あのね、の先。

「あのね、」

説明したい言葉が、溢れる。
ここ数週間、頭は言葉でいっぱいだった。

会いたいとか、どうしてとか、好きとか、なんでとか。

いろんな言葉をミキサーにかけた液体が、頭の中で波打っていた。

土曜日の君の微笑みの意味とか、
私が忘れたイヤリングのこととか。

表情に行動に出来事に物に。
ありとあらゆる「言いたい言葉」が付着している。

君と会うまでに越えた夜は12回。
もっと会えない気もしていたし、
もっと早く会える気もしていたけど

とにかくその12回の夜、
私は頭の中の液体に溺れて、息が出来なくて、
もがきくるしんでいた。

あぁ、早く吐き出さなきゃ。
次に会ったら話すんだ。

そうすれば「終わり」でも「始まり」でも、
私はきっと前に進める。

何度も決意したのに。
自分でも驚くほど、決意するほど心が軽くなったのに。
「なんだ私、決められたじゃん」って、笑えたのに。

「暗い夜、1人でする決意ほど、無意味なものは無い」って、誰が言ったっけ。

「あのね、」

君からは相変わらず、柔軟剤の甘い匂いがする。12回の夜をこえた君は、あの日と変わらない顔で、微笑む。

「あのね、」

言いたい言葉が、溢れるはずの言葉が。
波打っていたはずの言葉が、ひいていく。

そして、私は気づくのだ。
気づいた瞬間、体の熱が、四方八方から放出していく。音が聞こえそうなほど急速に、頭の温度が下がっていく。

だって、伝わらない。
私のこのドロドロとした感情も、
疑問も、本心も、悲しさも。

君にはきっと、伝わらない。

君にはきっと、言葉にしなくたって、とっくに「気づかれて」いるんだ。

私の言いたい言葉も、伝えたい涙も。

「気づかれて」いるけど、伝わらないんだ。

君の笑顔は、言葉を拒む。
「あのね、」の先を、優しく拒む。

「どうしたの?」

心の底から心配そうな顔で、
君が訊ねる。

「なんでもないよ」

「あのね、」の先は、今日も言えない。

yuzuka

#コラム #悲しい恋

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