美食エッセー少2

第16回 ジュネーヴで食べ損ねた中国式チーズフォンデュ

フランスのリヨンにいた頃、スイスのジュネーヴが鉄道で行ける距離にあるので、チーズフォンデュを食べてみようと思い立ち、リヨン・ぺラーシュ駅に赴いた。

リヨンには二つの駅があり、モダンなLYON PART DIEU、そして終着駅のLYON PERRACHE である。

日本からパリに着くと、そこで一泊し、リヨンまでTGVに乗った。リヨンは初めての街で、しかもこれから住むというのに生活するアパートも決まっていない。今はネットがあって事前に日本からやり取りできるのかもしれないが、当時はとにかく現地に行き、そこで不動産会社をまわって住む場所を決めなければならなかった。

パリなら日本人向けの情報を集めた新聞があったが、リヨンにはない。フランスに来たはいいが、アパートがないということがとてつもなく不安で、現地にはわたしの身分を証明してくれるひとも保証してくれるひともおらず、たったひとりでフランスに乗り込み、あるのは日本国籍のパスポートとフランス大使館からもらった学生ビザしかない。

とにかくネットがない時代だったから、情報が皆無のままリヨンにやってきた。TGVがリヨン市内に入り、その車窓から見える街の風景がしっかりとしたものになり、そして終着駅であるリヨン・ぺラーシュ駅に着いたときは喜びはなく、不安で脚が震えた。もしかして家が見つからず、すぐに帰国しなければならない事態になるのではと怯えていた。家を見つけるまでのホテル滞在費がどこまで持つかわからなかった。23歳のときである。

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