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おまかせします

 
 
 
中学一年の時に仲の良かったクラスメイトに、真っ直ぐでサラサラの綺麗な髪の毛の女の子がいた。どれくらい羨ましかったか知れない。まあ、顔も可愛い子だった。

高校生になるくらいまでの間に、自宅の近くの美容室に行ったのは1回だけだと思う。あれは小学校の入学式の時だった。今までにない髪型にされ、「これ、私の頭じゃない」と言い放った私の入学式の集合写真は、腫れた目のぶーたれ顔だ。

もちろん、それまでもそれからも、一度も髪を切っていないワケではない。そんな平安貴族みたいな生活、いくらウン十年前だって成り立たない。

ではどうしていたのか、と言えば、隣の県に住んでいた母方の伯母に切ってもらっていたのだ。

伯母はレザーカットから着付けセットまで出来る開業美容師だった。私はまだヨチヨチ歩きの頃から、いっちょ前にプロの美容師に髪を切ってもらっていたのである。

七五三の時でさえ、伯母のところで着付けもアップもしてもらい、帯を潰さないように車の中では寄りかからずに移動したと言う程。(シートベルト着用義務?何それ、そんなものなかったよ、な時代)

小学校を卒業する頃まで、私たち家族は月一で土曜日の晩に伯母の家を訪れていて、その時に髪を切ってもらうサイクルになっていた。中学生になってからは、土曜日の授業が昼で終わるとひとりで電車に乗り、泊りがけで遊びに行きがてら切ってもらうと言う極道生活。

これは非常に贅沢でありがたいことではあったけれど、後々、私には弊害をもたらすことになった。まあ、私の性格故、なのだが。

ヘッダーの写真をご覧戴けばおわかりになるように、私はワリと『一般的』を通り越したクセっ毛の剛の者である。今はカラーをしているが、素でも色が茶色っぽく、ところどころメッシュを入れたような状態で、通りすがりの人にじっと見られたりしたこともあった。そりゃあ、子どもがメッシュを入れている、と思えば驚くだろう(笑)。

あ、ちなみにヘッダー写真のようにするには自然乾燥が手っ取り早い。ドライヤーを使うともっとフワフワの綿あめのような、悪くするとスチールウールのようなチリチリ状態になる。

今や髪の存在が希薄となった父も元々はかなりの強クセっ毛、伯母も相当な剛の者、若い頃の叔父の前髪は某・マッケンロー氏のような巻き貝型でさえあった。

母に至っては、ツヤのある黒髪にも関わらず何故か巻き毛で、大きい旋毛が2つ、小さい旋毛も2つだか3つあると言う『癖毛の女帝』のような人だ。馬で言うなら、私はまさにサラブレッドと言って良いだろう。……癖毛故に、特に嬉しくも名誉でもないけれど。

高校生になり、伯母のところに定期的に行けなくなった私は、近所で髪を切ってもらう事を余儀なくされた。手間暇かかる髪であるが故、ほとんどの期間をショートヘアで過ごしていた私は、カットなどどこの美容室に行っても同じようにしてもらえると考えていた。

けれど、それ以前の次元で、私は美容室問題に直面したのである。

小一以来、初めて伯母のところ以外の美容室の椅子に座った私は、担当美容師さんの「どんな風にしますか?」のひと言に凍りついた。

「……え、え〜と……」

伯母のところでは、私はただ椅子に座るだけで良かった。座っておとなしくしていれば、伯母が如何ようにもしてくれていたからだ。

(……そ、そうか……自分で注文しなくちゃダメなのか……(滝汗))

高校生ともなれば、好きなアイドルやら俳優やらファッション雑誌やら、いくらでも見本はあるだろう……と思われたそこの方、申し訳ない、私には全くお手本はなかった。

とにかく、ファッション全般にほぼほぼ興味がなかった。アイドルにも興味がなかった。そして己の状況をあまりにも正しく把握していた。当時の私の見かけは、パツンパツンの顔体に真ん丸メガネの『リアル・アラレちゃん』である。しかもショートヘアの。到底、「こうしてください」「ああしてください」等と言えた身分ではない。

それ以来かなりの年数、私はあまりに困った時には「おまかせします」と言う、非常に迷惑極まりない注文を出すことになった。「ここ、もう少し短くしますか?」とか訊かれれば答える程度。

今の美容室に落ち着くまで、2〜3軒のお店にお願いしただろうか。ちなみに、その2〜3軒のお店はどれも既にない。それでも、私は美容室は伯母のところ以外は地元と決めていて、絶対に地元以外には行かなかった。何故、地元かと言えば、切った髪がついてる状態で電車移動するのが嫌いなのである。

今の美容室には、かれこれ20年以上通っている気がする。まあ、名前は何度か変わっているけれど、一番古くから知っている人がいるからだ。とは言え、指名はしない。行きたい日時が優先なので、その時に空いてる人が担当になる。

そして、そんな私ではあっても、何とか希望は伝えられるようになっている……気はする。大きく髪型を変えないせいもあったけど、それでも、昨年の秋頃までは珍しくヘッダーの写真のように伸ばしていて、今はまた短く戻している。

この20余年の間に、パーマ、ストレートパーマ、縮毛矯正……とありとあらゆることを試し、失敗したり自己満足したりして来た。パーマはクセに負け、ストレートパーマもクセに負け……。最初に書いた同級生の綺麗な髪の毛を思い出して、当時流行り出した縮毛矯正にも手を出し、憧れのストレートヘアを手に入れて大喜びしたものの、周囲からは酷く不自然と不評に終わったりもした。

もういい加減諦めたこの歳になっても、子どもの時に見たシャンプーの宣伝を思い出すことはある。真っ黒で真っ直ぐなツヤツヤの美しい髪の毛を。憧れても憧れても、縮毛矯正をしても手には入らなかったないものねだり。

それでも、今ではヘアカラーはしても、もうパーマやらストレートにはしようと思わない。仕事に行く時は、前髪だけはアイロンで伸ばすけど(湿度が高ければ無駄な足掻きと成り果てるが)、「自然でいいじゃん?」って思えるようになった以上に、クセっ毛の利点にも気づいたからだ。

そう──真っ直ぐで真っ黒な髪の毛より、断然白髪が目立たないのである(笑)。

クセのせいと細さで絡まってどうしようもないし、傷んで見えるし、いろいろ問題もある髪の毛だけれど、今ではそれほどイヤでもなくなった。それは歳のせいもあるんだろう。

とにかく面倒くさがりの私なので、最低限の手入れで、何とか見苦しさを少なく出来たら嬉しい限りではある。

まあ、やっぱり美しい髪に憧れはあるけど(笑)。
 
 
 
 
 
 

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