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最近の【ほぼ百字小説】2024年1月3日~1月13日

*有料設定ですが、全文無料で読めます。

【ほぼ百字小説】
をひとつツイート(ポスト)したら、こっちでそれに関してあれこれ書いて、それが20篇くらい溜まったら、まとめて朗読して終わり、という形式でやってます。気が向いたらおつきあいください。

1月3日(水)

【ほぼ百字小説】(4926) 今年こそは幽霊を飼いたい。幽霊に餌は必要ないが、そこそこしっかりした住処と物語は不可欠だ。それなくして幽霊はその存在を確定させることはできず、まるで幽霊のように頼りない存在になってしまう。用意しよう。

 なんでしょうね、これは。よくわからない。まあ新年だし、今年の目標みたいなのでいくか、とか思って、そして「幽霊を飼う」という目標が浮かんだ。そこから書いてみた、みたいな感じ。幽霊みたいに頼りない幽霊、というのはわりといいんじゃないでしょうか。

【ほぼ百字小説】(4927) 路面電車なのだが左右には家も通りもなく野原だ。野原の向こうには、赤茶けた荒れ地のようなものが見える。停留所に着いたがまわりはやっぱり野原のままで、停留所しかない。動き出す気配もない。ここが終点らしい。

 風景もの、と自分では呼んでいるタイプのやつ。こういう風景が浮かんで、それをそのまま。風景だけで書ける、というのがマイクロノベルのいいところ。私にとって小説は、箱庭療法の箱庭みたいなもののような気がします。

1月4日(木)

【ほぼ百字小説】(4928) 飛行機を見に行った。空き地にずらりと並んだとても飛びそうにない形状のものが順番に滑走して、道路の手前で離陸する。空き地の隅で一日中見ていたが、やっぱり乗る決心はつかない。ずっとこんなことを続けている。

 夢です。見たまんま。こんな夢を見た、というやつですね。それをそのまんま書くだけでいいのか、と言われるかもしれませんが、そのまんまでいいと私は思っています。そのまんまじゃなくて変にコントロールしたり自分の変えたいように変えるのはダメかもしれませんけどね。

【ほぼ百字小説】(4929) 煎餅工場へ。蒲団を始めいろんなものがそこで煎餅化され、無駄なく収納できる。さらに我々も煎餅化することで煎餅化したものを利用できるとか。それで生まれる空間が何に使われるのかは知らないし我々には関係ない。

 煎餅蒲団という言葉が好きで、それと真空パックみたいにして蒲団を収納するビニールの袋ありますよね、あれから。まあ一種のディストピア。煎餅化するのは、何かのためのスペースを作るためで、つまりそのために煎餅化されるわけで、そのまま煎餅世界に移されるんでしょうね。それで空いたスペースは煎餅化を進めている人たちによって使われる。

1月5日(金)

【ほぼ百字小説】(4930) 風景がやってくる。夕方のだいたいこの時刻に目の前を通り過ぎる。毎回違う風景だ。車窓から眺めるようにその通り過ぎる風景を見ているが、いつかどれかの風景の中に立つのだろう。そういう意味ではすべて同じ風景。

 一連の「風景もの」というのがあって、お話もなんにもなくて、ただ風景だけで一篇というやつなんですが、それはどうもこういうことなのかもしれないな、という気がする。たぶん臨死体験で見る風景みたいなものを私は先に使ってしまってるんじゃないか、とか。あんまり使うと本当に必要なときに何も出てこないかもしれないですねえ。まあそれはそれでおもしろいとは思いますが。

【ほぼ百字小説】(4931) 象である。来るたびにその姿は変化し、この前より象らしさから遠ざかってはいるが、象だ。象のままでどれだけ象から遠ざかれるのかを試しているのか。そう尋ねても、象は象のように黙って象から遠ざかっていくだけ。

 象に寄せた滑り台を見ての妄想。わざわざ象に寄せなくても、滑り台は象に似ている。では、象をどこまで変形したら象だとわからなくなるのか。もうまるで象とは違う形になっているのに、それでも象を感じさせるとしたら、それはどういうものなのか、とか。これは自分でもなかなか気に入ってます。なかなか妙な話が書けた。たまにこういうのが書けると嬉しい。

1月6日(土)

【ほぼ百字小説】(4932) いつからか、この国の首相は都合の悪い質問をされると薄ら笑いを浮かべるようになった。昨日も笑っていた。今日も笑っていた。明日も笑うだろう。そして首相が変わっても、その笑みだけは変わらない。この国の顔だ。

 あるあるですね。ありました。これからもあるでしょう。

【ほぼ百字小説】(4933) ここ十年で、ろくでもないものが次々に作られ、必要だったものが次々に壊された。我々はその上で生きていて、ろくでもないものの一部になるという道を選んだろくでもないものたちが、その選択の正しさを誇っている。

 あったことそのまんま、というやつですね。嫌なそのまんまですが。でもまあ本当にあったことで、これからも本当にあることだから仕方がない。ほんと、十年ほどで気が遠くなるほど変わった、としか言いようがない。

1月7日(日)

【ほぼ百字小説】(4934) 日向ぼっこをしている猫の影だ。綺麗な形の耳が二つ立っていて、冬の陽がその同じ形を地面に落としている。しなやかですべすべした尻尾は独立した生き物のように滑らかに宙を踊っているが、地面の影はなぜか二本分。

 今の時期、あちこちで猫が日向ぼっこをしています。それを見せてもらえるというのは、本当にありがたいことです。あんなに幸せな風景はちょっと他にない。これは実際に猫の影が地面に映っているのを見て。それにしても、猫又というのは見事なデザインですね。尻尾が二股に分かれているというそれだけで魔物の表現になっている。いや、表現じゃなくて本当に見たのかもしれませんけど。

1月8日(月)

【ほぼ百字小説】(4935) 農業用水の溜め池だけど、沼って呼んでた。あそこで見上げる空はいつもどんよりしていて、怪奇映画の沼みたいだったから。今から考えるといつもどんよりしていたなんて変だよな。スタジオの中に作られていたのかも。

 ちょっと前に書いたクリスマス沼の話。思い出の中の風景。「沼」という言葉は、なんかちょっとした憧れだったんですね。平日の昼間にテレビでモノクロの怪奇映画なんかやってたりしました。ホラーなんて言葉はなくて、怪奇映画。なんかよくわからないままにそういうのを見て、そしてどうも自分はそういうものが好きらしい、とか思ってる小学生でした。まあそういう話。

【ほぼ百字小説】(4936) スッポンではないが、うちの亀はよく月を見る。物干しにいるから、というのもあるだろうが、盥の水面から首だけ出して見ていたり、月光に甲羅を干していることも。今は水底で冬眠中のその盥の水面に月が映っている。

 よくこういうことがあります。月の明るい晩に、バスタオルを干しに物干しに出たりすると、亀が月を見ている。そして、盥に月が映ってることもある。月とスッポン、というのはべつにそういうことじゃないと思いますが。


【ほぼ百字小説】(4937) たとえば、三十年間毎日同じ亀を見続けること。亀を見るのは簡単なことで誰にでもできることなのだが、どんな誰かがやっても三十年かかる。三十年間見続けるという行為のためには三十年が必要。まあ、そういうこと。

 まあ、そういうこと、なのだろうと思ってます。たぶん、小説を書くというのもそんな感じ。これを続けてるのもそう。誰でもできるんですけど、そんな変なことをする人はあんまりいない。だからまあ誰にでもできるわけじゃない。やらないから。それだけでもやる価値はあるんではないか、みたいなこと。

1月9日(火)

【ほぼ百字小説】(4938) 狭い路地の両側は、エアコンの室外機が隙間なく積み上げられて壁のようになっている。ファンが回っている室外機もあれば、停止している室外機もある。それらすべてのファンが回転するときを、ずっと待ち続けている。

 風景もの。これに近い風景はけっこうありますよね。室外機というのはなかなか不思議なもので、かなり遠くから管で繋がってて、本体のエアコンがどこにあるのかわからない。そして、オンとオフがファンの回転でわかる。なんか、ちょっと脳のシナプスの発火を思わせる。そういう形で知性が発生したりして。

【ほぼ百字小説】(4939) 伏線回収車が町内を巡回している。張るだけ張って忘れていたり、もはや回収する気もない伏線を回収してくれる。それはありがたいが、最近は種類によってはけっこうな金額を要求されたりする。昔は無料だったのにな。

 いやまあ、これだけの話。まあ家電の廃品回収車を見て。それはそれとして、私は「伏線回収なんか大しておもろない」派です。そんな派があるかどうかも知りませんけど。めんどくさいし、見てても疲れるんですね、なんか仕事してるみたいで。いや、おもしろいのもありますけどね。

1月10日(水)

【ほぼ百字小説】(4940) 折り畳み式だ。折り畳めば空間をかなり節約できる。じつは畳んでしまうともう二度と広げられないのだが、再び広げられるときなど来ないこともわかっていて、だからそれでも問題はない。それも折り込んだ折り畳み式。

 あるあるだと思うんですけどね。たとえば、なかなか物って棄てられない。いったん箱に入れることはできるし、そうしてしまうともう二度と開けることはないんじゃないか、とも思う。だから箱に入れて、こっちが知らない間に棄ててしまってくれてもいい。そんな気がする。まあなんかそんなようなこと。

【ほぼ百字小説】(4941) 見た目が目玉にそっくり、というだけでなく、実際に目玉として機能する。後ろに伸びている尻尾のような部分は神経で、宿主の神経と繋がるのだ。ただし、手足が生えてくるまでの間だけ。目玉じゃくしと呼ばれている。

 架空博物誌、みたいなシリーズ。こういうのは楽しい。目玉とオタマジャクシは似ているなと思って、目玉じゃくし、という言葉を思いついて、そこから。手足が生えたら目玉オヤジみたいな感じになるのかな。

1月11日(木)

【ほぼ百字小説】(4942) 雨の日に墓場に立っている。向こうが透けて見えるから幽霊かと思いきや、ちゃんと実体があって、透けているのは透明の物質だから。雨天に出るのではなく、普段から小さく草葉の陰にいて、水を吸うと膨張するらしい。

 これも架空博物誌になるのかな。なんだかわからないものですね。幽霊モドキとか名付けられそう。あのものすごく膨らむやつありますよね。まあたぶんああいうもので身体ができている生き物(?)なんでしょう。生きてるけど草葉の陰にいる、というのは我ながらおもしろいと思う。

【ほぼ百字小説】(4943) 怪獣が雨宿りをしている。通常兵器はまるで歯が立たず、街は蹂躙されるままだった。そんな怪獣が軒下で雨宿りしているのだ。あの怪獣は水に弱いっ。隊長は、廃墟と化した街で半分だけ残った羅生門の破壊を決断する。

 なんだそりゃ、ですよね。書いた私もそう思う。でも、変な夢みたいで、こういうのもいいんじゃないかとも思います。怪獣が雨宿りをしている、というところが浮かんだのは雨が降っていたからか。そして雨に弱い怪獣のことを思った。バルゴンですね。雨に弱いから雨宿り。そして雨宿りといえば、黒澤明の『羅生門』の冒頭。まあそんなところ。

1月12日(金)

【ほぼ百字小説】(4944) フェンスで囲まれた空き地を猫が歩いている、と思ったら、フェンスの下にある猫の頭ひとつ分ほどの幅の隙間を速度を落とさず液体のようにするりと抜けた。なるほど、このための隙間。ではないだろうが、いい隙間だ。

 見たそのまんま。猫は頭さえ通れば通り抜ける、とはよく言いますが、本当にそうなんですね。「ターミネーター2」の液体ロボットみたいでした。いや、大したもんだ。そうなるとあの隙間は猫のためにあるようなもので、それはなかなかいい隙間だなと。


【ほぼ百字小説】(4945) 思いがけないところであの歌を耳にする。そんなときは、思わずいっしょに口ずさむ。あたりの様子をうかがいながら、つぶやくように、囁くように。同じようにしている人がいることもある。同じ架空の国の国民なのだ。

 これもこのあいだあったこと。タグワ国家です。【まちのひ朗読舎】というイベントのテーマソングで、架空の国の国家。谷脇クリタさんの小説の中に出てくる。ということで、詳しくは(?)こちら。

1月13日(土)

【ほぼ百字小説】(4946) えべっさんでビンゴ大会。商売繁盛の福笹の横、司会が番号を読み上げる。リーチからなかなか進まない。黒毛和牛肉一キロを見事ビンゴしたのは福娘、妻も娘もコシヒカリをビンゴ。リーチのビンゴカードを持って帰宅。

 えべっさんでビンゴというのはなんかおもしろくて、そのまんま書いた。神社の福娘もビンゴに参加してて、その娘が一等賞というのもなんかよかった。

【ほぼ百字小説】(4947) 初詣の帰り、参道の商店街で見覚えのない小道に首をかしげて入っていくと、クリスマスのイルミネーションで昼間のように明るい広場に出た。狸の仕業であることは、歩いてくるサンタクロースの尻尾を見るまでもない。

 初詣に行って、神社の近くの公園でわりと派手なクリスマスのイルミネーションを見たのは本当。イルミネーションは狸感があるなあ、とつくづく思った。お正月なのに、というのも含めて。

【ほぼ百字小説】(4948) 罪を犯しても自分たちだけは捕まることのない世界を作ることにまんまと成功した連中とそんな世界を作るのに協力して彼らに投票した連中が、まとめて地獄に送られる途中で見ている幸せな夢が、この世界なのだという。

 まったくひどい国になったもんだ。それだけ。

 ということで、今回はここまで。

まとめて朗読しました。


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【ほぼ百字小説】(4926) 今年こそは幽霊を飼いたい。幽霊に餌は必要ないが、そこそこしっかりした住処と物語は不可欠だ。それなくして幽霊はその存在を確定させることはできず、まるで幽霊のように頼りない存在になってしまう。用意しよう。


【ほぼ百字小説】(4927) 路面電車なのだが左右には家も通りもなく野原だ。野原の向こうには、赤茶けた荒れ地のようなものが見える。停留所に着いたがまわりはやっぱり野原のままで、停留所しかない。動き出す気配もない。ここが終点らしい。

【ほぼ百字小説】(4928) 飛行機を見に行った。空き地にずらりと並んだとても飛びそうにない形状のものが順番に滑走して、道路の手前で離陸する。空き地の隅で一日中見ていたが、やっぱり乗る決心はつかない。ずっとこんなことを続けている。

【ほぼ百字小説】(4929) 煎餅工場へ。蒲団を始めいろんなものがそこで煎餅化され、無駄なく収納できる。さらに我々も煎餅化することで煎餅化したものを利用できるとか。それで生まれる空間が何に使われるのかは知らないし我々には関係ない。

【ほぼ百字小説】(4930) 風景がやってくる。夕方のだいたいこの時刻に目の前を通り過ぎる。毎回違う風景だ。車窓から眺めるようにその通り過ぎる風景を見ているが、いつかどれかの風景の中に立つのだろう。そういう意味ではすべて同じ風景。

【ほぼ百字小説】(4931) 象である。来るたびにその姿は変化し、この前より象らしさから遠ざかってはいるが、象だ。象のままでどれだけ象から遠ざかれるのかを試しているのか。そう尋ねても、象は象のように黙って象から遠ざかっていくだけ。

【ほぼ百字小説】(4932) いつからか、この国の首相は都合の悪い質問をされると薄ら笑いを浮かべるようになった。昨日も笑っていた。今日も笑っていた。明日も笑うだろう。そして首相が変わっても、その笑みだけは変わらない。この国の顔だ。

【ほぼ百字小説】(4933) ここ十年で、ろくでもないものが次々に作られ、必要だったものが次々に壊された。我々はその上で生きていて、ろくでもないものの一部になるという道を選んだろくでもないものたちが、その選択の正しさを誇っている。

【ほぼ百字小説】(4934) 日向ぼっこをしている猫の影だ。綺麗な形の耳が二つ立っていて、冬の陽がその同じ形を地面に落としている。しなやかですべすべした尻尾は独立した生き物のように滑らかに宙を踊っているが、地面の影はなぜか二本分。

【ほぼ百字小説】(4935) 農業用水の溜め池だけど、沼って呼んでた。あそこで見上げる空はいつもどんよりしていて、怪奇映画の沼みたいだったから。今から考えるといつもどんよりしていたなんて変だよな。スタジオの中に作られていたのかも。

【ほぼ百字小説】(4936) スッポンではないが、うちの亀はよく月を見る。物干しにいるから、というのもあるだろうが、盥の水面から首だけ出して見ていたり、月光に甲羅を干していることも。今は水底で冬眠中のその盥の水面に月が映っている。

【ほぼ百字小説】(4937) たとえば、三十年間毎日同じ亀を見続けること。亀を見るのは簡単なことで誰にでもできることなのだが、どんな誰かがやっても三十年かかる。三十年間見続けるという行為のためには三十年が必要。まあ、そういうこと。

【ほぼ百字小説】(4938) 狭い路地の両側は、エアコンの室外機が隙間なく積み上げられて壁のようになっている。ファンが回っている室外機もあれば、停止している室外機もある。それらすべてのファンが回転するときを、ずっと待ち続けている。

【ほぼ百字小説】(4939) 伏線回収車が町内を巡回している。張るだけ張って忘れていたり、もはや回収する気もない伏線を回収してくれる。それはありがたいが、最近は種類によってはけっこうな金額を要求されたりする。昔は無料だったのにな。

【ほぼ百字小説】(4940) 折り畳み式だ。折り畳めば空間をかなり節約できる。じつは畳んでしまうともう二度と広げられないのだが、再び広げられるときなど来ないこともわかっていて、だからそれでも問題はない。それも折り込んだ折り畳み式。

【ほぼ百字小説】(4941) 見た目が目玉にそっくり、というだけでなく、実際に目玉として機能する。後ろに伸びている尻尾のような部分は神経で、宿主の神経と繋がるのだ。ただし、手足が生えてくるまでの間だけ。目玉じゃくしと呼ばれている。

【ほぼ百字小説】(4942) 雨の日に墓場に立っている。向こうが透けて見えるから幽霊かと思いきや、ちゃんと実体があって、透けているのは透明の物質だから。雨天に出るのではなく、普段から小さく草葉の陰にいて、水を吸うと膨張するらしい。

【ほぼ百字小説】(4943) 怪獣が雨宿りをしている。通常兵器はまるで歯が立たず、街は蹂躙されるままだった。そんな怪獣が軒下で雨宿りしているのだ。あの怪獣は水に弱いっ。隊長は、廃墟と化した街で半分だけ残った羅生門の破壊を決断する。

【ほぼ百字小説】(4944) フェンスで囲まれた空き地を猫が歩いている、と思ったら、フェンスの下にある猫の頭ひとつ分ほどの幅の隙間を速度を落とさず液体のようにするりと抜けた。なるほど、このための隙間。ではないだろうが、いい隙間だ。

【ほぼ百字小説】(4945) 思いがけないところであの歌を耳にする。そんなときは、思わずいっしょに口ずさむ。あたりの様子をうかがいながら、つぶやくように、囁くように。同じようにしている人がいることもある。同じ架空の国の国民なのだ。

【ほぼ百字小説】(4946) えべっさんでビンゴ大会。商売繁盛の福笹の横、司会が番号を読み上げる。リーチからなかなか進まない。黒毛和牛肉一キロを見事ビンゴしたのは福娘、妻も娘もコシヒカリをビンゴ。リーチのビンゴカードを持って帰宅。

【ほぼ百字小説】(4947) 初詣の帰り、参道の商店街で見覚えのない小道に首をかしげて入っていくと、クリスマスのイルミネーションで昼間のように明るい広場に出た。狸の仕業であることは、歩いてくるサンタクロースの尻尾を見るまでもない。

【ほぼ百字小説】(4948) 罪を犯しても自分たちだけは捕まることのない世界を作ることにまんまと成功した連中とそんな世界を作るのに協力して彼らに投票した連中が、まとめて地獄に送られる途中で見ている幸せな夢が、この世界なのだという。

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以上、23篇でした。

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