はなく、孫筋にあたる女性が自力で散逸した作品を買い戻しながら作った自宅兼記念館として開いた場所でしか見れなかったようなうっすらした記憶がある。

とにかく絵が上手い。
べらぼうに上手い。

ちゃんとした師匠について養子になって家に入ったのに、放蕩して追い出され、「金がねぇ……」というところから、ジャンルを問わず描きまくった。
それが縦横無尽の河鍋暁斎を作り出したというのだから、放蕩する意味があるってものだ(ご家族はそりゃあ大変だったはず)

べらぼうに上手いので、真面目な鍾馗様(しょうきさま。端午の節句に飾るイカつい中国風の絵がそれ)だってうっかり鬼の学校の先生させたり、鬼を河原に尻を出させてカッパ釣りしたり、風神は鷹に追い立てられ逃げ惑ったり、画力有り余っちゃっててすごい。
「こんなふうにされる鬼の気持ちを考えた事ないんですかっ!」ってクソリプ飛ばされそうなボコり方。蹴飛ばしたり崖から吊るしたり…

この筆が滑った感、一度は明治政府を批判したと言って監獄送りにされる。

その後、反省して体制側に戻り(?)、全国的な絵画展でカラスの絵を出して最優秀賞をとる。これは前回の暁斎展でも見た百円鴉。
百円は当時の法外な値段という意味で「1億円」みたいな感じらしくて(正確な値段感覚とは違うけど、目玉の飛び出す額という意味)、それがまた話題になって、飴屋栄太郎の旦那が言い値で買うといい、そこでまた話題が話題を呼んだとか。

この話から鴉の絵の注文が山ほどきて、描きまくった鴉たちがかなりたくさん集められて展示されてた。まるでカラスの部屋。

最近ヤタガラスつながりで、カラスにご縁でもあるのだろうか。

暁斎の絵は、とにかくうますぎて、ごまかした気配が全然ない。サラッと描いてるのに。ナマズを引きずる猫も、ダンサブルなタヌキも、動物として正確なのに人間の動きをしてる。
春画コーナーにはキツネとまぐわう女とか、もーナチュラルに描いちゃっててさ(前回春画コーナーに巨根をふんわりなでる天女の絵があって爆笑したけどそれはなくて、きのこを愛でる女たちの絵が超ウケた)。

確かに習作ではないから迷いがないのは当たり前なのかもしれないけど、それにしてもどんな流派も画風も縦横無尽に上手い。

かわいいのから、迫力あるやつ、正統派、和洋折衷文明開化、どれもいいです。

なかでも個人的一押しはやっぱり大物、百鬼夜行屏風図

ちょっとユーモラスで躍動的たっぷりの付喪神の屏風の前で婚礼でも上げてみたい。
角隠しで赤い口紅して、物の怪の嫁入り行列のふり。
そんなこと思うくらい、やつら動きそうなんだもの。

子供の頃、死体が描きたくて処刑場から生首ひろって怒られるという程度なので、幽霊画は自分の妻の死に顔。
妻としては、どんな気持ちなのだろうか。それこそ恨んで出てきてやろうか、とでも思っただろうか。それを見つけたら、暁斎は大喜びでスケッチし始めそうだけれども。

芥川の地獄変をそのまま行くような、いやもっとポップにあっけらかんとして。

この人の絵が好きな理由は、技を極めながら世俗にい続けた事かもしれない。
おりしも江戸は終わり明治へ。戦争もあり、社会が強烈に変わるタイミング。
その時、ずっとそこにいて、なにも捨てず、むしろ盛っていってる。
磔刑のキリストの下で、神武天皇と孔子とその他アジアの賢人たちが和気藹々な絵とか描いちゃう。

基本、やりすぎ。

ところがそのせいでどのジャンルに並べたらいいかわからないから、ということで、美術界では除け者になってしまっていたというのも、あまりに不憫です。
作品は散逸、とてもポピュラーで人気の絵師なのに名前も忘れられてしまった。例えば鳥山明が70年後にすっかり忘れられたみたいな感じかもしれない。「ドラゴンボールだよ!?苦労して全巻そろえたのに!!」って外人にいわれて、「?」ってなるみたいな。

あ、いつものミュージアムショップチェック、今回は手ぬぐいとチケットホルダー買いました。百鬼夜行の手ぬぐい。でも、アルファベットいれないでほしいー。暁斎ってガツンと書いてくれるだけでいいのでー!
てぬぐい1500円。

若冲、暁斎と、ずっと前はあんまりメジャーじゃなかった日本の絵師が大人気になってきているので、そろそろ近代だけど田中一村が待機列メーカーになってもいいんじゃないか?奄美から持ってきてくれないかな!?と念じております。


つよく生きていきたい。