無神室を作って革命を起こしてみた

「神さまはみんなを愛しています」

「みなさんが生まれた時から、神さまはみなさんの心の中にいらっしゃるのですよ」

みなさんこれまでの人生で、このようなことを幾度となく聞いてきましたよね。

この国の人間は、皆神なんてものを信じています。彼らは私たちのような異端者に対しても、「あなたの心の中にも神さまが」などと宣うからタチが悪いですよね。

私の心の中に?いる訳がありません。

神なんてものは、噂話が口伝えでだんだん大きくなっていっただけの伝説にすぎません。全てを司る上位の存在に自分の存在理由すら委ねてしまう、あまりに愚かな人々にうんざりしている方も多いのではないでしょうか。

神が心の弱い人間の妄言だと分かっているのは、私たちだけなんです。

彼らをなんとか説得しようと試みると、どうしても説明出来ないひとつの難点があります。

それは、私は、神を知ってしまっているからなんです。私の親や、教師や神父や本やラジオが、私に幾度となく説いてきた神の存在は、私の脳内にしっかりと焼き付いています。きっとみなさんもそうでしょう。私は神の存在に懐疑的ではありますが、しかしこの神を認識する私の意識が、私の脳内に生まれながらにして存在していたのでは無く、後天的に植え付けられたにすぎないのだと証明することはできないのです。この状態では、私は神を生得していて、実体のない形で神は存在するのだという可能性を否定出来ないのです。

そこで今回は、これを否定できる人間を作ろうと思います!

私たちは後天的に神を知ってしまっただけに決まっているのだから、私の代わりに子供を作り、生まれてから神という概念に触れることの一切無いように育てれば良いのです!

これを読んでいる皆さんもぜひ、参考にしてみてください。

まずは子供を作りましょう。適当な相手を見繕い性交をします。これは簡単ですね。

次に子供が産まれるまでの間、土地を用意して屋敷を建てます。生まれる予定の子供は、ここで外界からの情報を遮断して育てます。子供に与えないのはあくまで「神」の概念だけなので、そのほか子供に必要なものはすべて神抜きで与える必要があります。ここは神を排除した、清潔な場所になります。無菌室をもじって、わたしはここを「無神室」と名付けました。

私は世界中の名著を取寄せ、その内容に神、ないしそれに準ずる上位存在に関する記述を全て削除して書斎に並べました。なかなか大変でしたが、これが終わったら次は映画、音楽、絵画などあらゆる芸術分野の作品でも同様の選別を行わなくてはなりません。皆さんの場合は既に私の用意したものがありますので、利用したい場合はぜひご連絡ください。

ここまでに半年もかかってしまいました。そろそろ子供が産まれそうなので、急ピッチで作業を進めます。

館の中だけで子供が十分に生育できるよう、遊具や玩具も揃えました。私以外の洗脳された人間は信用出来ないので、子供と接触させる訳には行きません。この無神室の中で、私が1人で子供を育て、神が生得概念でないことを証明するのです!

そして、ついに子供が産まれました!

ここからは地道に育児をしていきます。テレビやラジオは与えられませんが、私が付きっきりで相手をするので問題ないでしょう。

子供は大きな問題もなくすくすくと育ちました。1度少し目を離した隙に遊具から落ちて目の上を切る怪我をしましたが、直ぐに縫合したので大丈夫でした。病院には連れて行けないので事前に医療の勉強をしておいて良かったです。みなさんも病院、学校、その他のあらゆる施設の代わりを自分が全てをこなせるような準備をしておくと良いと思います。

私は料理が苦手だったのですが、事前に勉強もしておいたし、何より毎日2人前を作り続けることで今では相当な腕前になったと自負しています。やはり継続は力なり、ですね笑

すぐに子供は20歳になりました。ついに、神を知らない人間が完成したのです。私は各マスコミに、この世界の根幹を揺るがす大発明をした、明日の正午この無神室に来るようにと連絡しました。

マスコミの方々は初めは私の言っていることが理解できないといった様子でしたが、無神室で育てた我が子を目の前にすると様子が変わりました。彼らは口々に神を知っているはずだ、神という単語でなくてもこの世界を作ったもの、我々を作ったもの、全てを統べるものという概念は知っているはずだと問いただしました。しかし、我が子は彼らの言葉の意味を全く理解できず、地球は今から約46億年前、小さな惑星同士がぶつかり、だんだん大きくなって誕生しました、あなたの言う神とはその惑星たちのことですか?と返しました。

それからはあっという間でした。

世界中にこの話が広がり、我が子はたちまち注目の的となりました。中にはこんなのただの演技だという人や、神を侮辱したいだけだと罵る人、私を信仰のない狂ったエゴイストだと非難する人もいました。皆さんはくれぐれも私のように炎上しないよう注意してくださいね。

しかし、我が子が本当に、神を知らないのだということが分かってもらえたのでしょう。世界中の学者や思想家が我が子の話を研究し出し、大きな論争が巻き起こりました。神を知らない人間が存在しているということは、神は生まれながらにして我々の中にあるものでは無いということだ。ということは、神は人間が作り出したもので、本当は存在しないのかもしれない。たくさんの人々が、このことに気づき始めました。完全に私の思い描いた通りです。正直ここまで上手く行くとは思っていませんでした。

我が子の一挙手一投足に、世界中が注目しています。

海外で我が子のファンクラブが出来たそうです。

我が子を讃える人々が増えてきました。私としても気分が良いですね。各地の教会でデモが起きているそうです。信仰を捨てる人が増えてきたといいます。

我が子の言葉をまとめた本が出版されることになりました。

私は神ではなく彼を信じる。(I believe in him,not god)という言葉をスローガンとして掲げ、我が子を支援してくださる方々が沢山いらっしゃるようです。ありがたいことですね。

いかがでしたでしょうか。今回は無神室を作って、神を知らない人間を1から作ってみました。是非皆さんも試して見てください。

私は証明しました。神などいないということを。そして、私が無神室で作りあげた我が子こそ、新しい真理を教えてくれる絶対存在なのです。

(終)


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