人喰い女、飛行機、弓矢



古い和室
その六畳部屋に住むカップル
俺はそれを第三時点で見る同居人

男 冴えない感じ
女 岬の兄弟に出てくる女みたいな
知恵遅れなんだけど
まだわずか女の色気とあどけなさが
残る感じ 天真爛漫系

彼女と彼は毎晩とセックスをするが
その前に彼女から求愛なんだろう
小さな箱のプレゼントを彼に渡す


恋の罪に出てくるような
事件現場特有の不気味さと
空気がいいとは言えない
湿度のある部屋でっていうのかな


プレゼントを渡した時の描写

枕元の古びたランプ
壁のしょうじに照らされる二人の影
温かみのある感じ

時々彼が頭を抱えていたり
彼女が楽しそうだったり
二人の喜怒哀楽にはズレがあった


ーーーーーー

季節を問わず雨は降る
夢の中では雨が降ると
スズメの囀りが聞こえてきて〜と
わけわからんことを話すおばさんもいた

何言ってんだと思いながら
雨の日に耳を澄ますと
確かにキュルキュル、みたいな
キーキーした 不快な
黒板を爪で引っ掻くような最悪な
そんな音色が響きわたってた

この家の屋根を伝う雨がそうなのか
わからない

ただずっとキーキーと
鳥のなくような音が
雨の中には混じっていた


ーーーーー

プレゼントの箱を開けて
箱の裏が見えるようなシーンに変わって
それを見た彼がその手紙の存在に
気づいたのに読まなかった

そのことに彼女はヘラヘラと
なんでー?なんでー?と問い詰めていた
あくまで求愛範囲のような
彼の袖を掴んでプラプラさせながら
駄々をこねるような

頭を抱えていた彼が
渋々折れて、じゃあ読むねって

むかしの童謡なんか知らん
かもめかもめ かもめのなかの
とおりは バリのひらがなが
意味不明に書かれてて

読んで!読んで!歌って!って
またせがまれていた

口に出して読んでくれ
私の愛を読んでくれ
そのあとに私をいただきなさい

下からのようで
要求は傲慢な感じがジワジワと顔色に
現れていたな

読めない
読め 読めない 読め
その押し問答がぐわわっと続き
ぼくの耳には彼女の怒鳴りと
彼の怒鳴り、雨、キーキーした音が
どんどん大きく量をまして
黒目から外側に向かって女の目の中が
赤く地走って血たぎって
泣いてんのか笑ってんのか怒ってんのか
わけのわからないことになっていた

ふざけてやってんのか
大真面目にこれから殺されるのか

これ以上聞いていたら
この光景を見ていたら
なんだか頭が狂いそうだと思った時

さっきまでのあったかいしょうじが
あいつの目ん玉同様に真っ赤になった
お化け屋敷みたいな
暗く照らされた赤ライト
血飛沫のようなものがこびりついてた

俺の目線はその赤色に釘付いて
パッと場面は変わった

女の魚?ではないんだけど
人魚と思えるくらいのフォルムが
チラッと見えた気がした
そこには手足が生えてバッタみたいで
玄関まではヌルヌルした引きづり後

どぅるどぅるした血の塊みたいな
沼の底みたいなドロドロが
玄関に続いてて
男はもうそこにはいなかった


ーーーーーー


毎日彼女が彼にあげていたあの箱
何もない日は何もなかった

この違いはやっぱり
箱の裏の紙と、雨と、キーキー音
天気のいい日の夜には
そんなことは起こってないということ

村の人の昔話みたいな
スズメの鳴き声が〜のくだりを
もう一回思い出してみて
ぼくはまた夢の続きを見る


ーーーーー


静かな夜 平凡なカップルの日常
今日は雨降るのかなあと思って
窓の外を見てた

そしたら聞こえてきた
ポツポツと雨の音が

風呂に入って
寝床について
枕元のランプを灯して
やっぱりそこまではいつも通り

彼女は彼にプレゼントの箱を渡して
早く開けてー早く開けてーと
凄く楽しそうだ
彼は雨の音で察してたのかな
いつだって
彼には聞こえてたのかな
このキーキーした音が
今夜の女の笑顔の意味が

じゃあみるねーって作り笑いしながら
悟ったように箱を開ける
手元のアップになる

しっかり蓋の裏に貼られている紙
その日は桜色だった
時に抹茶色
どうでもいいけど今思うと
時代背景をダイレクトに入れ込むなあ、って
逆に関心してた はい

ありがとうと受け取って
じゃあ寝ようかーと話を逸らすと
やっぱり彼女は悲しそうな顔をして
でもやっぱりニコニコしながら
なんでー?なんでー?と問いただす

その女の声に負けじと雨も強くなる
徐々に聞こえてくるんだよな
キーキーキーキーキーキーキーキー

空気は一変して
ああやっぱりと全てがつながった
この女は雨の日におかしくなる
それを彼は何度も目の当たりして
毎晩覚悟を決めていたこと

そんな描写を記憶してたら
カメラアングルが男の手元
絶望感を漂わせたあと
箱を閉じるゆっくりしたスピードに合わせて
閉じた箱ごしに女の顔が見えてくる
目が真っ赤になったあの女の顔が
今にも大口広げてピラニアみたいに
人肉を食い荒らすような
ニコニコしながら男のこと見てた


ーーーーーーーー


ヒズミという映画にも出てくるような
家の中に処刑台があるみたいな
謎の設定

ストッキングが天井から
二つ輪っかになっていて
女が楽しそうにそこに首をかけて
これめっちゃ閉まるんだよーって
爆笑してた

ねえなんでみんなやんないの?って
俺の方も見てきた
鬱血した顔面で
目ん玉が飛び出そうな顔面で

早くゆらせーって周りを煽ってた
ブランコみたいな勢いで
右往左往していた

もう一人頭のおかしな女が来て
もう一つのストッキングの輪っかに
首をかけると その重さで
どっちの首ももっともっと閉まっていった

俺はその理解できないテンションや
遊び感覚が狂気じみすぎてて
見ていられなくて
ずっと下を向いていた

もっと押せーとか
もっと引けーとか
うるさいうるさいうるさい怖い

苦し紛れの中に挟まれる
村の人たちの爆笑や談笑も


ーーーーー


近未来みたいな飛行機に
俺は新品の制服を着てフライトした

きっとこれは輝かしい職業なんだろうと

後輩に背中を向けて堂々と
エスカレーターみたいなところを
通過して、座席に座って
LINEでお父さんに
いつもありがとう
行ってきます!みたいな
ポジティブな文章を打った後
爽快に前を向いたら

なぜかそこから見える景色
察するに俺は特攻隊に切り替わってた
LINEを二度見すると
今までありがとう
さようなら、という文体に変わってた

制服もボロボロで
高画質ハイビジョンレベルの映像が
たちまちブラウン管クオリティになり
ノイズがかったセピアになってた

あまりのシーンチェンジのスムーズさに
夢の中でもパニくる隙もなく
ゆっくり目を瞑って死を覚悟してた

ーーーー


よくわからんおじさんが
酔っ払いながら俺に
戦争の話を、しかも飯中に
いじって話してくる

お前グロいの苦手なんだろーって
弓矢で人を殺したこと、
殺されかけたことはあるか?って

果物に箸を突き刺すような感覚
一つ一つの繊維が
ブチブチと音を立てる中
水分がしたたる
そんなのをイメージしろと

「みずみずしいんだよね」

この言葉が忘れられない
ベチャベチャした飯食ってる時だったから
話はどんどん続いて
吐き気を催しながら食うしかなかった
スゲー不快な夢だった


人喰い女と飛行機、弓矢の感触








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