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最近の【ほぼ百字小説】2023年7月29日~8月7日

*有料設定ですが、全文無料で読めます。あ、投げ銭は歓迎します。

 だいたい18篇くらい溜まったらそこまで、という形式になりました。まあそのほうが何かと融通が利いていいですね。あとはべつに変わりないです。ひとつツイートしたら、こっちでそれに関してあれこれ書きます。

*イベントのお知らせ
新刊【ちょっとこわいメモ】の朗読+対談イベント。

山中崇さんの朗読、楽しみです。

7月29日(土)

【ほぼ百字小説】(4603) 火星の欠片を掘りに丘へ行く。昔、こなごなに砕けてしまった火星が、ここに降ったのだ。どのあたりに埋まっているのかがなんとなくわかるのは、自分の中にもそのときの小さな欠片が埋もれているからだろう、と思う。

 私のデビュー作は『昔、火星の在った場所』という火星狸量子論小説で、つまりこの中にすでにSFも狸も猫も入っている。やっぱりデビュー作に全部入っている、というのは本当だなあ、と思います。前にも書いたと思いますが、その火星にちょっと戻ってみようかな、と考えているところ。まあその準備のメモみたいなものです。こういうのをとりあえず何十個か書いて並べてみて、それからどうするか考えるつもり。

【ほぼ百字小説】(4604) 火星に行けばなんとかなるさ。そう言われてその気になり、地球人をやめて火星人になることにした。地球人の幸せには金がかかるが、火星人なら格安で多幸になれる。あ、蛸になるってことじゃないよ、と係員は笑った。

 ということで、火星シリーズ。火星と言えば蛸、でもないのかな。まあこんなのも入れときます。

7月30日(日)

【ほぼ百字小説】(4605) 亀が出るSFは亀SFだし、亀が出なくても亀を感じさせれば亀SF。亀を感じさせなくても、それによって読者は亀の不在を感じるという形で亀を感じるから亀SF。同様にSFでなくても亀SF。これもそんな亀SF。

 まあ亀ですからね。なんでもありです。SFだった昔はなんでもありだった。ということで、昔はSFだったものが今は亀SF、なんてことはないですけどね。これからも私の書くものはすべて亀SFということでいいんじゃないかと思います。
 あ、以下の亀SFは八月二日まで無料で読めますよ。

【ほぼ百字小説】(4606) 昔、暖房器具のないアパートで暮らしてた頃、亀は部屋の隅で冬眠していて、死んでるんちゃうか、とよく心配になって、亀の鼻先に唇を寄せて鼻息を確かめていた。トランペットのマウスピースに唇をあてると思い出す。

 これまた亀。そして毎日暑いので寒い話。ほんとです。冬眠が深くなるとつついてもあんまり動かないし、それでいつからかこの方法で確かめるようになった。唇だとそういう微妙な息でも感じられるんですね。指だとわからないと思う。そして、トランペットのマウスピースは、冬場は冷たい。亀の甲羅と同じくらい冷たい。

【ほぼ百字小説】(4607) 輝く大阪をプロジェクションマッピングとミニチュアで埋立地に作り直すことになったのだ。もちろん市民もプロジェクションマッピングとミニチュアに置き換える。なんと言っても安上がりだし、以前より輝くだろうし。

 万博って、ほとんどプロジェクションマッピング頼みになると思うんですよね。いろいろ間に合わないし建てる予算もないし、もう全部プロジェクションマッピングでなんとか、とか。いやどうなることやら、ですね。

7月31日(月)

【ほぼ百字小説】(4608) いつからか世界には亀裂が生じていて、それは日に日に大きくなっているらしい。そうでもなければこんなところにいるはずがない。そこにもここにもあそこにも、いるはずのないところに亀がいる。亀が列を作っている。

 亀です。亀裂ですね。まあそれだけ。関係ないですが、そこにもここにもあそこにも亀がいる、という夢は子供の頃によく見てました。お金を拾う夢と同じ感じのやつ。うわあ、と喜んで、拾いきれなくて困るやつ。

【ほぼ百字小説】(4609) 世界に生じた亀裂から、次々に亀が。亀裂の縁にかけた両手で、重い甲羅を引き上げるようにして転がり出る。その甲羅にも亀裂があって、そこからも亀が。それで、この世界もそんな甲羅のひとつであることを理解する。

 亀です。続きです。亀裂から出る亀の謎解き。いや、謎はまったく解けてませんが。まあ世界が亀の上にある、というのは定番ですからね。亀フラクタル世界観。

8月1日(火)

【ほぼ百字小説】(4610) 飛行機雲がくっきり見える日で、空には白い二本線がまっすぐ。それが突き刺さるように丸い雲の中に消えている。そこへ別の飛行機雲が伸びてきて同じ丸い雲の中へ。なぜかどちらも出てこなくて、ずっと見上げている。

 ありますよね、飛行機雲がくっきり見えるとき。温度とか湿度とかいろんな条件があるんでしょうけど、とにかくすごくきれいに見える。私は飛行機雲がかなり好きです。人間が作ったものであのくらい長くてまっすぐなものはないんじゃないかと思う。そんなわけで、よく道端に立ち止まって見上げてます。

【ほぼ百字小説】(4611) 猫じゃらしが群生している。風が吹くと猫じゃらしの穂が波を作る。それはいかにも猫がじゃれつきそうな動きで、近頃、行方不明の猫が多いのはここに迷い込んで出られなくなっているのでは、と近所の猫の飼い主たち。

 人間を誘ってくる怪奇スポットみたいなのはわりとありますが、それの猫版みたいな感じかな。猫のサルガッソー海みたいな。たんに猫の飼い主たちの間で広まっている都市伝説かも。

【ほぼ百字小説】(4612) 憧れのお城を自分で作ってしまう人はたまにいて、つまりこれもそうなのか。生い茂る夏草に隠れてはいるがたしかに石垣、そして大人の背丈ほどの天守閣だ。そこから下界を見渡しているあの小さな人が製作者なのかな。

 あるあるですよね、お城を作る人。でもさすがに実物大というわけにはいかなくて、何分の一かのお城になってるようです。で、これもだいぶ小さいお城なんですが、でもその城主も同じ縮尺なら本人としてはなんの問題もないですよね。

8月2日(水)

【ほぼ百字小説】(4613) 死後の世界の描写をAIに出力させるのが流行ってすっかりお馴染みになった風景が今、目の前に。つまり死後の世界とは脳の中にあって、そしてAIとヒトの脳はかなり近いのかも、とあたりを見回すおれはどっちだ?

 死後の世界の風景、というか、まあ臨死体験ですね、それはどうも脳の作用のような気はするんですが、はたしてAIの場合はどうか。そして、自分が人間なのかアンドロイドなのかがわからない、という話はSFでは定番ですが、その幽霊版、みたいなのはまだなかったんじゃないか、と。

8月3日(木)

【ほぼ百字小説】(4614) 泥から生まれた。それにしては、なかなかうまくやってきた。もとが泥だと誰にもわからないほどうまく演じてきた。そしていよいよ、その技術のすべてを使って泥を演じる。本当の泥を見せてやろう。ここからが本番だ。

 泥もの、そして、演劇もの、ですね。泥が人間を演じているのは、私の小説にはよく出てくるヒトデナシ。ということで、ここではそのヒトデナシがヒトに紛れるためにヒトを演じている。そして、そんな彼が泥を演じることになる。

【ほぼ百字小説】(4615) ぽた、ぽた、ぽた、と雫が落ちてくる。調べても天井にはなんの障りもない。雨の日も晴れの日も、暑い日も寒い日もほどよい日も、変わらず雫が落ちてくる。そのたびに、はてな、とつぶやき、こうして頭で受けている。

 冒頭は、上方落語の「はてなの茶碗」。それとこの【ほぼ百字小説】もこんな感じ、というか、自分の感じですね。頭に何かが上から落ちてくる。だから何だ? と言われても困りますが、まあそれだけ。

8月4日(金)

【ほぼ百字小説】(4616) いろんなものがあの軟弱地盤を固めるのに使われた。だからいろんなものが埋まってる。地面に耳を当てると声が、なんて噂もあるけど、お役に立てて本望です、とか言うらしいから、たぶん固めた後で埋めたダミーだな。

 なぜあの手のごり押し物件には軟弱地盤が付きものなのか、と言いたくもなりますが、まあそういううさんくさいごり押しじゃなかったら、軟弱地盤という理由で中止になるはずですから、そんなものでまだ進めてるというのは、そういう胡散臭くて後ろめたいもの、ということになるんでしょうね。そして、進んでみんな協力した、ということにしようとするのもあるあるですね。

【ほぼ百字小説】(4617) たしかに緑はたくさんあるし、坂を上ってやってきたが、やっぱり都会だからそんな実感はない。しかしこうして月が出ると、なるほどその地名の通り、ここは山だったのだとわかる。狸だって顔を出しそうな月夜の山だ。

 こないだイベントで東京に行きました。『シリーズ百字劇場』と『ちょっとこわいメモ』、と続けてそんなのがあって、間を置かずに二回も言ったんですが、東京は緑と坂が多いですね。そして、地名にも山とか谷とかついてて、なるほどそういうところなんだと歩きながら思います。大阪はのぺっとしたところですからね。これは代官山蔦屋さんのでイベントの後。外に出ると月が出ていて、それでこんな感じでしたよ。大阪にあんなところはない。

8月5日(土)

【ほぼ百字小説】(4618) ちょっとこわいものを集めて並べる。ちょっとこわいメモをもっと作るため。ちょっとこわいだけではないものも混ざってはいるけど、ちょっとこわいだけということにする。ちょっとこわいものが好きな者を集めるため。

 で、それは、『ちょっとこわいめも』のイベントでした。本には入ってないエピソード「ちょっとこわいふみきり」も山中崇さんに朗読していただきましたが、おかげさまでそれを入れる予定の続編も出せそうです。イベントのときはまだ出せるかどうかわかってなかったんですけどね。いやあ、あいかわらず綱渡りだなあ。

【ほぼ百字小説】(4619) 坂の多い町だ。それも、斜面のように一方向に傾いた町とかではなく、いくつもの谷が入り組んだような複雑な高低差のある土地なのだ。当然、自転車での移動には適していないし、我々液体生物にとっても暮らしにくい。

 これもまあ続きと言えば続き。東京に行くといつも坂のことを考えます。高低差のある風景がいいですよね。神戸に住んでたこともあるので、坂のある町、といえばあんな感じなんですが、東京はああいうのと違ってもっと複雑。そして大阪みたいにどこでも自転車というわけにはいかんだろうな、と。ついでに液体生物なんてものがいたら、ちょっと苦労するかも。気を抜いたら流れてしまいそうですから。

【ほぼ百字小説】(4620) いろんな理屈が貼り付けられているが、やっていることと言っていることはあの手の人たちと同じだし、実際あの手の人たちに便利に使われているようだから、そういう能力のあるあの手の人、という認識でいいのだろう。

 まあなんというか、あるある、というかそういう人がけっこう増えた気がするなあ。気味が悪い。

8月6日(日)

【ほぼ百字小説】(4621) スイッチを押された。自分にそんなスイッチがあることも知らなかったが、押されればもうそれに従うしかない。それにしても他人のスイッチを勝手に押すなんてひどい。そんなスイッチを押されてのことかもしれないが。

 昔、『テレフォン』なんて映画がありました。冷戦時代の話です。まあそんな話かな。でもまあ自分に自分でも知らないスイッチがあることは、ランニングとかやってる人ならけっこう知ってると思います。ある条件がそろうとぱちっと入ったりする。でもまあ誰かに押されるのは嫌ですが。

【ほぼ百字小説】(4622) 長く暮らした借家だが、初めてガラスを割った。いかにもな位置に大きなガラス戸はあるが、そっちではない。西瓜、自転車、植木、猛暑、東京行き、どれが欠けても割れなかったはず。大当たりを出したと考えるべきか。

 こういうのありますよねえ。私は、小説と言うのはある種のドミノ倒し、と考えているのですが、現実だってそうですね。いや、だから小説がそうなるのでしょうけど。ここに越して来たとき、絶対にこれはいつか割るだろうな、と思っていたのに、それは20年以上たってもまだ割れてない。偶然というのは不思議でおもしろい。まあ誰も怪我しなかっただけでも大当たりはまちがいないですし。

8月7日(月)

【ほぼ百字小説】(4623) 火星が落ちていた。正確には火星の種。色も形も大きさも梅干しそっくり。梅干しと違うのは、土に埋めれば火星の木が生え、火星の実が生るところ。埋め星、か。良くも悪くもいつからか我々はそんな宇宙に暮している。 

 火星もの。前にも書きましたが、原点の火星に帰ってみようと思って、いろいろやっているところ。これもその一環、になるか、ならないかはまだわかりません。藤子不二雄の『ウメ星デンカ』が子供の頃から好きで、それもちょっと入ってるかな。あんなことが小説でできたらいいなあ、と思います。

 【ほぼ百字小説】(4624) 火星の欠片の中に、金属の部品が混ざっていることがあって、それは地球から送り込まれた無人火星探査機たちの破片なのだ。火星といっしょに砕けることで、彼らは火星の一部になれたんだな、と少しうらやましく思う。
            
 その一連の火星もの。これだけでは何のことやらわかりませんね。私にもまだわかってません。まあそのへんから掘っていけば、そのうちいろいろ出てきてわかることもあるだろうと思います。私の書き方って、いつもそんなですから。

 ということで、今回はここまで。

まとめて朗読しました。


今回は22編でした。

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【ほぼ百字小説】(4603) 火星の欠片を掘りに丘へ行く。昔、こなごなに砕けてしまった火星が、ここに降ったのだ。どのあたりに埋まっているのかがなんとなくわかるのは、自分の中にもそのときの小さな欠片が埋もれているからだろう、と思う。

【ほぼ百字小説】(4604) 火星に行けばなんとかなるさ。そう言われてその気になり、地球人をやめて火星人になることにした。地球人の幸せには金がかかるが、火星人なら格安で多幸になれる。あ、蛸になるってことじゃないよ、と係員は笑った。

【ほぼ百字小説】(4605) 亀が出るSFは亀SFだし、亀が出なくても亀を感じさせれば亀SF。亀を感じさせなくても、それによって読者は亀の不在を感じるという形で亀を感じるから亀SF。同様にSFでなくても亀SF。これもそんな亀SF。

【ほぼ百字小説】(4606) 昔、暖房器具のないアパートで暮らしてた頃、亀は部屋の隅で冬眠していて、死んでるんちゃうか、とよく心配になって、亀の鼻先に唇を寄せて鼻息を確かめていた。トランペットのマウスピースに唇をあてると思い出す。

【ほぼ百字小説】(4607) 輝く大阪をプロジェクションマッピングとミニチュアで埋立地に作り直すことになったのだ。もちろん市民もプロジェクションマッピングとミニチュアに置き換える。なんと言っても安上がりだし、以前より輝くだろうし。

【ほぼ百字小説】(4608) いつからか世界には亀裂が生じていて、それは日に日に大きくなっているらしい。そうでもなければこんなところにいるはずがない。そこにもここにもあそこにも、いるはずのないところに亀がいる。亀が列を作っている。

【ほぼ百字小説】(4609) 世界に生じた亀裂から、次々に亀が。亀裂の縁にかけた両手で、重い甲羅を引き上げるようにして転がり出る。その甲羅にも亀裂があって、そこからも亀が。それで、この世界もそんな甲羅のひとつであることを理解する。

【ほぼ百字小説】(4610) 飛行機雲がくっきり見える日で、空には白い二本線がまっすぐ。それが突き刺さるように丸い雲の中に消えている。そこへ別の飛行機雲が伸びてきて同じ丸い雲の中へ。なぜかどちらも出てこなくて、ずっと見上げている。

【ほぼ百字小説】(4611) 猫じゃらしが群生している。風が吹くと猫じゃらしの穂が波を作る。それはいかにも猫がじゃれつきそうな動きで、近頃、行方不明の猫が多いのはここに迷い込んで出られなくなっているのでは、と近所の猫の飼い主たち。

【ほぼ百字小説】(4612) 憧れのお城を自分で作ってしまう人はたまにいて、つまりこれもそうなのか。生い茂る夏草に隠れてはいるがたしかに石垣、そして大人の背丈ほどの天守閣だ。そこから下界を見渡しているあの小さな人が製作者なのかな。

【ほぼ百字小説】(4613) 死後の世界の描写をAIに出力させるのが流行ってすっかりお馴染みになった風景が今、目の前に。つまり死後の世界とは脳の中にあって、そしてAIとヒトの脳はかなり近いのかも、とあたりを見回すおれはどっちだ?

【ほぼ百字小説】(4614) 泥から生まれた。それにしては、なかなかうまくやってきた。もとが泥だと誰にもわからないほどうまく演じてきた。そしていよいよ、その技術のすべてを使って泥を演じる。本当の泥を見せてやろう。ここからが本番だ。

【ほぼ百字小説】(4615) ぽた、ぽた、ぽた、と雫が落ちてくる。調べても天井にはなんの障りもない。雨の日も晴れの日も、暑い日も寒い日もほどよい日も、変わらず雫が落ちてくる。そのたびに、はてな、とつぶやき、こうして頭で受けている。

【ほぼ百字小説】(4616) いろんなものがあの軟弱地盤を固めるのに使われた。だからいろんなものが埋まってる。地面に耳を当てると声が、なんて噂もあるけど、お役に立てて本望です、とか言うらしいから、たぶん固めた後で埋めたダミーだな。

【ほぼ百字小説】(4617) たしかに緑はたくさんあるし、坂を上ってやってきたが、やっぱり都会だからそんな実感はない。しかしこうして月が出ると、なるほどその地名の通り、ここは山だったのだとわかる。狸だって顔を出しそうな月夜の山だ。

【ほぼ百字小説】(4618) ちょっとこわいものを集めて並べる。ちょっとこわいメモをもっと作るため。ちょっとこわいだけではないものも混ざってはいるけど、ちょっとこわいだけということにする。ちょっとこわいものが好きな者を集めるため。

【ほぼ百字小説】(4619) 坂の多い町だ。それも、斜面のように一方向に傾いた町とかではなく、いくつもの谷が入り組んだような複雑な高低差のある土地なのだ。当然、自転車での移動には適していないし、我々液体生物にとっても暮らしにくい。

【ほぼ百字小説】(4620) いろんな理屈が貼り付けられているが、やっていることと言っていることはあの手の人たちと同じだし、実際あの手の人たちに便利に使われているようだから、そういう能力のあるあの手の人、という認識でいいのだろう。

【ほぼ百字小説】(4621) スイッチを押された。自分にそんなスイッチがあることも知らなかったが、押されればもうそれに従うしかない。それにしても他人のスイッチを勝手に押すなんてひどい。そんなスイッチを押されてのことかもしれないが。

【ほぼ百字小説】(4622) 長く暮らした借家だが、初めてガラスを割った。いかにもな位置に大きなガラス戸はあるが、そっちではない。西瓜、自転車、植木、猛暑、東京行き、どれが欠けても割れなかったはず。大当たりを出したと考えるべきか。

【ほぼ百字小説】(4623) 火星が落ちていた。正確には火星の種。色も形も大きさも梅干しそっくり。梅干しと違うのは、土に埋めれば火星の木が生え、火星の実が生るところ。埋め星、か。良くも悪くもいつからか我々はそんな宇宙に暮している。 

【ほぼ百字小説】(4624) 火星の欠片の中に、金属の部品が混ざっていることがあって、それは地球から送り込まれた無人火星探査機たちの破片なのだ。火星といっしょに砕けることで、彼らは火星の一部になれたんだな、と少しうらやましく思う。

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