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強請り屋 静寂のイカロス

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強請り屋 静寂のイカロス 完結

第37話 その他付随する事々

 双生児事件の結末は、呆気ないものだった。

 警察は廃品回収業者を回り、充電式チェーンソーを発見、押収した。鑑識の結果、矢木源太郎の物と思われる血液反応が検出されたのだが、その直後、矢木大二郎は心臓発作を起こし、留置場で死亡した。警察は被疑者死亡で書類送検するしかなく、数々の謎を残したまま、双生児事件の幕は引かれた。

 ◆ ◆ ◆

 ですからね、刑事さん。朝陽

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強請り屋 静寂のイカロス 36

第36話 そしてすべては終わる

「次ですって? 殺人事件の説明はすべて終わったのではないのですか」

 殻橋さんの言葉は、その場に居た全員の思いだった。五味さんは一口タバコを含んだ。

「ああ、オレがここに来てからの殺人事件の説明は終わったよ。だが『一連の事件』の説明はまだ終わってない」

 その挑戦的な笑顔は誰に向けての物だったのか。

「次は下臼聡一郎さんのストーカー殺人事件だ。もちろんこの

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強請り屋 静寂のイカロス 35

第35話 逆流する真相

 二階、椿の間には長机が四角く並べられ、出入り口から一番奥の上座に殻橋さんと、その隣に朝陽姉様が、そして向かい側には五味さんが一人で座っている。殻橋さんに向かって左に渡兄様と風見さん、大松さんと竹中さん、最後に私が座った。閉じられた出入り口の前にはスキンヘッドの道士の人が三人立っていた。ピンと張り詰めた空気。

「ご自分から種明かしをすると言い出したのです、よもや逃げはし

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強請り屋 静寂のイカロス 34

第34話 ただ一つの解答

 午前八時。私が大広間に入ると、もう日月教団の出家信者が全員揃っていた。給孤独者会議の道士の人たちも二十人くらい居る。誰もハッキリした話し声など発していないのに、そこはザワザワと空気が揺らめいていた。

 辺りは暗く、演壇の上だけがスポットライトで明るい。もう少し前に出ようかと思い、何気なく足下に目をやって、声が出そうなくらいビックリした。ジロー君が膝を抱えて座り込んで

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強請り屋 静寂のイカロス 33

第33話 ハウリング

 六階の、かつてここがホテルだった頃にはスイートルームとして使われたのであろう部屋に、オレたち四人は放り込まれた。中は広いリビングとベッドルームの二間に区切られている。ベッドルームだけで、オレたちがさっきまで居た部屋と同じくらいの広さだ。テレビや冷蔵庫こそないが、リビングの真ん中には据え付けのソファが、大きな窓際には籐椅子が二組とテーブルがある。

 そのテーブルに手をつい

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強請り屋 静寂のイカロス 32

第32話 四つ目の事件

 そしてそのときはやって来た。十二月十九日、午前三時を三十分ほど過ぎた頃。突然オレたちの部屋のドアが開かれ、給孤独者会議の道士たちが無言で踏み込んできた。十人以上は居ただろうか。

「何だ貴様ら!」
「待て原樹、抵抗するな」

「しかし警部補」

 幸か不幸か、午前三時に何かが起きる事態に備えていたため、寝込みを襲われる事はなかったが、一瞬原樹の言った通り、給孤独者会議が

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強請り屋 静寂のイカロス 31

第31話 前提条件

 廊下で立ち話って雰囲気でもなかったので、オレたちは部屋に戻った。部屋の真ん中に四人で車座に座ると――ジローはいつもの通り部屋の隅で膝を抱えている――夕月の話を待った。言いにくい事なのか、しばらくモジモジしていた夕月だが、やがて思い切ったかのように口を開いた。

「私、この事件の犯人はわかりません。でも、父様が誰のために予言をしたのか、わかった気がします」
「ふうん、誰だ」

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強請り屋 静寂のイカロス 30

第30話 現場に戻る

 私は結論に近づいていた。そのはずだ。犯人が誰なのかはまだわからない。でも父様が誰のために予言をしたのかはわかる気がする。ただ自信が持てない。やっぱり五味さんに聞いてもらおう。そう思って部屋から出たとき、人の歩く気配がした。通路を曲がってみると、そこには人影が四つ。

「五味さん?」

 和馬叔父様の部屋の前に、五味さんとジロー君、築根さんと原樹さんの四人が立っていた。

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強請り屋 静寂のイカロス 29

第29話 終わりの始まり

 教団が生まれたとき
 僕は十歳
 母さんが一人で立ち上げた

 母さんは子供の頃から
 神様の声が聞こえた
 それを人々に知らせるために
 たった一人で教団を作った

 みんなに神様の声を伝えれば
 世界は平和になる
 母さんはいつもそう言っていた

 でも世間は誰も
 母さんの話を聞いてはくれなかった
 陰で笑い、唾を吐き
 僕には石をぶつけた

 そんなとき
 あ

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強請り屋 静寂のイカロス 28

第28話 事件の原点

 彼は思い悩んでいた
 答が見つからず苦しんでいた
 けれどそれも計画の一部
 僕はこう言った

 この次は、あなたたちの中から死人が出ますよ

 彼は驚いていた
 動揺していた
 けれどそれも計画の一部
 僕はこう言った

 夕月派の和馬が死に
 朝陽派の小梅が死に
 どちらでもない碧が死に
 ここに残っているグループは
 あなた方と、刑事と探偵
 ならば次に殺されるのは

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強請り屋 静寂のイカロス 27

第27話 内線電話

 部屋に戻ってすぐ、オレは夕月にたずねた。

「チマタって何だ」
「え? チマタ?」

「最初の予言に、夜のチマタの十文字ってあったろ。あれどういう意味だ」
「ああ、あの道俣はたぶん十字路の事。道俣神っていう、ヘカテーみたいな神様が日本神話にも居て」

 オレは天井を見上げた。何だよ、全然まったく完璧にどうでもいい話じゃねえか。何かの切っ掛けになるかと思ったんだが、思い出して

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強請り屋 静寂のイカロス 26

第26話 三つ目の事件

 夢を見ていた
 母さんの夢だ

 神を信じた母さん
 神に愛された母さん
 優しかった母さん
 そして僕を裏切った母さん

 時計を見る
 午前三時を過ぎたところ
 みんな眠っているだろうか
 それとも待っているだろうか

 闇に怯えながら
 静寂に恐怖しながら
 自分以外の誰かが死ぬのを

 だけどそれは叶わない
 僕は目を閉じる
 もう少しだけ眠っていよう

 まだ

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強請り屋 静寂のイカロス

第25話 次は誰だ

 次に誰が殺されるんだろう。予言通りなら、そして五味さんの推理通りなら、犯人はあと二人殺そうとするはず。私の頭の中は、それでいっぱいだった。こうして体を動かしていなければ、そればかり考えて頭がおかしくなりそう。

 もしかして私だろうか。でも不思議と、そう考えても怖くなかった。本当に怖いのは、その逆。私だけをおいて、みんなどこかに行ってしまう事。独りぼっちになる事。だけど。

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強請り屋 静寂のイカロス 24

第24話 トリック

 ジローはカレーライスを犬のようにむさぼり食っている。そのあまりの勢いに、向かいの席の原樹は唖然としているが、いまさら気になどしても仕方ない。築根は原樹の隣で黙々とカレーを食べている。オレも自分の前に置かれたカレーをスプーンで口に運んだ。甘い。辛さより甘さが先に来る。これはあまり量は食えないな。非常食の方がまだ口に合う。ふと隣を見ると、ジローは顔を上げて虚空を見つめている。食

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