見出し画像

軒先にて

 
 
 
 いつか返そうと思っていた人が、いつかの内に、いつの間にか自分の傍からいなくなっているなどと、ほんの少しも考えてもいなかった。

 変わらずに迎えてくれた古い家。それは、ちっとも変わっていないかに見えたのに、そんなことはありえなかったのだ、と思い知る。いや、変わったのは自分も同じなのだ。

 若い時分には考えもしなかった。まだ若く力強い両親が年老いて行き、いずれはこの世を去ってしまうなどと。そして、いずれは自分も。

 経て往く己の年齢とを手のひらの上に並べ、比べてみることもなかった。

 ──あの人も、同じように見つめていたのだろうか。

 去り往く時、去り逝く人を。

 あんなにも早い別れの日が来るなどと、誰が想像しえたのだろう。戦いの傷痕を心だけでなく身体にも刻み、その傷ゆえに去らねばならないなどと、誰が。

 声を限りに絞り出し、弟に託した後事──最期の最後まで妻のこと、子どもたちのこと、家族のことを頼みながら去らねばならなかった人を、それでも恨んだこともあったのだろうか。その人の中に、無念以外の気持ちがなかったであろうことを知っていて、尚。

 女であることも、妻であったことも捨て、家族のために、生きるために、昼夜問わずただただ働いて、働いて、働いて──切ない夜を越えた長い人生の先に、

『こんないい人生置いてけん』

 そう言わしめた時、それは過去に溶けて行ったのだろうか、と願う。

 伸ばした背を映す、憂い帯びた瞳が見つめる先に。

 喜び宿る梁、哀しみ佇む軒下。

 幾多の年月を超えたそれらが、入れ代わり立ち代わりこの身体を通り過ぎて往くのを感じる。

 今、目の前にある景色は変わっても、切り取った景色はあの頃のまま、いつまでも雁木の向こうにあるのに。

 変わり過ぎて、もはやかつての原型すら、自分でさえわからなくなってしまった。

 それでも、おぼろげに形作られる記憶たちが迎えてくれる頃が近づけば、誰にも告げず、ひとり背負っていた人たちが、それでも責めずに私の命の中にいることを知る。

 ──そして。

 また、あなたを想う日がやって来る。
 
 
 
 

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

そのスキ♡返さないぜ?♡
45

悠凜

ヘッダーは鶏三昧さんから♪  妄想像と小匙半量のエセ理性で出来てます。  目次→ https://note.mu/yuurin/n/nc720b801f541  プロフィールらしき何か→  https://note.mu/yuurin/n/n83e6f527c114

~真っ昼間でも読んどくれ~

【目次】→  https://note.mu/yuurin/n/n42973740e8fa   現実系小説モドキ
2つ のマガジンに含まれています

コメント13件

ふゆほたるさん、ありがとうございます。
そうやって、お盆に毎年会いに行ってます^^
今年も行く予定なのですが、年一ドライバーは緊張しております(笑)
仕方ないなぁ…あたすが 代わりに運転しましょう!笑
命と家族についていろいろ思って、ひたりました。涙が出ました。
いまこさん、ありがとうございます(*´ω`*)
また、お盆が近づいているので、越後を想いながら何となく小説風にしてみました。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。