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 インバウンド景気再来から起きるインフレ加速の構図



 インバウンド景気再来から起きるインフレ加速の構図


 日本の株価は2023年~2024年にかけて40%以上の上昇をしており、1980~90年代のバブルを超して、過去最高水準となっている。その要因には新NISA制度により個人の投資熱が高まっていることもあるが、それ以上に大きいのは海外投資家の影響である。彼らにとって、円安は日本の株を割安で購入できること、中国の景気が芳しくないため、日本に流入する中国マネーが増えているという分析もある。

株価が上がるのは良いことだが、それに伴う弊害もある。これから想定されるのは、日本でも本格的なインフレが到来することで、外国人旅行者が訪れる観光地から起きている。北海道ニセコ町にあるニセコアンヌプリ国際スキー場のランチメニューでは、ホットドッグ1800円、カツカレー2400円、海鮮丼が3800円、牛めし3400円、本タラバガニラーメン3800円という価格で、1000円以下のメニューは見当たらない。

ニセコアンヌプリ国際スキー場ランチメニュー

ニセコ付近のレストランディナーは3~8万円というコースでも賑わっている。地元で獲れた新鮮な食材を安く食べられるのが北海道の魅力であったが、外国人相場が定着していくと、日本人にとっては身近な食事ができなくなってしまう懸念もある。地元の高級食材が、外国人富裕層向けに値上がりしていくと、地産地消は最も贅沢な食事になってしまう。

各国の生活費を市民からの投稿により集計している「Numbeo」によると、日本の生活費指数は、世界47位にランキングされており、香港や韓国よりも低い。これは、日本の物価が安いことを示しているが、株高円安は物価上昇を加速させる要因になる。
Cost of Living Index by Country 2024(Numbeo)

中国人が日本旅行をする予算は、1週間の日程、2人で約2~4万元(約42~84万円)と言われている。東京、箱根、京都、奈良、大阪までを観光して、食べ物はラーメン、うなぎ、カツ丼、和牛のしゃぶしゃぶ等を楽しむが、寿司は日本旅行で外せないグルメであり、予算に余裕があれば1~3万円の高級店に入ることが推奨されている。

中国では、住んでいる地域や職業によって所得水準が大きく異なるが、このような日本旅行ができるのは「大衆富裕層」と呼ばれる、サラリーマンの中でも高年収者が増えていることが関係している。


【中国人の所得階層とエリート人材の悩み】

 日本の1人あたりの名目国内総生産(GDP)は3万4000ドルであるのに対して、中国1人あたりGDPは、2022年の統計値では8万976元と報告されている。現在の為替レートで換算すると1万1200ドルとなり、日本よりもまだ低いが、1億円以上の純資産を持つ中国人富裕層は約1400万人と推定されており、日本の富裕層世帯(149万件)よりも多いのだ。

さらに純資産が2500万~1億円未満の層は、中国で「大衆富裕層」と呼ばれて、1億人以上に増えていることが、日本のインバウンド景気にも好影響を与えている。大衆富裕層は、世代的にも若く、30代~40代が中心となっているため海外旅行にも積極的である。

中国政府は、3人家族で年収10万~50万元(約200万~1000万円)の世帯を、生活に困らない中間所得世帯と位置付けているが、大手ハイテク系企業に勤めるエンジニアや上級公務員は年収25万元(約500万円)以上を得て、レジャーを楽しめる余裕も出てくる。そこから投資も行うことで資産額を増やした「大衆富裕層」のクラスが増えている。

ただし、中国のエリート人材は、仕事に対するプレッシャーやストレスも大きく、規制が少ない海外生活には憧れを抱いている。現在の仕事を辞めて海外移住をしようとまでは思わなくても、自分の子どもには海外教育(留学)をさせたいと考える親はおよそ7割という調査結果が出ている。そのための視察として、家族で日本旅行を計画する大衆富裕層は増えている。日本を留学先と検討する理由は、世界でトップクラスの教育が受けられる中でも、欧米大学と比較して学費は3分の1程度と安いことと、中国から近いことがある。

日本の文部科学省の統計でも、外国人留学生の中で中国人は最も学生数が多い。そのためインバンド観光の中でも、大学の見学や下見ができるツアープランは有意義なものになる。中国では、大都市に住むエリート世帯ほど「一人っ子」の割合が高く、平均で4割、上海では6割にもなる。彼らの中では、無理をしても子供の教育費にはお金をかけたいという価値観があり、中国学生の留学市場は今後も成長していく可能性が高い。

Japan Business News
JNEWS LETTER 2024.3.1 より抜粋

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