二年前の日記 12/31

2017/12/31

 イランは中東の大国である。世界のイスラム教シーア派の中心地と言って良いのだろう。アメリカから「悪の枢軸」と名指しされ、欧米を中心とした世界中から経済制裁を受け――核合意によって一応制裁は解除されたが――サウジアラビアを中心としたイスラム教スンニ派勢力と敵対し、イスラエルと敵対し、ISに代表されるスンニ派のイスラムテロ組織とも敵対しながら、それでも国家として存続し続け、国内を安定させてきた。いわば北朝鮮の上位互換のような国なのだ。しかしそれでも穏健派のロウハニ大統領が就任してから少しずつ国際社会に歩み寄ってきた。核合意がその証である。そういう意味では北朝鮮の何歩も先を行っている国でもある。

 そんなイランの都市マシャドで28日、反政府デモが発生した。元より言論表現の自由や集会の自由が認められている国ではない。当然規制を受ける。しかし翌29日には、全国の都市にデモが広がった。イランで全国規模の反政府デモなど極めて異例である。治安当局は放水車で足を止め、参加者を逮捕しているが、民衆は投石で反撃しているという。少し前の『アラブの春』を思い出す。少し遅れた春がイランにまで達したのだろうか。

 30日にもデモは収束する気配を見せず、拡大しているらしい。デモが治安当局と衝突し、射殺された者も出たとの報道がある。デモの動画が続々とインターネットに上がっているようだし、これもアラブの春っぽい。デモ参加者は口々にロウハニ大統領や最高指導者のハメネイ師を批判し、政策の失敗を叫んでいるという。

 元々イランは一枚岩ではない。ロウハニ大統領を中心とした穏健派と、アフマディネジャド元大統領に代表される強硬派との間には溝がある。今回のデモも強硬派が裏で糸を引いている可能性もあるのでは、と思うのだが、BBCの分析によればそれはないらしい。あくまで自然発生的なデモが拡大したというのだ。それはそれで根の深い問題がそこにはあるのだろう。

 イランは中東でシーア派の勢力を拡大するためにイラクやシリアに兵を派遣し、カタールやイエメンやレバノンのシーア派勢力を支援している。それには当然金がかかる。そこに金がかかるということは、国内の庶民の生活にまで金が回らないということでもある。もはや国民の我慢も限界に来ているのかも知れない。

 今回のデモがイランの国家体制を転覆させるような、市民革命に繋がるものかはまだ判断は出来ないが、今後のイランの政策を変えうるインパクトがあるのは間違いなかろう。デモが長期化して内乱などとなれば、いかなイランといえども無事には済まない。なるべく早急に収拾を図るだろう。そこで武力による鎮圧を選択すればどうなるか、シリアでいやというほど見てきたはずだ。さすがに同じ轍は踏むまい。たぶん踏まないと思う。踏まないんじゃないかな。まちょっと覚悟は……したくないなあ。

 さて、明日から正月だというのに、北朝鮮の動きが活発化しているのだそうな。新型の長距離弾道ミサイルの発射準備に取りかかっているという。働き者なことである。

 時事通信によれば、北朝鮮労働党の機関誌『労働新聞』は30日、「世界は2018年、自力自強(自力更生)の偉大な力を余すところなく発揮するわが国の姿に、さらに大きな衝撃を受けることになろう」と論評したという。ミサイルを発射したいという意思は間違いなくあるのだろう。ただ、発射の時期については報道によってえらく差がある。

 30日付け朝日新聞には「機体の開発はほぼ終わっているが、発射準備には今後、半年程度を要する見込みという。情報関係筋によれば30日現在、東倉里の発射場も含め、北朝鮮内で弾道ミサイル発射に向けた具体的な兆候は確認されていない」とある。一方同じく30日のCNNの記事では「複数の米当局者は30日までに、CNNに対して、北朝鮮が年明けのいずれかの時点で弾道ミサイル発射実験を行うための準備を進めている可能性があると明らかにした。最近の機器の移動の様子などから、衛星打ち上げではなくミサイル発射を行う公算が大きいとしている」と報じている。果たしてどちらが正しいのやら。まあ一番良いのはどちらもはずれて、「発射しない」という結末になることなのだが、それはなかなか難しいか。

 何にせよ、戦争だけは起こさないでほしいと願う。戦争が怖いのだ。もの凄く怖い。情けないと言われようと知ったことではない。怖い物は怖い。だから戦争についてもっと話し合って欲しいと思う。国会議員だけが話し合えば良いというものではない。戦争で死ぬのは我々国民なのだ。ならば我々こそが話し合わねばならないはずだ。タブー視せず、もっと話し合い、戦争とは何なのかを国民一人一人が理解出来るような環境が必要なのではないか。

 そのために政治やマスコミにはできることがたくさんある。是非ともその持てる力を使って国民の間に議論を広め、深めてもらいたい。期待のし過ぎは絶望を呼ぶのでほどほどにしておくが、自分はまだ期待している。そういう声もあるのだと知っていただきたいところである。


 世界最高峰エベレストはネパールと中国の国境線上にある。そのネパール側からの登山に対し、新たな規制が設けられたという。ネパール当局は登山をより安全にし、事故を減らすために、エベレストを含むネパール国内の山について、単独での登山を禁止した。ということは、どうしてもエベレストの単独登頂を狙いたい登山家は、中国側から登らねばならないということになるのだろうか。まあ登山というのは自分には理解できない世界である。当局者が仕方ないと言うのなら仕方ないのだろうという感想しかない。

 ただこのAFPの報道で面白い――という言い方は不謹慎なのかもしれないが――と思ったのが、今後「両脚か両腕、またはそれぞれなくしている人や、目の見えない人」の登山も禁止する方向であるというところだ。たしかに海外のニュースなどを見ていると、体に障害を持った人が困難な冒険に挑む話を時折見かける。それは美談として報じられることが多いのだが、山の安全を管理する立場から言えば、やはり迷惑なのだろう。どこぞの24時間テレビの中の人が舌打ちしそうである。もっともあの番組はエベレストでなければ成り立たない訳ではないから、別段痛くも痒くもないのかも知れないけれど。


※ イランでは今年も大規模な反政府デモはありましたが、体勢を転覆させるような事態にはなっていません。一方でロシアや中国との距離を縮め、また別の方向では日本との距離を縮めています。その分アメリカとの溝は深まっているようにも思えるのですが、何にせよイランがひっくり返ると中東全体に大きな影響があるでしょう。アメリカにとって好ましい事だけが起こるなどという上手い話はありません。何とか穏便に次の段階へと移行してもらいたいものです。

 そんなこんなで大晦日です。本年中はお世話になりました。また来年もよろしくお願い致します。
                             柚緒駆

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