【マルチ商法被害者の声】02:大学をやめてマルチ商法にのめりこんだ友人のこと

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「今は詳しく言えないけど、やりたいことがある」

そう言って純子(仮名)は大学をやめました。一昨年の春、私も純子も大学3年になったばかり、あまりに突然のことでした。このときすでに、純子がマルチ商法A社の仲間にマインドコントロールされていたことは、だいぶ後になってわかったことです。マルチ商法をしてからの純子は別人のように変わり果てました。今の純子は私の知っている純子じゃないんです。

きっと、大学をやめたときの純子は、マルチ商法で成功するんだという夢や希望でいっぱいだったと思うんですよね。でも現実は、借金をして友人にも見放されてしまった。それでも純子はマルチ商法をやり続けているんです。マルチ商法が悪いとはこれっぽっちも思ってないんです。

純子とは高校の部活で仲良くなったんです。高校卒業後、私は栄養学を学ぶため都内の大学に、純子は都内の女子大に進学しました。大学に入ってからも月1ぐらいで遊んだりお茶したりして。くだらない話から人生の話まで、なんでも話しあえるかけがえのない友人でした。

純子から大学をやめたと聞かされたのは大学3年になってすぐのこと。大学をやめるって大きな決断じゃないですか?だから、すごく「え?」って動揺しました。

だけど純子は前向きに「今は詳しく言えないけど、やりたいことがある!」って力強く言ったんです。純子って高校時代からやりたいことがハッキリしなくて、どこかフラフラしたところがあって、ちょっと心配させるところがあったから。そんな純子が「やりたいことがある」って言ったから、私は喜んで、「ようやく純子にやりたいことが見つかったのか」って良い方向に受けとめたんです。「大学をやめる決意をするほどやりたいことってなんだろう?」って思ったけど、純子は突っ込んで聞いてほしくなさそうだったから、あえてなにも言わず見守ることにしたんです。

それから1か月ぐらいして会ったとき、純子は介護の資格を取るための勉強をしていました。純子のやりたいことって介護のことだったのかと思って、「がんばってるじゃん!」って声をかけたら、「私は介護がやりたくて資格を取るんじゃない!やりたいことをするためにお金をためるだけなんだ!」って言われちゃって。

「ごめん。純子のやりたいことって、てっきり介護の仕事かと思ったけど違ったんだね。結局、純子のやりたいことってなに?教えて?」って聞いたときに、純子の口から出てきたのがA社です。そのときにはじめて、私はA社のことを聞いたんです。

純子「あなたはまだ学生だからできないけど、A社っていうすごいネットワークビジネスがあるの。マルチ商法っていう人もいるけどそれは間違ってるの。ネットワークビジネスとマルチ商法はぜんぜん違うの。マルチ商法だったら30年も前から日本にあるわけないでしょ。一等地に自社ビルもあるし、すごく社会的信頼もある立派な企業なの。とにかくすごいの」

って、純子はA社のことや、A社のビジネスの仕組みについて熱く語りはじめたんです。

私はマルチ商法という言葉は知ってたけど、そのときは人を騙して高額な商品を売りつけて広めるものって知識しかなくて。それに、純子はA社のことをマルチ商法じゃなくてネットワークビジネスだって断言したから、私は純子の言葉をそのまま信じてしまったんです。

「マルチ商法じゃないならまだマシかな?」「A社は鍋が有名って聞いたことがあるし」「もし怪しかったらすぐにやめるだろう」って思って、なにも言いませんでした。むしろ「私も鍋ぐらいなら買ってもイイかな?」って思ってしまったぐらい私自身マルチ商法のこともA社のことも知らなかったんです。

それから純子の部屋に遊びに行くたびに、どんどんA社の製品が増えていくんです。最初は日用品だけだったのが、空気清浄器や浄水器、それに純子は料理をしないはずなのに鍋セットやフードプロセッサーも購入していて。部屋のなかがA社製品で埋め尽くされていくのに、異様な感じを覚えました。

直接「A社のミーティングいこう!」とは誘われなかったけど、小顔になるという化粧品のデモのモデルにされたり、「栄養士になるんなら、日本の医療保険とか知っといてよ!」と、よくわからない謎の男性のセミナーの動画を見せられたりしました。動画の内容は「将来、日本の今の若い世代は年金がもらえなくなるんだよね。だから今のうちから安定した収入を得る必要があって、そのためにはA社のネットワークビジネスをすることで解決できるんだ。A社はなんて素晴らしいんだ!A社最高!」みたいなものです。

あと、栄養の話(白砂糖は毒だとか、油は良いものを使わなくちゃいけないなど、今思えばA社の製品を買わせるための話)や、日本の社会保険制度の危険性(信頼できない日本の医療保険にお金払うようなことはしたくない。年金が出なくなって路頭に迷うような暮らしはしたくないというような話)について語り出すようになりました。今にして思えば純子はA社の仲間にマインドコントロールされていたんですが、そのときは介護の試験を受けたから、そんなことを話すんだと思ってたんです。

そのころから、私は学校が忙しくなって、会わない月があったりなかったりするようになって。そのあいだ「料理教室にこない?」と2.3回誘われたけど、私は授業と重なっていたこともあって、料理教室には1度も行きませんでした。それでも空いてる日を見つけて、これまでのように純子と2人で遊んでいたんです。そのころは、まだ純子に私と遊ぶぐらいお金に余裕があったんですよね。

純子がお金に困ってるんじゃないかと最初に気づいたのは、大学4年の夏休みが終わりかけのころ、高校の部活の先輩から、「みんなで飲もう!」という話が出たときです。

「先輩とか久々だよね!超楽しみだね!」って言ったら、純子は「先輩と会って無駄なお金や時間を使うなら行きたくない。先輩と会いたいとは思わない」って言うから「なに言ってるんだろう」って思いました。

「でも、同期もくるよ?会いたくないの?」って言うと、「ちょっと前に会ったけど、私のこと理解してくれなかった。今は理解してくれる人にお金をかけたい」って言われて、結局、純子は飲み会に来なかったんです。

ちょうどそのころ私と純子の好きなバンドのライブを遠出のツアーで見に行く予定を立てていました。私も純子もすごく楽しみにしてたんです。ところがチケット代をなかなか渡してくれなくて。そのことについて会って話そうというと「お金がないからお茶代も出したくない。会うならどっちかの家で会いたい」って純子は言うから、私は「お金がないのにライブ行けるの?」とだんだん心配になってきました。

純子に連絡しても返信がない日が何日も続きました。純子はお金がなくてケータイ料金を払えずラインも電話もできなくなっていたんです。心配した私は、純子に事情を聞くと、「クレジットの支払いがたまっていて、親や消費者金融からお金を借りている」って言うんです。もう、ビックリしましたよ。

その後、ケータイはつながるようになりましたが、お金がないからライブは諦めました。私は純子に「どうしていつもバイトしているのにそんなにお金がないの」「会って話そう」って言ったんですが、純子ははぐらかすばかり。あげくの果てに「お茶代も払いたくないから会いたくない」「この電話をしている時間も無駄」などと言いはじめるんです。

私はこのときにやっと、純子はA社の活動をして破綻してるかも?と気づきました。

とにかく純子のことが心配になって、「今の状況がどうなってるのか正直に話してほしい」って聞いたら、「クレジットやリボ払いでローンを組んで、A社の製品、浄水器、風呂の浄水器、洗剤、化粧品、空気清浄機、サプリを買ってるからお金がない」って言うんです。私は「それっておかしくない?」って言いました。でも、純子は「借金をしていることはおかしくない。A社で成功するために買っているんだ。必要なものだから買っているんだ」って言うんです。

「A社の製品は借金をしてまで今すぐに揃えなきゃいけないものなの?」と違和感でいっぱいになりました。それに純子はいつもA社のことを「ノーリスクで時間もお金も手に入れられるんだよ」って言っていたんです。それなのに「なんで純子はお金がなくなってるんだ?」ってすごく疑問を感じました。

私が疑問に感じていることを純子に伝えると、「あなたにも長生きしてほしいからA社のサプリの話をするんだよ」「日本の水が汚いってこと理解してる?水道水を飲んでたら病気になるよ!A社の浄水器があれば病気にならないよ。あなたのためを思ってA社のことを話してるんだよ」「大学をやめてA社のビジネスで成功している人もいっぱいいるんだよ」と、なにを聞いても、純子はあくまでA社がどれだけ素晴らしいか、そして「あなたのためなんだよ」って言って私にA社を勧めてくるんです。まともな会話が成り立たないんです。

借金をしてまでA社をやり続けることが私はどうしても理解できなくて、それまではA社のことをスルーしてきたけど、A社への違和感や疑問が自分のなかで大きくなって、とうとうスルーできなくなりました。そうしてA社のことを調べはじめたのが昨年(大学4年)の11月です。

ネットにはA社の被害者の声がたくさんありました。マインドコントロールされたA社信者の行動パターンなどもありました。最初はどのサイトが本当のことを言っているのか、どれを信じたらいいのかもわからなくて、ただただ怖いという気持ちでした。でも、たしかにネットに書いてあるA社信者の特徴を読んでいると純子の言動と重なるところが多くて、ようやく「純子はマインドコントロールされているのかな?」って思いはじめたんです。だけど、まだ「本当に純子がマインドコントロールされているのだろうか?まさかそんなことが本当にあるんだろうか?」って信じきれなかったんです。

私は冷静になって、実際にA社の製品を使っているディストリビューターに聞いてみることにしました。そこで、A社のディストリビューターのKという人にtwitterで質問したんです。

だけどKに、たとえば製品のこと(サプリは本当に身体にいいのか?たしかな製品なのか?等)を質問しても、質問には答えようとしなくて、Kが自分が話したいA社のビジネスの話をしてきたりして会話が噛みあわないんです。その噛みあわない感じと、Kの発言内容が純子と同じだったので、「Kも純子もマインドコントロールされているんだな」って理解できたんです。

このときになってようやく、純子がA社を始めてからの違和感の原因がマインドコントロールだとわかったんです。純子からA社のことを聞いてから1年半以上がたって、ようやく腑に落ちたんです。そのあいだの純子の言動の変化や、いろいろ違和感を感じていたことの原因が全部マインドコントロールだったんだって。

Kも純子も質問をしても「調べなくてもA社のすごい人が教えてくれる」「A社仲間の言うことに間違いはない」「A社の製品を使えばわかる」「A社最高!」そんな回答ばかりでした。私は栄養学を学んでいることもあって、Kや純子がA社仲間やセミナーで聞いたという話には栄養学的に明らかにおかしいところがあるとわかるんです(たとえばWHOが言っていることと違ったり、厚生労働省のホームページに書いてあることを否定してきたり)。そのことを指摘しても、はぐらかされるばかりで、まともな返事は返ってきませんでした。

共通の友人に相談したら、みんな「純子はマインドコントロールにあっているよね。洗脳されてるよね」という意見で一致しました。純子は私だけでなく、共通の友人や先輩などの友人知人にA社の勧誘をしていたんです。夏休みに高校の部活の先輩との飲み会に行きたくないと言ったのは、先輩や友人をA社に勧誘したときに反対されていて、A社をやめるように強く言われていたからだったんです。

純子をマインドコントロールしているアップ(A社の上位会員)はインドだかフィリピンに家を持っていて家政婦もついているという夫婦です。知りたくもないから詳しくは聞いてないのですが20年ぐらいA社のディストリビューターをしているベテランらしいです。本業はなにをしているのかA社のビジネスだけで生計を立てているのかもわかりませんが、純子が言うには「すごい素敵な人」だそうです。なんの仕事をしているかわからないのにインドやフィリピンに家を持っていると聞いただけで、普通は怪しいと思いますよね。でも純子はアップのことを怪しいとは思ってなくて、「すごい素敵な人」ってすごく信頼してるんです。純子はアップの家で行われる料理教室やセミナーに通っているうちにマインドコントロールされてしまったようです。

栄養学の知識だけでも、そんな怪しいアップより、私のほうが専門的に学んでいるからたしかな知識があるんです。それなのに、純子は私よりもアップのことを信じて、アップの言うことはなんでも鵜呑みにしていることが悔しくて悔しくて。

でも、アップやその仲間たちは自分たちの言うことが正しいと信じこませる、マインドコントロールのテクニックを持っているんだなというのはわかります。「なんで騙されてしまうんだろう、あんなアップの言うことを鵜呑みにするなんてバカじゃないの」って思うんですけど、そこは巧みにマインドコントロールされてるんですよね。

大学をやめるときも純子は私になんの相談もしてきませんでした。普通はなにか相談があってもいいと思うんです。「今は詳しく言えないけど、やりたいことがある」と決めてから言われたんですけど、事前にA社のこと、大学をやめることを話したら必ず反対されるとわかっていたからなんですよね。

A社のディストリビューターって勧誘のときに「A社のセミナーや料理教室に来てることは家族や友人には言わないでね。みんなA社のことを正しく理解していないから。ちゃんとあなたがA社のことを理解してからみんなに話してね。そうじゃないと間違った情報を吹きこまれてしまうから」って言うということを知って、「ああ、純子もそう言われてるんだろうな」って思いました。アップやA社仲間は純子をマインドコントロールする前に、誰かに反対されるとA社が怪しいということに気づかれてしまうから、「誰にも言わないでね」って念を押している。純子はそのとおりに行動してマインドコントロールされたんです。

純子から大学をやめると言われたときは、もう手遅れだったんですよね。「大学をやめる」って言われたときは、とっくにマインドコントロールが完了していたんだなって。もっと早く気づいてあげられたらよかったけど、ぜんぜん気づかなかったんです。

純子に「マインドコントロールされてるかもよ?」って言ったこともあるんですけど、「マインドコントロールされていても、それで死なないんならそれでいい」って開き直るんです。「純子がしている勧誘には違法なところがたくさんあるよ。そのことについてはどう思うの?」って言ったときも、「違法なことなんてしていないよ。それはA社のことを正しく理解してないからだよ。気分を悪くさせたんなら謝ればいいんでしょ」って開き直って埒があかないんです。マインドコントロールされていると、A社に否定的なことにはまったく耳を貸さないんですよね。

今の私の心境は複雑ですが半分は割り切っています。「純子って、マルチ商法なんかに引っかかるような人だったんだなぁ」という諦めと、「A社についてもっと早く調べていたら」「見守らずにもっと初めから純子の話をしっかり聞いておけば」という後悔と、両方の感情がいつもせめぎあっています。共通の友人は、みんな純子を見放しました。私も昔みたいに純子とつきあうのはできないなと諦めています。悔しいし悲しいけど、純子とは距離を置いてつきあうしかないですね。

マルチ商法の恐ろしさはわかっていない人が多いし、実際に経験しないとわからないですよね。ましてや私も純子も学生です。なんとなく危険だということは聞いていても、それがまさか自分の身に降りかかってくるとは思いもしませんでした。実際に友人がマルチ商法にハマってしまう、そういうふうに自分の身に降りかかってきて、それではじめてマルチ商法の恐ろしさに気づくものなんだと思います。

純子は今もA社がマルチ商法だと思っていないし、騙されているとも思っていません。A社仲間に言われていることをそのまま信じて、純粋な気持ちでA社のビジネスを続けているんです。

私は4月から就職しますが、本当だったら純子も大学を卒業して普通に就職していたはずだった、そのことを考えるとやりきれません。でも、いくら友人でもできることとできないことってあるんですよね。純子がマルチ商法をやめるには自分で自ら気づかないといけないんだと思います。純子が自分から「もうマルチ商法は卒業したい」そうなってくれることを祈って待ちたいと思います。大学は卒業できなかったけど、マルチ商法は卒業してくれたら、ただそれだけを祈っています。

そしていつか、A社を始める前の純子が戻ってきて、たわいもない話だったり愚痴だったり恋愛の話だったり、昔みたいにそんな普通の会話ができる日が来ることを信じたいと思います。

※たくさんの人が苦悩しているマルチ商法の問題について、社会の関心を高めていきたいのが、このインタビューの目的です。応援してくださる方は、投げ銭よろしくお願いいたします。いただいたお金は交通費等の取材費用として使わせていただきます。

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マルチ商法といえば、原価スーパーなるアプリでネズミ講やろうとしている会社がありますね。SoftBankのLOHACO、SEIYUの宅配サービス、生協のPALシステム、Amazonのある時代に、いつものパターンで誰よりも先にやれば親になれる的なアレです。
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