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東京の「叙情ワード」を集める

何でもあるけど、何もない場所。

東京を語るときによく使われるこの言葉には刹那を感じる。モノと情報に溢れ、スクラップアンドビルドが繰り返されるこの場所は、何かしないと何も手に入れられない。野望を達成する人もいれば、夢破れて去る人、ひと時を過ごしただけの人もいる。

どんな境遇であれ、ひとつ確実なのは「東京」という単語には、一人一人の思い入れと物語があることだ。

『天気の子』は、観る者に物語を想起させる力があった。

新宿のマクドナルド、建設途中の新国立競技場、取り壊しの決まった代々木会館、歌舞伎町の奥にあるラブホテル街。

ああ、見たことある風景だと思いながら、水彩画のような淡い感情が沸き立つ。昔、大学で登壇に来た映画監督が「物語は無意識的に東京が舞台であることが多い」と話していた。叙情感が沸き立つ固有名詞が多いからなのかもしれない。

決してきらびやかなものではない、中途半端で生活感があって、時に失くなってしまう存在。

固有名詞は都市に物語を与える。どこにピントを合わせ、シャープネスを強めるか。それが物語のリアリティを生むのかもしれない。

Twitterで、下記の投稿をしてみた(その時は郷愁ワードって言ってますね)。そこに集まったものと、私が普段見ているものを解説を交えながら、一部羅列してみる。

・新宿のバリアン
東新宿あたりにたくさんある宿泊施設。南国風なデザインかつアメニティが豊富で入りやすい。女子会スポットとしても人気。日清食品の本社が近くにあり、朝方ここを通ると謎の背徳感に駆られる(穂高くんはバリアンに行けばよかったのに)。

・Q FRONTから見下ろすスクランブル交差点
ここのスタバはトールしか注文できない。いつ行ってもすごく混んでいて、窓際に座れることは稀。でも、スクランブル交差点のせわしなさを眺められる定番の場所だ。誰かを待っている人が多い。会えるかどうかは知らない。

・パセラのハニトー
ちょっと高いカラオケ、パセラの人気メニュー。学生のときは、「いつか食べたいなぁ」と食パンを一斤使ったハニトーのディスプレイを横目で見ながら通り過ぎた。

・エポスカード
これは東京関係ないですが……かつてマルイのカードからクレジット機能を外したCLUB WOWカードなるものがあり、大学生になると囲い込まれたかのように、女の子たちはエポスカードを作った。大人になったなぁと実感した。

・ホープくん
2001年に東急東横店前に設置されたフクロウの像。その後、宮益坂下に移動した。ハチ公前広場より人が少ないので、待ち合わせ場所として重宝していたものの、最近はポケモンGOの聖地として人気で混んでいる。

・タワレコに行った後に行く渋谷のツタヤ
サブスクリプションがなかった時代は、音楽を聴くためにツタヤでCDレンタルを楽しんでいた。本当はCDを買いたいけれど、1枚3000円はなかなかの出費だ。「10枚1000円1週間」には敵わない。タワレコのおしゃれなポップや特集を見て、その足でツタヤに向かった。

昔はセンター街にHMV(2010年閉店。現在はFOREVER 21になった)もあり、タワレコとハシゴする人も多かった。

・六本木の青山ブックセンター
青山ブックセンターの1号店である。六本木通りに位置し、独自のドープな選書で根強い人気があった。店内をうろうろするだけで楽しいので、待ち合わせスポットとしても人気だった。深夜まで営業していたため、業界人が多く訪れたらしい。2018年に閉店。現在は「文喫」になった。

・渋谷の幸ちゃん
ビールが一杯190円。学生や若手社員が集って、夢を語ったりする安居酒屋。

・新宿のranKing ranQueen(ランキンランキン)
JR新宿駅東口の改札を出るとでーんと構えるキオスクのような雑貨屋。化粧品、雑貨、お菓子などの人気商品がランキング形式に並ぶお店で、待ち合わせの定番だった。2014年に閉店。

・ヒカリエ横の長すぎる歩道橋(渋谷)
いつも工事をしている歩道橋。万年工事中なので、歩道橋なのにダンジョンのように入り組んでいて、行き止まりがあったりする。「ごめん近くにいるんだけど、5分くらい遅れそう」と連絡を入れるとき、だいたいここを歩いてる気がする。工事、もう終わりましたっけ……?

・山下書店
渋谷駅南口に位置しており、数年前まで24時間営業していた。夜中でも煌々と光る蛍光灯に吸い寄せられた。地下にはカフェ・ミヤマが入っており、打ち合わせをする人も多かった。2018年に閉店。

・オール明けの富士そば
都内を中心に首都圏に展開している立ち食いそば屋。東京以外にもあるんですけれど……24時間営業しているのは都内が多い。始発前に時間を潰す場所では、一蘭幸楽苑などもあげられる。

始発前は特別な時間だ。眠くて怠くて帰りたいのに、このままずっと続けばいいと思ってしまう。次の日、午後に目を覚ますと頭が3倍くらい重く感じて後悔しか残らない。終電前に帰れよ、自分。

・原宿のウエンディーズ
ラフォーレ原宿のある明治通りの交差点に位置していた。ウェンディーズで初めてチリ(ビーンズ)を食べた人も多いのではないだろうか。2013年に閉店。

明治通りを挟んでウエンディーズの対岸に位置していたコンドマニアもアイコン的存在だった。アメコミのようなキャラクターでポップに彩られ、何も知らない少女たちは「かわいい〜」と足を踏み入れ、固まった。2018年にこの場所から移転。

・アルタ前集合
新宿で待ち合わせといったらここ。ただ、かなりエリアが広いので、落ち合うまでに電話をかけたりする。キャッチに絡まれることもある。

・渋谷 人間関係
スペイン坂にあるカフェ。ブリティッシュバルのような雰囲気で、背伸びをした気分になる。120円のスコーンが人気だった。私はここで初めてエスプレッソを頼み、苦さに撃沈した。

・渋谷 東横線のホーム
2013年まで東横線の渋谷駅は地上にホームがあった。

現在は地下に移動。工事で言うと、下北沢駅も印象に残っている人が多い。びっくりするぐらい綺麗になった。

***

郷愁という言葉で問いかけたからだろうが、思ったよりも「なくなってしまった」ものが多かった。

そういえば、六本木ヒルズには森ビルがひっそりと作っている東京を1000分の1に再現したジオラマがある。運良く一般公開された際、解説者がこう話していたのを覚えている。

「東京は年に2%ずつ変わっています。単純計算に過ぎませんが、50年で100%新しくなっているんです」

8月1日、代々木会館は取り壊され、12月には新国立競技場が完成する。東京は刹那的な都市だ。何でもあるけど、何もない。物語だけが存在している。

Top Image:Guwashi999 via Flickr(Creative Commons)

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