『新作歌舞伎 風の谷のナウシカ』感想

新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』視聴しました~。とてもよかった!

●あの長い原作をよく6時間半にまとめられたなと…!
細部のエピソードはかなり簡略化されてるんですが、原作の漫画は(とても名作だけど!)ちょっと難しく、古典文学的なちょっぴり回りくどい感じもあると思っているので(それが味でもあるし、作品の深みを増す一要因でもあります)、そういった部分をカットすることによって、とても理解しやすくなってました。

原作漫画が古典文学とするなら、今作は歌舞伎という古めかしい伝統芸能でありながら、ハリウッド映画を見ているような、娯楽性の高い省略方法が用いられているように思います。

長い原作物をコミカライズや映画化する際に、原作を省略して脚本を書く作業が発生しますが、今作はそういった作業をされている方へのひとつのお手本になるのではないかと思いました。
不思議な感覚だけど、今作を見てから原作漫画を読むと、理解が深まるとさえ思ったりも。

今作は前後編トータルで6時間40分ほどなんですが、あの原作は8時間くらいの脚本にして、もう少しじっくり見せて貰えたら最高だったかも。
(などと書いた後に、裏話の対談動画「れんが家話」を拝見すると、脚本の初稿はどうやら8時間だったらしい!
いやほんとさじ加減、最高では…。いつかそちらを拝見できる機会があったらいいなあ…)


●少しだけ残念だったのは、一部の場面転換などの込み入った内容はセリフに頼りがちになってしまったところ。ただ、舞台というものの性質上、表現の限界があって仕方のないことかなと思うし、これは今作に限ったことではなく、色んな舞台作品にも当てはまります。


●肝心の歌舞伎ですが、「歌舞伎のことはよく知らないけど、ちょっと勉強してみたい。でも、初手から入門書など読むのはちょっと大変だ​💦」といったライト層向けにとても良い演目ではないでしょうか。

英語を勉強するときに、教材を見るよりも「好きなゲームを英語表記にして遊ぼう」みたいな、楽しんで学べるような感じ。

(私はまだそこまでの域に達していないけど)あとで純粋な歌舞伎を見たときに「あれはこういうことか!」という気付きがあるらしいです。
私は日舞を少しかじっていますが、そちらの目線で見たら、めちゃくちゃ贅沢に色々要素を入れてありました。お腹いっぱい。

そんなわけで、原作やアニメのあのシーンを、歌舞伎だとこういうからくりと演出で表現するのか、と比較しながら観劇すると、とても楽しいし勉強になるのではないでしょうか。
メーヴェが宙吊りで客席の上を飛んでくれるのいいなあ…私も推しを頭上に拝んでみたい…(うっとり)


●美術さんの頑張りが凄い。
腐海の森や王蟲などの虫達、歴史を描いたタペストリーなど、よくぞこのクオリティで再現してくれた…!と唸る。


●衣装も多彩。
原作に沿っての衣装替えも多い。原作がモノクロ漫画で、舞台はフルカラー。でも、「たぶんこんな色だろうな」っぽい衣装デザインになっていて、違和感を感じなかった。


●俳優さんも地方さん(演奏や唄によって伴奏する人達)も素晴らしいです。
役者さんのことは恥ずかしながらよく存じ上げないので、持ち味がどのように2次元のキャラと化学反応を起こしているかは、私には判断できないのが残念…もっと詳しかったら、もっと楽しめたと思う。
個人的にはクロトワが良かったです。めっちゃクロトワ(笑)。
二刀流の剣士ユパ様の殺陣が、原作&アニメに準拠してて、かっこよかったです…! 二刀を交差させてのジャンプ→着地に反応するファンは多いと思う(笑)。


●最後に
基幹となる古典芸能を学ぶどころか生業としておられる立場の辣腕の方々が、あえてそれを崩したりアレンジして2.5次元に落とし込んでおられることの贅沢さ!
逆の作品は結構あると思うんです。古典芸能を学ぶこと無く、若手俳優が演出上で日舞などを演じる、という。
そうではなく、実際に歌舞伎役者/地方/裏方さんとして場数を踏んでおられる本格派の方々が、全力で2.5の表現に取り組んで下さる。
オタクな自分から見れば、なんてありがたいことだろう…と感激しどおしでした。

素晴らしい公演を本当にありがとうございました!!

★9/25まで配信が見られますのでぜひとも~!
https://mirail.video/title/4810007

★制作の裏話もあります。此方も25日まで。70分!
ジブリの代表取締役さんがかなり赤裸々にあれこれ喋っておられるので、これ…いいの…?って思いながら見てた(笑)。
https://www.kabuki-bito.jp/news/6315/

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