レースにおけるインテリジェンス
変化の時代と呼ばれる昨今は、経歴で人の能力を判断していた時代から、本人の能力そのものを評価する時代に突入しつつあります。
それは現代を生きることが、競技の世界のごとく荒波のなかを小舟で漕ぎ出す様を示唆します。
ロードレースにおいては、スタートラインに立った瞬間から選手の立場、経歴、社会的地位が意味を成さないことがそれらを象徴しています。
勝敗を決するのは、脚力と地頭のよさ、そして少しばかりの運を引き寄せる能力くらいなものです。
パラレルレース
クリートをペダルに咬ませた選手たちを、プロとアマチュアに別けようとすることはナンセンスです。
プロトンを構成している時点で、そういった議論は不要なのです。
必要なことは、レースという戦いを反芻するところにあります。
スタートリストを眺め、コースプロフィールから展開を予知し、勝つまでの道程を描くことがなにより重要です。
号砲が放たれ、予想外の展開に驚き、プロトンの雰囲気とエスケープの情報から内情を読み解く力が試されます。
ときに、他チームとの交渉力も求められることでしょう。
ヘルメットの奥で、実際に位置しているレースとは別のレースが進行しています。
死力を尽くしフィニッシュラインにたどり着けば、考えうるすべての動きを洗練させることが未来の勝利を手繰り寄せることに気づくはずです。
勝敗による胸中のさざなみは、天候に左右される気分のようなものでしかありません。
佐野選手のことば
『本当に頭のいい人って、目線をあわせて話せる人だって思うんだ』
6年前のツアーオブカタール。
食卓を囲んだ折に聞いた佐野選手の一言にいまも感動を覚えます。
フォーブスのコラム『地頭が良い人には苦手な人間がいない理由』によれば
地頭がいい人の思考癖とはどんなものでしょうか。一言で言うと、「ある2つの物事に対して、抽象度を上げ下げしながら、共通点を見出す」という思考パターンです。
例えば、野球の巨人ファンと阪神ファンは犬猿の仲で有名ですが、一つ抽象度を上げると、どちらも熱狂的な野球ファンであると捉えられます。
まとめると、地頭の良さとは、物事を、複数の視座から考え続ける習慣です。
これらはレース(言うなれば社会)をともに動かすであろう、相手を知るきっかけとなりうる可能性があります。
勝利の先に待つ闘い
レースとは、自分や自チームのみで戦っているわけではありません。
そこには必ず、誰かの思惑というものが存在しています。
それらを一助とするか、圧倒的な力をもって制するかを決めるところに、本当の闘いが待っているように思います。
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