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「夢見る少女じゃいられない」編集者であれ@コルクラボ編集専科

「どうやったらそんなにもヒット作品を生み出せるんですか?」
ヒット作を連発させている『少女コミック Sho-Comi』編集長の畑中雅美さんに対して、当然のように生まれたその質問から今回の編集専科の講義が始まった。さぁその答えとは・・・

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「当たるものを作っているからですね」

ドン!

圧倒的な強者の回答に、会場全体が震える。この人は次元が違う人なんだと、自分たちとは違う存在なんだと、そう感じざるを得ない回答ではないか。伝説的な野球選手の長嶋茂雄さんがバッティングのコツを聞かれて答えた「来た球を打て!!」のような天才と凡人の差を感じている中、そのあとに続く畑中さんに紡がれた言葉の響きに僕らは救われるのである。

わたしの武器は「凡人力」です。

その武器の名称が僕らを安心させてくれたのは間違いない。自身の感性が凡人だから、世間の感覚と近いことがヒットを生む要因という意図のもと発せられた言葉ではあったのだが「凡人力」という表現だけで、僕らは夢を見ることからスタート出来た。そして、この言葉のチョイスすらヒット作連発の編集長だからこその「他者への寄り添い」だったのだとレポートを書くために振り返って気づいたことでもあった。「夢を見させる」ことがどれだけ大事かは、これから語られる畑中さんの「当たるものを作る」ということを理解していく上でのど真ん中となるのである。

時代ごとに変わる「見せたい夢」を考える。

畑中さんが言うには、世の中の物語は「現実直視型」と「現実逃避型」の二つに分けることが出来るという。そして、ヒット作というのは圧倒的に「現実逃避型」であるということ。たしかに、現実を知らしめてその頬をピシャリとたたくような「現実直視型」の物語は多くの人にとって受け入れ難い。「偏差値という現実を見たいのは頭の良い人だけ」という表現が秀逸で、まさにそうだと思った。
多くの人が物語に求めるものは、現実ではなかなか起こらないけれど、もし本当にこんなことが起きたらどんなに素敵だろうという夢が描かれた「現実逃避型」の物語である。

ただ、ここで当たり前のように思い浮かぶ疑問が、ヒット作の多くが「現実逃避型」であると同様に、ヒットしないものの多くも「現実逃避型」ではないだろうか?

この疑問は畑中さんの「世間の空気を感じる」というスタンスに答えがあった。

ヒット作がなぜヒットしたのか?それは「多くの人が求めていた」からです。そして時代によって求められるものが変化する中で、求められているものを描けるかがヒットするかどうかの肝になります。つまり「現実逃避型」の物語において、現実逃避をさせてあげるためには世の中の「現実」を理解した上で物語を描けないと、それはただの「非現実」の物語となる訳です。この時代ごとで読者の目の前に起きている現実を踏まえて、そこから抜け出す物語を描くことがヒットに繋がるという訳です。

少し抽象的になり過ぎたので、畑中さんが別の場で語られていたある作品に対する見解をご紹介します。

「故意ですが恋じゃない」という作品があります。主人公の高校生はクラス替えのときに、同級生から「友達になろう」と話しかけられるんですが「私はぼっちでいいんで」と拒否します。その頃に「SNSで友人と繋がり過ぎていて疲れる」という話題が盛り上がっていました。そんな中で彼女が読者に対して提案した主人公が「友達はいらない」主人公だったんです。これが今の女の子の気分なんだろうと思いました。友達に依存して、常に顔色を伺っているのが現実に起きている「辛いこと」で、そこから外れたいのが夢だったと思います。
(宇野常寛NewsX vol.37 ゲスト 畑中雅美 より抜粋)

まさに時代の空気感を読むことと夢を見させてあげることにフォーカスされていて「現実逃避型」に関して理解が深まる例と言えます。
そして、ヒット作にはこのように「時代を捉えたテーマ」と「逃げ出すことができる夢」があるという観点で見ることが出来れば、ヒットしているものがなぜヒットしたのかを分析することが出来る。それが出来れば、ヒットを生み出す力を育むことに繋がるという訳です。

感覚ではない、理論立ったニーズの追求

畑中さんの仕事術の中心は、分析と仮説にあるように感じた。その中でも印象的だったリサーチ方法について書かせていただく。

「人気漫画が人気を落とす時の傾向を掴むこと」

畑中さんはヒット作がなぜ当たったかを分析するだけではなく、人気の作品がなぜ人気を落としたかまで分析しているという。実際、そこには傾向があって、たとえば「主人公が何をして良いか分からない状態」や「主人公が他者によって答えを導き出したとき」に人気が落ちることが多いという。つまり、人気が落ちるというポイントとは「読者がガッカリする」ポイントであるということを理解することで、ガッカリさせないように物語を作ることが出来るということ。まぐれ当たりではない、ヒットを連発する編集者ならではの「負けない」ための思考法だ。さらに言うと、人気漫画の共通点は、主人公がしっかりと「夢を語っている」「どこに向かうが明確である」というガッカリポイントの逆と言える。少年漫画で分かりやすいのがONE PIECEのルフィだ。「海賊王に俺はなる」という夢を掲げている。その夢を言わずして、海賊の仲間探しをされても感情移入は出来ないし、敵をぶん殴っても爽快感は無いのは想像にたやすい。キングダムの信なんかもまさにそう。(話がそれるが、企業のブランディングにおいても、世界をどうしていきたいを語れている企業は強いし、ファンがつく。)

他にも畑中さんは、ヒット作を作るために、本屋の地域ごとの売上データを分析し、どういう本がどういう人たちに刺さっているかの仮説を立てたり、未婚率や専業主婦の人口といった統計データを調べることで世の中の人たちのニーズを読み解くことまでを徹底されているようで「肌感覚」とは言い難い、分析と仮説の繰り返しによって培われた「スキル」だと感じた。ただ、これらは「努力」によって培うことは可能だ。それにも関わらず、多くの人がこの方法を知っても「やらない」を選んでしまう。それもまた人間であるから「現実逃避型」の物語に価値があるとは言え、自分が物語を届ける側に回りたいのであれば、努力することだ。人に夢を見させる「現実逃避」を作るために「現実直視」を徹底することが必要。「凡人力」という夢のような言葉からは目覚めて、現実を直視し、圧倒的努力あってこその結果であるという認識を持つことも今回の講義において重要なポイントと言える。

「元気に出来る物語を作りたい」

今まで述べてきた「世間の空気を感じる」ことも、「ヒット作を分析する」ことも、それらすべては「物語によって人を元気にさせたい」という畑中さんの強い願いが原点にあると感じた。

「ヒットの部数は、癒された人の人数」
(朝日求人WEB「仕事力」より抜粋)

こう語るのは、畑中さんが作品を作る上で売れるためだけじゃない自身の哲学に基づいて作品作りをしてきたからこそ言えるのだと思う。実際、読者を傷つけないための配慮をしていることも感じたし、読者の心を救いたいという想いがひとつひとつの言葉に溢れていた。

僕自身「仕事は贈り物」だと思っているし、そこを追求していきたいからこそこの編集専科に足を運んでいる。今回は、その贈り物を選ぶ際に、どれだけ相手のことを考えることが大事かを教わったように思う。友人に贈るプレゼントをデパートに行ってから決めるようなことや自分の好みで選んでいたのかなぁと反省した。もっと相手のことを考える時間を費やしていきたい。そして、少しでも世の中に笑顔を増やしたい。そう思えた1日だった。

最後に、自分に問うてみよう。

自分の仕事の先に、誰かの笑顔が想像できますか?

これをとことん突き詰めることができれば、僕たちの仕事はきっと誰かを笑顔にすることが出来る。それは、漫画作りだけじゃないすべての仕事に共通する考え方だと言える。

以上、最後まで読んでくださりありがとうございました。

戸田良輝


追伸
講義の本題とは違うのですが、畑中さんの「ていねいに言葉を届ける」姿勢こそが夢を見させてあげられる力なんだと講義中にふと思ったことがありました。

それは、講義中の話し方から伝わってきました。
たとえば、東方神起について触れるシーンでも「韓国のアーティストの・・・」と説明をつけたり、編集を目指す人ばかりの講義にもかかわらず「雑誌には、アンケートという仕組みがあって・・・」と説明を加えながら話されていて、どうしても自分の中でのメジャーと思っているものは説明をしないで話をしてしまいがちですが、畑中さんはちゃんと説明されていました。

これは、物語を届けるにあたって、本当に素晴らしい力だと思うのです。実際、コンテンツに溢れ、多種多様な価値観が誕生した時代に、自明のことなんて存在しない。だからこそ「ていねいに言葉を届ける」を普段から実践されているのだと。もっと言うとシンプルに思いやりがあるお人柄なんだと。そこが「夢を与えることが出来る人」なんだと感じて、あったかい気持ちで帰路につけたのでした。ただのファンとなった気もする(笑)
畑中さんの質問箱の回答もそんなお人柄に触れられるのでオススメです♫


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戸田良輝(とだよしき)

採用責任者&リピートマーケ責任者@通販会社。社内外問わずエンゲージメントを最優先事項とし、新卒社員の3年以内離職率4%+商品リピート率90%over。コミュニティとコミュニケーションの価値創出。性格は、熱め。夢が語れて、夢を応援できる大人でいたい。

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