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桜の百字

犬街ラジオで読んだ桜の百字。
去年の今頃に書いた桜に関する百字を並べました。

【ほぼ百字小説】(4392) 今年は桜を見る会が開かれる。今年からは地獄で開かれる。いつまでそんなことをやっているのか、という声もあるが、いつまでもやっている。終わりはない。地獄だから。前から地獄でやっていたのだ、という話もある。

【ほぼ百字小説】(4400) しかし暑かったなあ。だいたい花見って毎年、寒い寒い言ってたもんだけど、今日はずっと暑かったよ。日傘をさしてる人もけっこういた。エイプリルフールなのになあ。エイプリルフールだが、これは嘘ではありません。

【ほぼ百字小説】(4401) 夜桜か。贅沢言えば昼の桜も見たいけど、プロジェクションマッピングだからね。そのうち夜に青空を投影したりして、夜桜以外の花見もできるんじゃないの。なあんて考えてるこの自分もどこかから投影されてるのかも。

【ほぼ百字小説】(4402) ところかまわず唐突に死が顔を見せるようになったのは、年齢のせいか。前はもっと遠慮してたと思うが、場違いだろうがなんだろうがおかまいなしだ。満開の桜の下とか。場違いでもないのか、とこっちが思い直したり。

【ほぼ百字小説】(4409) 散った桜の花びらが円を描きつつ路面を転がるように進む。空気の流れが、そして様々な力が、桜の花びらの運動で可視化されている。同じ速度で自転車を漕いでいるこの自分もまた、何かが可視化されたものなのだろう。

【ほぼ百字小説】(4410) いつもより早く散り始めたのはいつもより早く咲いたからで、だからいつも満開の下でやっていたことをいつものようにやっても、もうあらかた散ってしまっているが、でも予定は動かせず、何のためにやっているのやら。

【ほぼ百字小説】(4426) 梅に鶯、というのはよく聞くが、そうか桜にはこれだったか。少々意外に思ったが、いざこうなってみるとなるほどよく似合う。だってあの満開の下から這い出してきたみたいだものな。梅に鶯、桜にゾンビ、花より生肉。

【ほぼ百字小説】(4432) すっかり散って地面に貼り付いているのをよくよく見ると、その半分くらいは紙なのだ。ではあの見事な桜吹雪、半分は紙吹雪だったのか。そんなふうに増量されていたとは。誰が何のためにやっているのかは知らないが。

【ほぼ百字小説】(4433) この時期、ヒトに似たものがいっせいに交接して山は桜色になる。事が終わると四肢と頭が落ちて卵型の胴体だけが残り、実際それは卵なのだ。ヒトに似ているのはその時期だけで、ヒトというのはそういうものなのかも。

【ほぼ百字小説】(4439) 朝から冷たい雨で、つい先日まで春を満喫していた亀も、物干しの隅で甲羅の中に逆戻り。濡れた甲羅の中の世界も甲羅に映る外の世界も、共に冬に戻ったようで、目を閉じている亀はどちらの世界の夢を見ているのやら。


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