第四章 冬のぬくもり 1


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 いつものように早朝に目がさめる。何時に寝ても、だいたいおなじ時間に目がさめる。そのあと眠くなることもあるが、とにかくいったん目がさめる。
 いつもは寝る前に遮光《しゃこう》カーテンをすこしあけ、夜明けの光が射《さ》しこむようにするのだが、今日はそれを忘れている。が、遮光カーテンのむこうはおそらくうっすらと明るくなっていることを私は感じている。
 午前六時をすぎているだろうか。
 私の予想はほぼ的中《てきちゅう》する。サイドテーブルの時計は六時を数分すぎた時間を示している。私の腕のなかには真衣《まい》がいる。
 私は真衣の首の下から自分の左腕をそっと引きぬく。真衣は一瞬身じろぎするが、目はさまさない。まだ深い眠りのなかにいるらしい。
 私は身体《からだ》を起こす。介護ベッドはふたりで眠るには狭く、もし真衣がこれからここで眠るようなら、ベッドを変えたほうがいいかもしれない、と私はかんがえる。そもそも、もう介護ベッドを使う必要性は感じなくなっている。とっくの前から、モーターを使わずとも、もうひとりで身体を起こすことができる。
 ベッドから降り、ベッドをぐるりとまわって、窓際《まどぎわ》に行く。遮光カーテンをすこしだけあけてみる。
 予想していたとおり、外はうっすらと明るくなっている。空はまだ曇っているのか晴れているのかわからないが、この時間にこの明るさがあることを見れば、晴れているらしい。やがて日がのぼれば、青空になることだろう。窓から見える木立《こだち》の上を、一羽の小型の鳥が小刻《こきざ》みに羽ばたきながらすばやく横切っていくのが見える。
 今朝《けさ》はとても冷えこんでいることに気づく。窓の下のほうがすこし結露《けつろ》している。外気温《がいきおん》はおそらく、一〇度を切っている。ベッドを振りかえると、私が抜けだした布団から真衣の手と肩がはみだしている。
 私は真衣の肩に布団をかけなおしてやる。彼女は目をさまさない。
 あれは何時くらいだったのだろうか、と私は思いかえす。私の指が彼女のもっとも鋭敏な中心部に向かったとき、そこはもう迎えいれられる状態になっていた。私は沼をまさぐり、芯をさぐりあて、真っ白な紙に初めて絵筆を置くときのように慎重になぞった。真衣が声をあげ、弾《はず》み、私の手をつかんできた。私の身体にも手をのばしてきて、本来彼女と接合するはずの器官をまさぐってきた。力を失ったままのそれを彼女が愛撫してくるのを、私は悲しみとともに受けいれた。私の悲しみを彼女の喜びで打ち消そうと、私は技巧をもちいた。
 私の腕のなかで真衣は押し殺した声をあげ、何度も身体を震わせた。

白楽ないと@横浜白楽〈ビッチェズ・ブリュー〉(10.31)
白楽〈ビッチェズ・ブリュー〉での水城ゆうによる即興ライブセッションがひさしぶりに復活。10月31日(土)ハロウィンの夜です。

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