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最近の【ほぼ百字小説】2024年4月7日~4月18日

*有料設定ですが、全文無料で読めます。

【ほぼ百字小説】
をひとつツイート(ポスト)したら、こっちでそれに関してあれこれ書いて、それが20篇くらい溜まったら、まとめて朗読して終わり、という形式でやってます。気が向いたらおつきあいください。

4月7日(日)

【ほぼ百字小説】(5130) 花に擬態した虫たちが、風をきっかけにしていっせいに枝から離れ、宙を舞いながら地面に落下していく。ひと通り終わると、虫たちは訓練された通り幹を登って、再び元の位置に着く。再生可能な桜吹雪と呼ばれている。

 お花見真っただ中ですね。花に擬態した昆虫はけっこういますよね。そして、花見に関しては、花としての機能はどうでもよくて、見た目が同じならそれでいいんだから、擬態でもよかろう、と。虫を訓練するのは大変だからマイクロマシンとかのほうがいいのかな、と書いてから思ったりもして。でもやっぱり虫のほうが風流ですからね。花鳥風月虫。

【ほぼ百字小説】(5131) 大阪の地下にはいくつものダンジョンがあって、様々なトラップが仕掛けられているが、なんといってもそのいちばんの特徴は、攻略に成功したところで特に得るものはない、という点で、それがいちばんのトラップかも。

 大阪の地下ダンジョンと言えば、SFファンには堀晃の『梅田地下オデッセイ』。まあこれはそういうダンジョンに娘を送り出すときに思いついた、というか、そのまんまですね。ゲームじゃないから、べつに宝があるわけじゃない。

4月8日(月)

【ほぼ百字小説】(5132) 初めて見て魔法だと言われたら信じるくらいには、シャボン玉と魔法は似ていて、それはなんでも出せる舞台も同じだが、魔法を使いこなすにも相当な練習が必要だろうことを、舞台でシャボン玉を吹いた私は知っている。

 シャボン玉がいちばん身近で誰にでもできる魔法だというのは、前からよく思ってました。ビジュアル的にもあんなに不思議に見えるものってちょっとないですね。そして簡単に作れる。このあいだ誰もいない路地を歩いていて、いきなり目の前にシャボン玉が現れて、つくづくそう思いました。まあちょっと離れたところで子供がシャボン玉を吹いていて、それが風で運ばれてきたんだとすぐにわかったんですけどね。いやしかし、色も形も動きも、ほんとあれは現実離れしてますよ。そう思いません?

【ほぼ百字小説】(5133) 夜桜だけは今も変わらない。いや、ライトアップなどしていない分、前よりもずっと良くなっているか。こんな春の夜には、ずらり並んで現れる。今夜は夜空に白く浮かぶあの桜の幽霊たちに酒を供えに行くことにしよう。

 夜桜は幽霊に似ていると思います。白くてぼんやり光ってる。夜に花を見に行くなんてのがそもそも変だし、桜吹雪というのは花の死体だし。だから化けて出てもおかしくはない。まあこれは桜が切り倒されたんでしょうね。そこに花の幽霊が出る、という怪談ですね、いちおう。

4月9日(火)

【ほぼ百字小説】(5134) 向こうの岸にもこちらの岸にも桜が並んでいるから、条件さえ整えば水面に浮かぶ花筏を踏んで向こう岸まで渡れるはず。実際、そうやって渡る者を見かける。でも、帰ってこれなくなることも。まあそれはそれでいいか。 

 一気に咲いてすっかり賑やかになりましたが、昨日今日の雨でかなり散りました。散るのも早い。ということで、花筏です。花筏の上を歩けるんじゃないか、という話は前も書きました。まあ雲と並んで、あの上を歩けるんじゃないかという気になるもの、だと思います。これは、大阪の桜の宮あたりをイメージしてます。川沿いの桜はあの世感が増し増しでいいですよね。


【ほぼ百字小説】(5135) 本当に花畑があるんだなあ、とは思ったが、その手前に金網があるのはなんとも野暮で、でもまあこうでもしないとすぐに踏み荒らされてしまうのかな。それにこの金網、私が娑婆から持ち込んだものなのかも知れないし。

 あの世繋がり、花繋がり。まあ春ですからね。臨死体験と言えば花畑ですが、こんな臨死体験の花畑は嫌だ、みたいな感じですね。フェンスがあって入れない。でもまあ、当人の現実を反映したのが臨死体験だとすれば、こういうことになっててもおかしくはない。

4月10日(水)

【ほぼ百字小説】(5136) 梅には鶯だが、桜には亀なのだ、と前々から主張しているのに、なかなかその認識は世間に広まらない。花筏の中に浮かぶ亀、とかそんな花札のある世界がどこかにあるのではなかろうか。たとえば、亀の甲羅の上とかに。

 前から思ってることで、大阪の桜の宮(上方落語『百年目』の舞台になったあたり)は、大川沿いに桜があって、だから桜と亀をいっしょに見物できます。甲羅に花びらとかくっつけてる亀はなかなかいいもんです。そして『桜に亀』というショートショートも書きました。私は花札の絵がほんとに好きなんですが、もっとああいうのがあってもいいですね。新しい花札とか、誰か作らないかな。なかなかいいのができそうに思いますけどね。

【ほぼ百字小説】(5137) 万年生きるのではなくて、死の瞬間、それまで生きてきた時間が万年として確定されるのだ。つまり、この世界における時間とは、亀の死亡した時点から逆算されるものであり、その逆算過程そのものが、この世界である。

 亀が続くのは、ちょっとまた亀のことを考えているから。亀は万年。実際に亀が万年生きる世界。それを成立させるための言い訳みたいなもの。まあ一種の時間SF。万年ぴったり生きるのはなぜなのか? 亀が生きた時間を万年、と規定するから。そして、そこにすべてを合わせる。そういう世界。


4月11日(木)

【ほぼ百字小説】(5138) 亀の名を知ろうとする者が現れるだろうが、お前はその亀の名を誰かに教えてはならない。亀の名はお前と亀だけしかいないところでのみ発語されなければならない。それはお前と亀だけの秘密であり、そして契約なのだ。

 亀が続きます。亀率が上昇中です。もちろん理由はあるんですが、まだ書きません。願い事はかないそうになったら教えるよ、というのはユーミンの歌にありましたね。まあそういうことです。あ、昨夜の「犬街ラジオ」も関係してるかな。犬の名前、猫の名前は、人前で呼ぶことはありますが、亀の名前はたぶんほとんど呼ぶことはない。もしかしたら、自分と亀だけの間でしか発語されることのない名前なのかも、とか。亀の名は。

【ほぼ百字小説】(5139) 天使と亀のことを考えて、頭の中は天使と亀でぎっしり。しかし天使と亀だけで隙間なく埋められるんだな、と感心してからよく見ると、あるのは亀だけ。亀と亀との隙間が天使の形なのだ。天使とはそういうものらしい。

 また亀です。すいません。まあこういうことになってしまうんですね。亀と天使のことを考えている。これが最後のピースかな。これを填めたらたぶん完成。うまく出せますように。

4月12日(金)

【ほぼ百字小説】(5140) あのウイルスの後遺症によって娘は頭が重い開店休業状態が続いていて、本人もそれを気にしているようだが、休んでいるというより、人類という種の今後のためにデータを集める仕事をしているのだと考えるべきだろう。

【ほぼ百字小説】(5141) なんだかんだで一年ほどかかったが、また朝起きることができるようになった。時間というのは、そして若いというのは、すごいものでありがたいものだ、と今朝思った。私はもう若くないし時間もあんまりないな、とも。

 あったことそのまんまで、おかげさまで今はもうすっかり復調してます。記録として。娘は一年浪人してたみたいな感じ。朝起きられないくらいだったんですが、朝はまったく起きられなくて、だから学校にも行けなかった。なによりも、ただ怠けてるように見える、というのが本人としては辛かっただろうと思う。とりあえず一安心。


【ほぼ百字小説】(5142) 前から戦争ごっこをやってみたくて、もうやってもいいんじゃないか、と思っている。それで大きい子たちの仲間にはいれるんじゃないか、と思っている。晩御飯までに帰ればいい、と思っている。帰れる、と思っている。

 まあこんな感じで巻き込まれるんじゃないですかね。そして今、こんな感じなんじゃないかな。ごっこと同じだと思ってるんだろうな。

4月13日(土)

【ほぼ百字小説】(5143) あの交差点の隅であれを拾ってその先の歩道橋に置いてあるそれと引き換えに置き、それは向こうの空き地に投げ込む。だいたいそんなことを指示通り行うだけの簡単な仕事だが、夕方のニュースを見るのは好きになった。

 部品になること、あるいは、バタフライエフェクト、とかそんなタイトルの話かな。全体像がまったくわからないままに指示された小さな行為をやる。それが全体として何かすごい事件を引き起こす、というのはなかなか楽しいんじゃないかと思う。それが妄想かもしれなくても。

4月14日(日)

【ほぼ百字小説】(5144) 人が桜の下を通り抜けているのではなく、桜が人の上をまたぎ越えているのだ。桜にまたぎ越えられながらそのことに気がついて、そして気づいたことはそれだけではなく、そうか、桜が散っているのではなく、人が――。

 よくわからない話ですね。そろそろ桜もかなり散ってしまってますが、通り抜けはソメイヨシノじゃないからちょっと遅い。まあ前半は相対性というか、地動説みたいな話、かな。通り抜けてるんじゃなくて、に気づくのはまあわかりますが、ではどうなれば桜が散ってないのに散っていることになるのか、というのは書いてる私にもわからない。これはもう、そんなことに気づいてしまった人にしかわからないでしょうね。だからまあわからなくても仕方がない。

【ほぼ百字小説】(5145) フェンスに囲まれた空き地にも春の花がたくさん咲いていて、そんな中を細長い闇が歩いている。尖った耳と尾のある闇。フェンスに隔てられていることですっかり安心している様子で、それも含めていかにも春の闇だ。

 このあいだ見たもの、そのまんま。近頃の空き地にはフェンスがつきもので、野暮だなあと思ったりもしますが、でもフェンス越しに見るこういう風景は悪くなかったりする。春の天気のいい日に見る黒い猫は、黒さが際立ってますね。

4月15日(月)

【ほぼ百字小説】(5146) ごとごとやっていた鼠の気配が消えてひと安心。ごとごと鳴るたびに、こちらもどたばた音を立てたのがよかったのか。いや待てよ、もうすぐ沈む船だからかも。鼠に尋ねようにも鼠はおらず、安心でもあり心配でもあり。

 そのまんま。鼠が侵入したことも書きましたが、今ここ。たぶんいなくなったと思うんですけどね。どうなのかなあ。しかしいなくなったとしても、いったいなぜいなくなったのかわからないんですよね。前のときも、まったくなんの原因もわからないまま出て行ったんだよなあ。鼠の考えはわからんっ。

【ほぼ百字小説】(5147) このあいだまでそこらじゅうが真っ白だったのに、もうすっかり黄緑色の方が多い葉桜だ。今年は散るのが早かったなあ。ああ、あっちにある白いのは、歯桜ってやつだね。歯茎は綺麗な桜色。噛まれないよう気をつけて。

 まあ葉桜と歯桜、だけで書いたようなやつですが、葉と歯は似てますよね。どちらも生えてきて、生えそろう。そして抜け落ちる。どちらにも茎がある。満開の桜って、ちょっと怖いし。

4月16日(火)

【ほぼ百字小説】(5148) 問題を解決するよりも、逃げられなくしてしまえば逃げないのだからそれで問題ない、と考えている。そうやってでも守らねばならない美しいものがある、と言っている。説明責任から逃げ回っている連中が、言っている。

 共同親権もそうですが、それに限らず、こんな感じですね。それを選んだのは国民ですから自業自得ではありますが。

【ほぼ百字小説】(5149) いつも並んで電線にとまっているあれは何なのだろうなあ。たまに地面に降りてくるが、近づくと飛んで逃げる。鳥には見えない。仲は良さそうだ。まあ大抵のわからないものは、ドローンということにしておけばいいか。

 UFOの写真とか、最近だと動画のほうが多いですが、そういうのを見ても、もう昔のようなわくわく感がないのは、今ならCGでなんでも作れるだろう、というのと、実際に夜空に光が見えても、それがジグザグに飛行しても停止しても、ドローンならけっこう簡単にできてしまうよな、というのがあるからでしょうね。あのちょっとインチキっぽい写真とかのほうが興奮した、というのは、特撮なんかとも通じるところがあるかもしれません。

【ほぼ百字小説】(5150) 歩いているとあそこにもここにも、といたるところに花野が出現するのは、春だからというより、死んだからかな。それを確かめるには、冬場にまた死ねばいいのだろうが、わかったところでもう花実が咲くものでもなし。

 最近、道端の花が綺麗で、去年はこんなに綺麗だったかなあ、とか思うほどで、もしかして死んでるんじゃないかとか思ったりもして。


4月17日(水)

【ほぼ百字小説】(5151) この季節になると路地のあちこちに黄色が顔を出す。植え込みや空き地だけでなく、溝の中やアスファルトの割れ目、タイルの隙間にまで。あらゆるところに黄色が出現する。黄色い蝶が点線のようにそれらを繋いでいる。

 見たまんま。毎日同じ路地を歩きます。庭なんかない家のほうが多いんですが、それでも季節でいろいろ変わりますね。道端だけでもほんとにいろんなものが生えてる。春といえば普通は桜でしょうけど、私にとっては黄色いいろんな花。タンポポをはじめ、名前のわからないいろんな黄色い花が咲いてます。

【ほぼ百字小説】(5152) もはや回転しておらず、注文された寿司の皿はベルト上を高速で移動し、ポイントの切り替えによって各テーブル前の引き込み線へ飛び込み、残りの距離を惰性で走行する。『新幹線大爆破』のあるシーンを思い出したり。

 昨日ひさしぶりに回転寿司に行った。そしたらこうなってました。見たありのままです。最近は移り変わりが激しくて、行くたびに代わってます。流れてくるのをぼんやり眺めてて、気が向いたやつを取る、なんてのはもうだいぶ前からなくなってしまった。いや、私がよく行くチェーンの話ですけどね。そして、今回行ったらこなってた。しゅうんっ、かちゃんっ、かたかたかたかた、という感じです。どのシーンなのかは、『新幹線大爆破』を視た人にはわかると思います。あそこはかっこいいんだ。

4月18日(木)

【ほぼ百字小説】(5153) 妻が旅行から帰ってくるので、娘とのふたり暮らしも今日で終わり。妻がいないとけっこう相手になってくれる娘だが、妻がいると私には不愛想になる。これって、あるあるなのかなあ。だからどうだということもないが。

 そのまんま。こんなのばっかりですけどね。でもまあそれでいい、というか、それがいいんじゃないか、と最近はとくに思ってます。

【ほぼ百字小説】(5154) この季節には、次から次に生えてくる。形状も生える様も筍によく似ているが、灯台なのだ。丁寧に掘り出して目的地まで運び、そこに植えて育てる。あの大きさでもすでに光を放っていたり、灯台守が入っていたりする。

 そういう季節ですね。実際、形はよく似ていると思う。あの立ちかたも。かぐや姫ってこういうことなんじゃないか、とか。光る竹じゃなくて、光る筍だったり。灯台は好きで、灯台の話はけっこう書いてます。あのぬぼーっと立ってるのがちょっと幽霊っぽい。

ということで、今回はここまで。

まとめて朗読しました。


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【ほぼ百字小説】(5130) 花に擬態した虫たちが、風をきっかけにしていっせいに枝から離れ、宙を舞いながら地面に落下していく。ひと通り終わると、虫たちは訓練された通り幹を登って、再び元の位置に着く。再生可能な桜吹雪と呼ばれている。

【ほぼ百字小説】(5131) 大阪の地下にはいくつものダンジョンがあって、様々なトラップが仕掛けられているが、なんといってもそのいちばんの特徴は、攻略に成功したところで特に得るものはない、という点で、それがいちばんのトラップかも。

【ほぼ百字小説】(5132) 初めて見て魔法だと言われたら信じるくらいには、シャボン玉と魔法は似ていて、それはなんでも出せる舞台も同じだが、魔法を使いこなすにも相当な練習が必要だろうことを、舞台でシャボン玉を吹いた私は知っている。

【ほぼ百字小説】(5133) 夜桜だけは今も変わらない。いや、ライトアップなどしていない分、前よりもずっと良くなっているか。こんな春の夜には、ずらり並んで現れる。今宵は夜空に白く浮かぶあの桜の幽霊たちに酒を供えに行くことにしよう。

【ほぼ百字小説】(5134) 向こうの岸にもこちらの岸にも桜が並んでいるから、条件さえ整えば水面に浮かぶ花筏を踏んで向こう岸まで渡れるはず。実際、そうやって渡る者を見かける。でも、帰ってこれなくなることも。まあそれはそれでいいか。 

【ほぼ百字小説】(5135) 本当に花畑があるんだなあ、とは思ったが、その手前に金網があるのはなんとも野暮で、でもまあこうでもしないとすぐに踏み荒らされてしまうのかな。それにこの金網、私が娑婆から持ち込んだものなのかも知れないし。

【ほぼ百字小説】(5136) 梅には鶯だが、桜には亀なのだ、と前々から主張しているのに、なかなかその認識は世間に広まらない。花筏の中に浮かぶ亀、とかそんな花札のある世界がどこかにあるのではなかろうか。たとえば、亀の甲羅の上とかに。

【ほぼ百字小説】(5137) 万年生きるのではなくて、死の瞬間、それまで生きてきた時間が万年として確定されるのだ。つまり、この世界における時間とは、亀の死亡した時点から逆算されるものであり、その逆算過程そのものが、この世界である。

【ほぼ百字小説】(5138) 亀の名を知ろうとする者が現れるだろうが、お前はその亀の名を誰かに教えてはならない。亀の名はお前と亀だけしかいないところでのみ発語されなければならない。それはお前と亀だけの秘密であり、そして契約なのだ。

【ほぼ百字小説】(5139) 天使と亀のことを考えて、頭の中は天使と亀でぎっしり。しかし天使と亀だけで隙間なく埋められるんだな、と感心してからよく見ると、あるのは亀だけ。亀と亀との隙間が天使の形なのだ。天使とはそういうものらしい。

【ほぼ百字小説】(5140) あのウイルスの後遺症によって娘は頭が重い開店休業状態が続いていて、本人もそれを気にしているようだが、休んでいるというより、人類という種の今後のためにデータを集める仕事をしているのだと考えるべきだろう。

【ほぼ百字小説】(5141) なんだかんだで一年ほどかかったが、また朝起きることができるようになった。時間というのは、そして若いというのは、すごいものでありがたいものだ、と今朝思った。私はもう若くないし時間もあんまりないな、とも。

【ほぼ百字小説】(5142) 前から戦争ごっこをやってみたくて、もうやってもいいんじゃないか、と思っている。それで大きい子たちの仲間にはいれるんじゃないか、と思っている。晩御飯までに帰ればいい、と思っている。帰れる、と思っている。

【ほぼ百字小説】(5143) あの交差点の隅であれを拾ってその先の歩道橋に置いてあるそれと引き換えに置き、それは向こうの空き地に投げ込む。だいたいそんなことを指示通り行うだけの簡単な仕事だが、夕方のニュースを見るのは好きになった。

【ほぼ百字小説】(5144) 人が桜の下を通り抜けているのではなく、桜が人の上をまたぎ越えているのだ。桜にまたぎ越えられながらそのことに気がついて、そして気づいたことはそれだけではなく、そうか、桜が散っているのではなく、人が――。

【ほぼ百字小説】(5145) フェンスに囲まれた空き地にも春の花がたくさん咲いていて、そんな中を細長い闇が歩いている。尖った耳と尾のある闇。フェンスに隔てられていることですっかり安心している様子で、それも含めていかにも春の闇だ。

【ほぼ百字小説】(5146) ごとごとやっていた鼠の気配が消えてひと安心。ごとごと鳴るたびに、こちらもどたばた音を立てたのがよかったのか。いや待てよ、もうすぐ沈む船だからかも。鼠に尋ねようにも鼠はおらず、安心でもあり心配でもあり。

【ほぼ百字小説】(5147) このあいだまでそこらじゅうが真っ白だったのに、もうすっかり黄緑色の方が多い葉桜だ。今年は散るのが早かったなあ。ああ、あっちにある白いのは、歯桜ってやつだね。歯茎は綺麗な桜色。噛まれないよう気をつけて。

【ほぼ百字小説】(5148) 問題を解決するよりも、逃げられなくしてしまえば逃げないのだからそれで問題ない、と考えている。そうやってでも守らねばならない美しいものがある、と言っている。説明責任から逃げ回っている連中が、言っている。

【ほぼ百字小説】(5149) いつも並んで電線にとまっているあれは何なのだろうなあ。たまに地面に降りてくるが、近づくと飛んで逃げる。鳥には見えない。仲は良さそうだ。まあ大抵のわからないものは、ドローンということにしておけばいいか。

【ほぼ百字小説】(5150) 歩いているとあそこにもここにも、といたるところに花野が出現するのは、春だからというより、死んだからかな。それを確かめるには、冬場にまた死ねばいいのだろうが、わかったところでもう花実が咲くものでもなし。

【ほぼ百字小説】(5151) この季節になると路地のあちこちに黄色が顔を出す。植え込みや空き地だけでなく、溝の中やアスファルトの割れ目、タイルの隙間にまで。あらゆるところに黄色が出現する。黄色い蝶が点線のようにそれらを繋いでいる。

【ほぼ百字小説】(5152) もはや回転しておらず、注文された寿司の皿はベルト上を高速で移動し、ポイントの切り替えによって各テーブル前の引き込み線へ飛び込み、残りの距離を惰性で走行する。『新幹線大爆破』のあるシーンを思い出したり。

【ほぼ百字小説】(5153) 妻が旅行から帰ってくるので、娘とのふたり暮らしも今日で終わり。妻がいないとけっこう相手になってくれる娘だが、妻がいると私には不愛想になる。これって、あるあるなのかなあ。だからどうだということもないが。

【ほぼ百字小説】(5154) この季節には、次から次に生えてくる。形状も生える様も筍によく似ているが、灯台なのだ。丁寧に掘り出して目的地まで運び、そこに植えて育てる。あの大きさでもすでに光を放っていたり、灯台守が入っていたりする。

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以上、25篇でした。

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